クリエイターインタビュー|後藤 亜紀さん(前編)
宮城県南三陸町にある「株式会社ヤマウチ」のインハウスデザイナーとして、商品のデザインやプロモーションなどを行っている後藤 亜紀(ごとう あき)さん。ヤマウチの商品、そして地元である南三陸に愛着を持って意欲的な取り組みを続ける後藤さんに、お話を伺いました。
―まず、ヤマウチについて聞かせていただけますか?
ヤマウチは、魚介の生鮮品・加工品の製造販売を行っている会社です。加工品については、仕入れから製造までのほとんどを自社で行っています。南三陸さんさん商店街の「山内鮮魚店」、インターネットでの通信販売、BtoBの販売も行っています。
―水産会社に「デザイン室」という部署があるのが驚きでした。
実は専務がプロカメラマンで、ヤマウチとは別にデザインや動画制作の会社も経営しているんですが、商品デザインに力を入れていきたいという彼の思いが部署開設のそもそものきっかけなんです。
私は以前、南三陸町の印刷会社に勤めていたんですが、ヤマウチの商品カタログなどの印刷も受注していて。入稿データの写真のきれいさに驚き、デザインや撮影をヤマウチの社内でやっていると知りさらに驚き、ずっと気になっていたんです。そこから専務のことを知り、知人を介して声をかけていただきヤマウチに入社したのが2016年のことです。専務とは採用面接のときに初めて会ったんですが、初対面にもかかわらずデザインの話で1時間以上も盛り上がってしまいました。
―印刷会社にも勤められていたとのことですが、もともとデザインの仕事を目指して勉強されてきたんですか?
印刷会社に入るまでは何も勉強していませんでしたし、デザインの仕事をやりたいという考えもなかったです。高校時代も特にやりたいことがなく、何となく都会への憧れで横浜の建設会社に事務として就職したんですが、数年で地元の南三陸町に戻ってきました。ちょうどそのタイミングで印刷会社の求人が出ていたので、自分に向いているかもしれないと思って就職したんです。
―どうして向いていると感じたんでしょう?
高校生の頃、パソコンの授業でデータを入力したり図形をつくったりするのが楽しかった記憶があったんです。中学生時代に学校新聞をつくる課題で、インタビューをまとめたり、紙面にレイアウトしたりするのがすごく楽しかったことも思い出して、もしかしたら向いているのかなと思ったんですよね。
―では、印刷会社に入ってからデザインを勉強されたんですか?
そうですね。行政や学校の広報紙など、フォーマットが決まったものにデータを入力したり写真を並べたりする仕事を通じ、ソフトの操作を学ぶことから始まりました。レイアウトや色の組み合わせなどデザインについて勉強し始めたのは、何年か経験を積み、イベントチラシや旅行会社のパンフレットなども任されるようになってからだと思います。
―ヤマウチでの仕事について教えてください。
私が入社するまでは専務が1人でデザイン関係の仕事を担当していたんですが、私が入るタイミングでデザイン室が開設されました。デザイン室では、自社商品のパッケージデザイン、商品撮影、通信販売向けのカタログ制作などを行っています。以前から、ヤマウチのブランド化という目標が社内にあったので、既存の商品、特に加工品について少しずつデザインを見直していきました。
デザイン室ができて3年目になりますが、最近は通販事業部の2人も加わり、SNSやウェブサイト用の動画制作など仕事の幅も広がってきています。初めてのことばかりですが、新しい仕事を通じてできることが増えてきている実感があり、楽しくやりがいを感じながら働くことができています。
―以前の会社のように、クライアントから発注されたものをデザインすることと、自社のものをデザインすることには、どんな違いがありますか?
自社商品のよさは、当然自分たちが1番知っているので、それをダイレクトに伝えられることが大きな違いかなと思います。新商品を開発するときは、試作段階から私たちも参加するんです。味見をしたり、製造におけるこだわりを間近で見聞きできるので、「ここはお客さまに伝えたい」というポイントもよくわかりますし、デザインのイメージもつくりやすいんですよね。それに、商品開発の過程から見ていると、完成したらどうやって売っていこうか、どういう食べ方を提案しようかと、愛着を持って楽しみながら考えることができるんです。
―製造販売がメインの会社で一貫してデザインを行う上で、気をつけていることはありますか?
瓶詰めやラベル貼りなど、他の社員が行う作業のことも考えてデザインするように心がけています。例えばこの商品のラベルは、もともと食材ごとにラベルの色が違っていて、ラベルを貼り間違えるリスクがとても低かったんですね。デザインを見直し白に統一したことで、慣れるまでは「わかりにくくて作業がしにくい」という声もあがっていました。その代わりにというわけではないんですが、瓶の前面と背面で2枚に分かれていたラベルを1枚につなげて、作業時間が短くなるように工夫しました。
1番はいかにお客さまに商品の魅力を伝えるかを考えるのですが、やっぱり一緒に仕事をしている仲間として、デザインを変えたことで手間が増えたら申し訳ないなという気持ちも強いです。デザインを変えて売り上げが伸びても、製造にかかる時間が増えてしまっては元も子もないので、製造担当者たちの声も聞いてデザインをするように気をつけています。
―社内でいろいろな意見が出ると、まとめるのが大変そうです。
デザインの見た目の評価は好みが出るので、やっぱり賛否両論あります。ただ、すべては結果だと思うので、最終的には売り上げの変化でデザインを評価するようにしています。
―デザインを変えて、売り上げに変化はありましたか?
加工品の売り上げが伸びましたね。そもそもブランディングの1番の目的は、加工品をヤマウチの主力商品にすることなので、成果が上がっていると言えるでしょう。現在売り上げの割合は生鮮品が高いですが、年ごとの収穫量に売り上げが大きく左右されてしまうことが課題で。その点、加工品は安定供給が見込めるので、売れる加工品を増やしていくことで売り上げの増加と安定化を図ることが狙いです。
―売り上げを見ながらデザインを評価できるのは、インハウスのデザイナーならではですね。
以前は、クライアントにデザインを納品するところまでで仕事が完結していて、広告の反響はあったのか、商品は売れたのかという結果を知る機会がほとんどなく、「結局あのデザインはよかったんだろうか」と思うことが何度もありました。今は、自分たちがつくったものの結果が数字で見られて、やりがいにもつながっています。それと、お客さまと直接コミュニケーションを取れる点もやりがいになっています。SNSでいただく感想など、お客さまの生の声をデザインや広報に直接反映できるのがおもしろいですね。
―具体的に、お客さまの声がデザインに影響したことはありますか?
以前、ホヤのポテトチップスをつくって販売したことがあるんですが、そのパッケージデザインは数名のお客さまへのヒアリングを経て決めました。パッケージデザインやネーミングについて意見をいただきながらの開発はとても楽しく、おかげさまで商品も完売しました。
ヤマウチには、SNSで魅力を広めてくれたり、商品愛の強いリピーターのお客さまがとても多いんです。本当にありがたいことですよね。これからもできるだけお客さまの声を商品づくりにつなげていきたいと思っています。
取材日:平成30年10月18日
聞き手:仙台市地域産業支援課、工藤 拓也
構成:工藤 拓也
前編 > 後編
後藤 亜紀
南三陸町出身、在住。
株式会社ヤマウチ デザイン室
町内印刷会社にてDTPオペレーター、グラフィックデザインを経験。
2016年より株式会社ヤマウチ デザイン室に勤務。