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クリエイターインタビュー後編|建築ダウナーズ(空間・什器設計/制作ユニット)

場所の個性をヒントに、設計から制作までを一貫して行う

東北大学大学院を卒業したメンバーで構成された『建築ダウナーズ』。2019年から展示デザインや什器設計・制作を担うようになり、アーティストの展覧会の空間設計や公共施設の什器制作などを手掛けてこられました。制作において大切にしていることや今後の活動で必要となってくるものについて、お話していただきました。

― 卒業された流れで、活動をはじめられたとか。

(菊池)2019年に、せんだいメディアテークで1階エントランスのポスターの掲示用什器を作ったのが最初のプロジェクトです。大学院在学中から関わりのあったせんだいメディアテークの清水建人さん(キュレーター)からお話をいただいたもので、開館から20年が経って老朽化してきた家具を更新しつつ、紙媒体を中心とした情報の整理を目的としています。それに加えて「より気持ちの良い空間の使われ方を提案できたらいいな」と思いました。もともと設置されていた従来の掲示板は、メディアテークの開放的な空間に対して壁になり、裏側にもデッドスペースを生んでいたので、もう少し空間を活かしたものを作ろうとしました。
この際、設計から制作までを私たちで行い、その後のプロジェクトも同じスタイルで進めるようになりました。

せんだいメディアテーク1階 ポスター掲示什器『POLYGONS』 2019

― この形状は、どのように導き出したのですか?

(菊池)この形は、掲示面がメインエントランスからエレベーターロビーまでの人の動線に向くようにしながら、それが透明なチューブの柱を覆う壁にならないように、視線が通る隙間を作って配置しています。2枚の掲示板をボリュームで繋いで1台にしているので、このような少し不思議な形になりました。そうすることで、裏面にもポスターを貼ることができ、置き方によってはこの什器の周りをぐるぐる回れるので、歩いていて楽しい経験になるようなものができ上がったと思います。

(吉川)この什器は壁であると同時に、島のようなイメージです。来訪者の動きに連動してポスターが掲示された壁が次々と現れてくると面白いんじゃないかと思い、設計に先立って実際に何度もみんなで歩いてみました。

― 現場調査をして、実際に感覚を掴むことは大切ですね。

(千葉)設置するものを図面に起こして、サイズ感などもそのときにある程度考えます。加えて、依頼をいただくお仕事は仙台市内が多いので、実際の場所に足を運んだり、原寸大の模型を現場に置いてみたりしています。設置した後も、什器の様子や使われ方を観察しています。

― 仙台市内のお仕事が多いとのことですが、他県での活動もされているんですか?

(菊池)最近では、仙台を拠点にユニットで活動されている小森はるかさん(映画監督)と瀬尾夏美さん(アーティスト)の展示会場構成のお仕事をさせていただいています。2020年には札幌文化芸術交流センター SCARTS(北海道)、2021年には金沢21世紀美術館(石川県)でお二人が参加する展覧会があったので、現地での設営作業も行いました。札幌の『ことばのいばしょ』という展示はコロナ禍の開催でしたので、来場者の方が安心して居られる広場のような空間を提案しました。ドローイングを支持するため、ターポリンというテントなどに使用される生地を使った柱や、お二人が仙台市内の書店の店主さんに選書してもらった本を置くラック、ワークショップができる大きな丸いテーブルを設置しました。テーブルは、ケーキのように分けて小さなテーブルとして使うこともできます。

展覧会『ことばのいばしょ』札幌文化芸術交流センター SCARTS 2020
撮影:リョウイチ・カワジリ

― 材料は、木材以外も使われているんですね。

(千葉)その時々で使用する素材は変えています。今回は、鉄や生地を木材と組み合わせて会場全体の什器を作りました。

(菊池)ターポリンは丸めれば持ち運びがしやすく、塗装の必要もありません。だから現地で組み立てた鉄柱の骨組みに、洋服のように生地をスポッと被せるだけで形ができ上がり、搬入期間も短縮できました。

(千葉)このときは、全ての部材が軽バン1台に収まるようにして運びました。これが軽バンに積む際の解体用の説明書です。

什器の組み立て/解体説明書

私たちが搬出に行けないという事情もあり、作成する必要がありました。ある程度、収納方法が変わっても載り合わせられるはずなのですが、傷が付かないようにとか次に設営する際に再び組み立てやすいようになど、様々な点を配慮してこの配置になりました。

(菊池)翌年には、札幌での作品を金沢21世紀美術館でも展示できることになり、少し要素を足したものを美術館の空間に合わせて構成しました。什器を展示1回きりで廃棄してしまうのではなく、組み立てたり運んだりして再利用できる形にしてよかったです。また、今までの制作は什器や家具といった小規模のものだったのですが、このプロジェクトでは、映像を投影するために初めて小屋のような構造物を作ったので、印象に残っています。

小森はるか+瀬尾夏美《みえる世界がちいさくなった》2019-2021
『日常のあわい』展示風景 金沢21世紀美術館 2021
撮影:来田猛

― 什器などの制作は、スタジオ開墾で行ってこられたのですよね。いつもどのくらいの期間で制作されているんですか?

(白鳥)現地での作業を除いてはほとんどスタジオ開墾で制作をしています。制作期間の長さは、工程や塗装の有無など、プロジェクトによって異なりますが、依頼していただいた方の話をじっくり聞いて、図面や実寸模型でアイディアを検証します。それを見てもらいながら、また話し合うということを繰り返し具体的な形にしていくというプロセスを大切にしています。

― 規模的に考えると、新浜地区の小屋を作られたときは大変だったのでは?

(菊池)宮城野区の新浜地区という沿岸部の集落で、2021年に開催された『貞山運河小屋めぐり』という企画に参加したときのことですね。新浜にあるいくつかの「小屋」を歩いてめぐるイベントのチェックポイントになっていた『風と手と土』というパスタ屋さんのオーナーさん所有の畑に、小屋を設置することになりました。はじめてその敷地を訪れたときは、周囲の環境に小屋を作る手がかりになるものがないように感じて「難しいな」と思ったのですが、何度か敷地に行ったりオーナーさんと話をする中で、いきなり典型的な小屋を作るよりも「まずはこの風景の中に居られる基点のようなものが、できたらいいのではないか」と思うようになりました。

(千葉)そこで、横に細長くジグザグしたベンチを提案しました。オーナーの息子さんがここで畑を手伝うために帰省されているのですが、仕事の合間にベンチに寝転んで休憩したり、友達を呼んで集まったりしていると聞いています。屋外で、日常的に使われるものを制作したのは初めてだったので、新鮮でとてもうれしかったです。

設計/施工を行った新浜の畑のベンチ『プラットフォーム』 2021
撮影:渡邊博一

― 細長い形状で、いろんな方向に座面を向けているのはなぜですか?

(千葉)「プラットフォームのような形にして、増築とかもしていけたらいいね」とメンバーで話していましたが、敷地自体が道路と畑に挟まれている場所だったので、自然と細長いプロポーションに決まっていきました。

(菊池)駅のホームのような長い空間で人が何かを待ったり、座ったりできるイメージに近いかもしれません。畑の向こう側の海の方には松林があったり、その反対方向には蔵王や泉ヶ岳があったりするので、その時々で違った方向に思い思いの風景を眺めながら休憩してもらえたらと思いました。

2021年11月に行われた「貞山運河小屋めぐり」の様子
撮影:渡邊博一

― 制作において、大切にしていることは?

(菊池)頭の中だけで考えるのではなくて、手を動かしたり、足を運んでみることかなと思います。私たちの身の回りのものがどうやって作られているのか、どんな材料でできているのかなど、成り立ちを考えることも大切なことだと思っています。

― みなさんはなぜ、仙台を拠点に活動されているんですか?

(菊池)大学生活で慣れ親しんだ土地だからというのは大きいと思います。また、活動をしていく中でいろんな人との繋がりが仙台にできました。そこから一緒に仕事をさせてもらう機会があったり、暮らしの中の困りごとを共有し合えることも心強く感じています。

― 今、仙台で活動されていて困っていることや「あったらいいな」と思うものはありますか?

(白鳥)これまで制作場所として使わせていただいていたスタジオ開墾が、今年度で終了することは、寂しく思っています。仙台駅からアクセスしやすい位置にあり、地下鉄東西線の駅も近くにあったことや、卸町団地で加工機の音を気にせず作業できたのは、本当に有難かったです。

(千葉)あれだけ自由に利用できるような共同スタジオはあまりないと思うので、またこういう場所ができたらいいなと思います。

取材日:令和4年1月30日

取材・構成:太田 和美
撮影:シマワキ ユウ

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建築ダウナーズ(けんちく・だうなーず)

空間・什器設計/制作ユニット

東北大学大学院都市建築学専攻の同期である、菊池聡太朗さん/千葉大さん/白鳥大樹さん/吉川尚哉さんの4人が協働し、空間と什器設計・制作を行うユニット。在学中より展示デザインなどに携わり、大学院卒業とともに結成。現在は菊池さんと千葉さん、白鳥さんは仙台在住で、吉川さんは盛岡在住。各々に仕事を持ちながら、プロジェクト毎に集結して制作を行っている。

『建築ダウナーズ』Instagram https://www.instagram.com/kenchiku_downers/

菊池 聡太朗(きくち・そうたろう)

美術家。1993年岩手県生まれ。仙台市在住。2019年東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻修了。風景を主題としたドローイングやインスタレーション作品を発表する。主な個展『GOOD LANDING』(Gallery TURNAROUND、2022)、主なグループ展『ナラティブの修復』(せんだいメディアテーク、2021)。アートコレクティブ『PUMPQUAKES』にも参加。

千葉 大(ちば・だい)

フリーランス。1992年宮城県出身、仙台市在住。2019年東北大学大学院都市・建築学専攻修了。内装・什器の設計や施工をはじめ、家具製作や展示の設営などに携わる。『荒物屋』、『スローウォークセンダイ』に参加。

白鳥 大樹(しらとり・だいき)

仙台高等専門学校非常勤講師。東北工業大学非常勤講師。1992年仙台市出身、在住。2018年東北大学大学院都市・建築学専攻修了。千葉とともに、日常的に身の回りにある素材・建材を用いて建築空間の設計を行う『荒物屋』を展開。立体物のみならず、映像作品などの制作や『スローウォークセンダイ』の活動も行う。

吉川 尚哉(よしかわ・なおや)

一級建築士事務所NoMaDoS意匠設計部。1992年岩手県出身。2019年東北大学大学院都市・建築学専攻修了。都市・園芸・暮らしなどに纏わる興味や懐疑心を語り合うPodcast番組『俺たちの裸ヂオ』を友人と共に主宰し、断続的に配信中。『スローウォークセンダイ』のメンバー。

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