Article 記事

震災とクリエイター② 前編|荒浜のめぐみキッチン (小山田陽さん×渡邉 智之さん)

特集「震災とクリエイター」では、東日本大震災という出来事に、さまざまなかたちで関わり続けているクリエイターのみなさんをご紹介するコーナーです。被災地に寄り添い出来事を伝える方、荒浜という土地と向き合い活動する方、クリエイティブに挑むそれぞれの現在地をお伝えします。

10年、20年先へと続く、荒浜の楽しみ方を伝える場所づくり

東日本大震災直後、仙台市に移住をした小山田陽さんと、荒浜地区で生まれ育った渡邉智之さん。お二人は、建築家と農家というそれぞれの肩書きを持ちながら、荒浜地区の多様な「めぐみ」(農や漁、海や運河、地域文化)に着目した活動を行う「荒浜のめぐみキッチン」の共同代表も務めています。
「美味しくごはんを食べたいよね!」。そんなシンプルな思いからスタートしたという「荒浜のめぐみキッチン」の活動に参加してきました。

― 主な活動を教えてください。

荒浜のめぐみキッチンは、現在3つの拠点があります。
水稲や畑、共同農園(貸し農園)を主軸にアレコレを試してみる「実験の場」である「荒浜ベース」。
イベントの拠点ともなり仙台市街地の人に荒浜の魅力を伝える「発信の場」となる「五橋ベース」。
そして2020年8月から新たに、誰でも気軽に利用できる「遊びの場」として「深沼ベース」の整備がスタートしました。

食や農業に関するイベントを中心に行っていますが、現在は新型コロナウイルス感染症予防の観点から、毎週朝5時半から荒浜で農作業やベースの整備などをコアメンバーと行い、朝ごはんを食べる「朝活」を主な活動としています。
オフラインイベントを自粛したり、丸い田んぼの中で行う朗読会はネット配信に切り替えたり、メンバーで話し合いながら活動の形を変えつつ継続しています。

― 活動メンバーはどのような方が集まっているのでしょうか。

私たち二人が共同代表ですが、運営メンバーには農家や建築家、映像・音響・作曲家、料理研究家、演劇家などクリエイティブで多才なメンバーが多数集まっています。
コロナ禍である現在、日々の活動は共同農園の利用者を中心に行っている「朝活」で、そこには過去のイベント参加者も加わることがあります。
焚き火が大好きな人、朝日に強い想いを持っている人、仕事前に活動に参加する人もいます。「これをしなければいけない」という場ではないので、参加してくれる人が変わるごとに、やることも変わりますし、場の空気感も変化します。
今日は気嵐(寒暖差で発生する海上の霧)に適した気象条件だとメンバーが連絡をくれたので、深沼海水浴場へ移動して焚き火をしながら日の出を待とうと思います。

― 人間の都合に合わせてではなく、自然や環境の変化も楽しみながら活動しているんですね。

はい。荒浜ベースももちろんですが、新たに活動拠点として動き出した深沼ベースは、より荒浜固有の自然と環境に隣り合う場所になると思います。
卸町の落ち葉をいただいて畑で利用する腐葉土を生成したり、荒浜で創業した看板屋さんの廃材をいただいてまき小屋をつくったり、周囲に民家がない環境を利用して焚き火をしたり「荒浜のめぐみ」を活用した試みをたくさん実施しています。これから10年、20年という長い期間をかけて「荒浜の楽しみ方を伝える場所」としてサービスを生み出していければと考えています。

深沼海水浴場・気嵐 2時間程度の滞在中何度か確認できた

楽しい、嬉しい、美味しい。
小さな共感を生み出し、各々が自分らしく居られる場所でありたい。

― 今日は荒浜ベースでネギを数本収穫し、深沼海水浴場へやってきました。今、まさに「朝ごはん」を作っている最中ですが、朝活で作業の後「朝ごはん」を食べるようになったきっかけなどはありますか?

もともと朝活は、運営メンバーで田んぼを作るための活動だったんです。全員が集まれる時間が土曜の早朝しかなかったんですよね。
その中で「労働」の時間をどうやって楽しむ時間に変えるか考えた結果が「朝ごはん」だったんです。「疲れた」「大変だった」で活動が終わってしまうより「大変だったけど朝ごはん美味しかったな」「この人たちと過ごせて楽しかったな」と思えた方が「また次も頑張ろう」と活力になるんですよね。

私たちの活動の始まりは「美味しくごはんを食べたいよね!」という思いつきだったのですが、楽しい! 嬉しい! 美味しい!という感覚は、この活動と場所を継続するために重要な要素だと考えています。

― 確かに、眠気や寒さが吹き飛ぶほどの景色と美味しいお味噌汁でした! 街中からそこまで離れずにこんな自然豊かな景色が見られるとは思いませんでした。

そうなんです。仙台市中心部からは車で20〜30分程度でしょうか。
この身近さを意外と知らない人が多いんですよね。
私たちの活動を通して実際に荒浜地区へ足を運ぶきっかけにしてもらったり、自然豊かな景色や体験に触れることで、この場所にあった文化や暮らしにも目を向けてほしいですね。

取材日:令和2年2月5日

取材・構成・撮影:鈴木 杏

前編 > 後編

荒浜のめぐみキッチン

荒浜の「めぐみ」(農や漁、海や運河、地域文化)を題材にしたさまざまな体験を通じ、土地に根ざした地域文化や自然との向き合い方を楽しみながら学んでほしい。そして、「生きていく力」を養い、人生を豊かにしてほしい。そんな思いで、子どもも大人もみんなで楽しめるプログラムを考えています。

共同代表:

  • 小山田 陽(建築家・デザイナー)
  • 渡邉 智之(農家)

ページトップへ

Search 検索