クリエイターインタビュー後編|黒川 美怜(イラストレーター/グラフィックデザイナー)
クライアントのイメージが一番大事。そのためなら私の色はなくていいと思っています。
黒川美玲さんは東京でエディトリアルデザインの経験を積み、仙台ではフリーランスとしてイラストやグラフィックデザインを手がけている。取材中、彼女は笑いながら「私は地味ですよ」と語った。しかし「地味」の奥には、ひたむきに仕事に向き合い、クライアントのために必死に考え抜く格好いい姿がある。そんな黒川さんの仕事に対する想いを伺った。
―会社を辞めて、なぜ仙台でフリーになろうと思ったんですか?
会社に長くいるとどうしてもレイアウトにパターンがなくなってきて、自分の成長のためにも会社から出たほうがいいなと思い退職したのですが、私の中にこのままずっと東京に住むようなイメージはなかったんです。ちょうどその時期に結婚も控えており、地元に帰ってフリーランスとして奮闘してみようかなという気持ちになったので仙台を選びました。
―仙台での最初の仕事はなんですか?
大学時代の友人が山形県の印刷会社で働いていて、そこから外注で仕事を少し頂いたり勤めていた会社からキャラクターデザインのイラストの仕事がありました。でもフリーランスとして駆け出しの頃はお給料が少なかったので、1年間は宮城県美術館でアルバイトをして兼業していました。
―幅広いイラストのテイストがありますね。いくつものテイストを使い分けるのは辛くないですか?
私が描くイラストはデザインに「添える」イメージです。第一にデザインで見せたいものがあってイラストはそれを装飾するものなので、できるだけクライアントの要望に合わせてテイストを変えています。正直、デザインもイラストも私の色はなくていいと思っています。クライアントのイメージが一番大事だと思っているので、テイストを使い分けるのが苦じゃないんです。でも、私が自由に描いたイラストでお願いしたいと言われたら、それはすごく嬉しいですね。
―イラストはデザインの延長線上にあるということですね。
はい。デザイナー目線で構図などを視野に入れながらイラストを描くことができるので、そこが私の強みになっていると思います。
―印象に残っているお仕事はありますか?
雑誌『ランドネ』(エイ出版)のキャラクターや付録のイラスト兼デザインをずっと任せてもらっているのはありがたいですし、仕事をしていてすごく楽しいです。あとは、最近デザインを担当させていただいた仙台市のプレミアム付商品券。コンペに参加したのですが、審査員の満場一致で私の案を選んでいただいたお話を聞いた時はとても感動しました。
―イラストやデザインを拝見し、老若男女に配慮したお仕事を考えられているのかなと思ったのですが、仕事をするうえで気をつけていることを教えてください。
まさしく私が気をつけていることを言ってくださって嬉しいです。誰にもストレスを与えない仕事をするように心がけています。特にフライヤーは大量の情報を入れたいツールなので、どの情報も過不足なく読んでもらうにはどうしたらいいかなど、見やすさも重視して制作しています。その作業は会社勤めの時に雑誌のレイアウトで培った経験がかなり活きていると思います。
―なるほど。反対に、大変だった仕事をお聞きしてもいいですか?
仕事での辛さはないのですが、フリーランスの孤独の辛さを痛感しています。私は基本的に自宅で作業していて、外注だからこそかもしれませんが部屋の中だけで全てが完結してしまうんです。メールで仕事依頼が来て、何回かやりとりをして終わり。カメラマンさんやライターさんと一緒にヒアリングしながら仕事をしていくデザイナーさんもいらっしゃいますが、そうじゃないデザインの仕事も結構あるんですよね。チームで働いていたらチーム同士でチェックやアドバイスをしてくれる人の目線があるのに、いまは全くありません。全てが自己責任になります。本当にこのデザインでいいのかと自問自答していると、自分自身に押しつぶされそうになりますが、そんな時は近所を散歩したり、図書館に行ったりして気分をリフレッシュしています。
―フリーランスとして仕事をされていて、黒川さんの目に仙台はどのように映っていますか?
仙台には仕事上のネットワークがあると感じているのですが、私はまだその輪に踏み込めていない気がしています。もっと早い段階でそれを自分で開拓すべきだったと思います。ですが、自分で協働クリエーターとして仙台市のフリーペーパー『TAD』(※)に申し込みをしてからは色々な方と素敵な出会いがあって仕事も広がっているので、一歩踏み出すだけで簡単に繋がっていくのが仙台なんだな、と実感しています。
(※)『TAD』(とうほく あきんど でざいん):2017年度〜2019年度まで仙台市にゆかりのある協同クリエーターが公募で集まり、年3回発行していたフリーペーパー。仙台市経済局と協同組合仙台卸商センターの協働事業「とうほくあきんどでざいん塾」(現So-So-LAB.)が監修。
―仙台で働いていて「もっとこうなったらいいのに」と思うことはあれば教えてください。
仙台に知り合いがいない人は、既にできあがっているネットワークへの入り方が分からないと思うので、なんらかの方法で仕事仲間と簡単に繋がることができたら嬉しいと思います。あと、仙台のデザイナーさんは力があるのに影の存在になってしまっている印象を受けています。街中を歩いていると「〇〇さんのデザインだ!」と気づくことが多いのですが、同時に「こんなに素晴らしい仕事をした方がいるのに、果たしてどれくらいの人が知っているのか」と頭をよぎるんです。限られた人だけが知る情報になっているのが勿体無いと感じています。
―今後、挑戦したいことはありますか?
個人的な好みで言えば、子ども関係のお仕事ですかね。子ども向けワークショップのフライヤーなどを制作してみたいです。でも、本当にチャレンジしたいことは営業です。仕事の幅を増やしていくためにも営業していかなきゃいけないなと自分を奮い立たせています。
―最後に、デザイナーやイラストレーターを目指す方々に向けてメッセージをお願いします。
学生さんだったら、長期休みは家にこもらず外に出たほうがいいと思います。発想力だけじゃなくて人間性を磨いたらもっと輝く子がたくさんいるし、社会に出て仕事として何かしたいのであれば、人間性や常識を早いうちから身に付けると将来に得るものが多くなる。だから社会の仕組みを知ったり考える力を養う経験をして、新たな価値観に出会ってくださいと伝えたいです。
取材日:令和元年10月4日
撮影協力:アズタイム
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:小泉 俊幸
前編 > 後編
黒川美怜
1987年生まれ、仙台市在中。東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科卒業。東京のデザイン会社にて主に雑誌デザインに携わり、2016年よりフリーのデザイナー・イラストレーターとして活動。
印刷物やイラストをメインに制作を行います。2018年より東北芸術工科大学企画構想学科 非常勤講師。