クリエイターインタビュー|宍戸 由佳(米粉マイスター協会認定講師)
アレルギーがあっても健康志向の方でも、周りに気を使うことなく純粋に美味しいと思うものを届けたい。食から始まる笑顔をもっと増やしてあげたい。
東北初の米粉マイスター講座を開催し、一人でも多くの方に米粉の可能性を伝える活動する宍戸さん。ご自身の経歴や米粉を通じての活動、今後の展望などをお聞きしました。
-宍戸さんは東北初の米粉マイスター講座を開かれていますが、元から料理に携わるお仕事をされていたのですか。
いいえ、全然料理には関係のない普通の会社員でした。料理はするものの、自炊をする程度で人に教えるということはしていませんでした。
-何かきっかけがありましたか。
30歳ごろから体調を崩し、体質改善をする目的で食事療法を取り入れたことが大きな理由の一つだと思います。その頃から食事の一つ一つや食材に対しても意識するようになり、自分でも勉強をしたいな考えるようになりました。また病院から指定される料理が美味しくなくて、そういった意味でも自分で作って、少しでも美味しいものを食べたいという気持ちが日々強くなっていきましたね。
もう一つの大きなきっかけとして、東京へ行った際立ち寄ったヴィーガン料理のお店がとても印象的でした。外観や店内はとてもオシャレな雰囲気で、見る限り普通の素敵なカフェでした。しかし提供される料理はヴィーガン料理なのに、どれを食べても美味しかったことに驚きました。
宮城県内でもマクロビオティックやヴィーガン料理のお店はありますが、もっと閉鎖的というか、限られた人が通うようなイメージがあります。料理の味もお店によってはもう一声のところも。東京で行ったお店では普通に美味しい食事が提供され、食事制限している人としていない人が気を使うこと無く、気軽に食事を楽しむことが出来る場所でした。
この東京のお店で感じた嬉しさや感動が、いつしか自分でも何かやってみたいと突き動かす動機の一つとなったのかもしれません。
-東京での経験に刺激を受け、そこから宍戸さんはどういう行動を始めましたか。
まずは自分が好きでも食材の制限の為、食べられないものを作ってみようと思いました。そこで、もともとパンが好きだったので、米粉を使ったパン作りを始めてみました。
しかし、レシピ本通りに作るも、最初は全然うまくいかずにお餅のようなパンが出来てしまいました。そこでやり方を変えるためにも、県内だけでなく東京などへ足を運び、自分が師事する先生の下で習い、様々な方法を学んでいきました。おかげさまで今では添加物を使なくても、美味しい米粉パンを作ることが出来るようになりました。
その経験で分かったのは、米粉は米粉でも、パンが作りやすいものとそうでないものが存在するということです。せっかく料理教室に通い作り方を覚えても米粉選びを間違えてしまい、うまく作れずに諦めてしまう人がいるのも、それが理由の一つかと思います。
-米粉一つとっても品種の向き不向きがあるのですね。
そうなんです。先生から指定された米粉だとうまく作れるのに、地元の宮城の米粉だとうまく作れない。その原因を追及したい、米粉のことをもっと知りたいと思い、米粉マイスターの資格を取得しました。そこで理論的な部分を学び、あわせて自分ならではのレシピを考えていきました。次第に自分で作るだけでなく、培った知識や経験を広めるためにも料理教室を開くようになり、一人でも多くの方に米粉の可能性を知ってもらうお手伝いをさせていただいています。
最近では米粉パンだけでなく、米粉を使ったクッキーを作り、イベント出店をしたり、カフェで委託販売をさせてもらったりしています。
-実際に料理を食べたお客さんの反応はどうでしたか。
「米粉で作ったクッキーとは思えない」とか「小麦粉を使っていないのに、こんなに美味しいのは初めて」など、数々の嬉しいご意見をいただくことが出来ました。定期的に買ってくださるお客様には「宍戸さんが届けに来てくれる日が楽しみ」と言っていただいたりと、そこで交わす会話や感謝の言葉がとても嬉しく、今までの苦労が報われるような気がしました。
次第にもっと多くの方に米粉の良さを知ってもらいたいと思い、お客様からいただく言葉からも後押しを受け、現在クラウドファンディングに挑戦をさせていただいています。
参考URL:宮城のササニシキでヴィーガン&小麦不使用のクッキーをつくりたい!
-挑戦されているクラウドファンディングは、どんなプロジェクトとなりますか。
「みんなと一緒に同じものを食べたい」。このスローガンをもとに、アレルギーの方も菜食主義者の方も関係なく食べられるものを作りたい。そして宮城県産の素材を使ってより良いものを作り、少しでも多くの方に地元の良さを発信できればと考えています。
元々は宮城県産のひとめぼれを使用していましたが、よりアレルギー反応が出にくく、より体に優しいことにこだわると、アミロース比率の高いササニシキにたどり着きました。このササニシキを使用して、アレルギー反応に怯える人にも、そうでない人にも「体にやさしい」「おいしい」と感じられる、みんなが一緒に食べられるクッキーを作るプロジェクトです。
そこで作るクッキーには特定アレルギー7品目やバターを使わないお菓子で、白砂糖も使用しません。また保存料などの食品添加物一切ありません。
-ササニシキのなかでも、さらにこだわりがあるとお聞きしました。
はい。県内には素晴らしい取り組みをされている生産者の方がたくさんいらっしゃいます。小さい工房だからこそ、素材も厳選したいと思いました。
使用するササニシキは東日本大震災で津波の被害に遭った仙台市新浜地区にある遠藤環境農園で作られた「仙台メダカ米」という品種となります。名前にもあるように、仙台在来種のメダカを田んぼに放流し水田をビオトープとして整備することで、無農薬のササニシキが作られています。野生のメダカは絶滅危惧種ですが、この農園ではゆっくり時間をかけて徐々に数を増やしています。自然環境や生態系の復元も震災復興の1つ。米粉のお菓子とともに、この環境保全の取り組みも全国に広く知ってもらいたいと思っています。
-メダカ米とは可愛い名前ですね。他の材料などはどうされていますか。
カカオやココナッツなどはどうしても輸入品になりますが、出来る限り県内産の原料を使用して作っています。
例えば村田町にある村岡農園さんで作られる無農薬の柚子や生姜を使ったり、雄勝ローズファクトリーガーデンさんで無農薬で育てられたミントやラベンダーなどを使用しています。クッキーの中にいろんな作り手の思いも一緒に詰め込んであげたいと思いました。
何気なく食べたクッキーから素材となる農産物の生産者の方たちに注目が集まり、多くの方々に知ってもらう機会になれば嬉しいです。またそこから農業のことだったり、無農薬のことだったり、消費者の意識を高める一つのきっかけとなればいいなと思っています。
-今後のやりたいこと、展望などありますか。
宮城県は米どころです。お米の消費を拡大するためやアレルギーの方の食の選択肢を増やす意味でも、消費者がもっと気軽にお米から米粉を製粉し、普段の食生活に取り入れられるようになれたらいいなって思います。しかし製粉機は一部の農家の方しか利用できなかったり、道の駅などで売られている米粉は料理に適していなかったりとまだまだ環境は整備されていません。
-米粉と言っても製粉方法で変わるものなのですね。
お米は固くて粉にしづらいので、細かくしようとすればするほど摩擦熱が発生し、でんぷんの形が崩れてしまい、そのことで料理にも影響します。製粉方法一つとっても難しい工程となります。しかし、その方法をメーカーは公にしていないところが多いため、地元の農家さんが米粉を作って販売したとしても、消費者はその米粉を使って、うまく料理が作れず諦めてしまうという悪循環が生まれています。
しかし先日製粉機メーカーの方とお話をする機会があり、道の駅にある製粉機では上手に製粉が出来ないことを説明したところ、機械の調整次第では市販品のような品質での製粉が出来る可能性があるそうです。
今後は東北農政局の方とも情報交換をしながら、農家の方だけでなく、一般人でも気軽に製粉機が使えるような環境整備が進めばいいなと思っています。そのことで少しずつ家庭の食卓に米粉料理が並び、米粉を生活の一部として身近に感じてもらえるようになったら嬉しいですね。
その為にも一つでも多くの方に私の作った米粉クッキーを届け、米粉を含め食への興味関心を持ってもらえればいいなって思います。
※マクロビオティックとは
玄米、全粒粉を主食とし、主に豆類、野菜、海草類、塩から組み立てられた食事である。
※ベジタリアンとは
動物性食品の一部または全部を避ける食生活を行うことである。
※ヴィーガンとは
卵や乳製品を含む、動物性食品をいっさい口にしない「完全菜食主義者」のこと。
取材日:令和2年1月27日
取材・構成:木戸 靖貴
撮影:はま田 あつ美
宍戸由佳
30歳の頃より体調を崩し食事制限を余儀なくされる。そこから「制限があっても食べられるお菓子やパン」を作ることが夢中になり、もっと学びたいと東京へ行き、米粉を使ったグルテンフリーの料理勉強をする。2018年2月、宮城県仙台市でCHOOSE FOODSを立ち上げ、東北初の米粉マイスター講座を開催。同年4月、レンタルキッチンを借りて菓子製造をスタート。現在は店舗を持たず、小さな工房で手作りしたお菓子をイベントやカフェで委託販売を行う。東北農政局主催のセミナー講師など、米粉の利用が拡大するための活動も積極的に行い、今後は多様な米粉開発に取り組む。