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クリエイターインタビュー後編|大江 よう(「TEXT」主催)

ジャンルを横断した関係性のなかから、別の見方や豊かさの意味を獲得するきっかけを見つけたい。

2018年、独立と同時に生活と仕事の拠点を東京から仙台へ移し、馴染みの土地で家族とともに暮らしはじめた大江さん。インタビュー後編では、環境を変えることになったきっかけや仙台のクリエイターたちとの出会い、今後の活動について伺いました。

 

―普段はご自宅の工房で制作されているのですか。

はい。自宅の1階と2階に制作スペースがあります。シルクプリントの作業台もIKEAなどをまわって自作し(笑)、個人でできる範囲ではありますが、デザインから製版・印刷、そして縫製まで一通り作業できる環境を整えています。インクなどは仙台の六丁の目にあるDIY工房・analogさんにも相談していて、そういった場所が近くにあるのは心強いですね。いとうせいこうさんのレコードジャケットの制作に携わらせていただいた際にもanalogさんで印刷いただきました。

―実際に仙台で仕事をされてみていかがですか。

打ち合わせなどで東京に伺うこともありますが、裁断の型をつくるなど、テキスタイルの製造に関わる工程は仙台の卸町でも十分なくらい環境が揃っているんです。生地は和歌山や岐阜、愛知など繊維の産地に行って買い付けてくるので、それはどこを拠点にしていても仙台にいても変わらない。物流も東京近郊の埼玉などを経由していますし、縫製工場も福島や青森など地方にあることが多いんですよ。テキスタイルや服飾のデザインにおいて、距離的な優位性はそんなに感じられなくなってきています。

同時に、テキスタイルデザインがだんだんとグラフィックデザイン化していて、パソコン上でパッと作ったデータが誰でもすぐに出力できてしまう現状なので、もう少し土着的な文化や感覚と触れ合っていた方がそれとは違う表現ができるのではないかと考えました。あとは、子どもが3人いるので、なるべくゆったりとした環境で生活したいという思いもありましたね。仙台だと車で30分も走れば海や温泉に行けるというのも魅力的です。近すぎて、逆に行った気がしません(笑)。

―移住されてからコミュニティの変化や自身の活動の広がりを感じることはありましたか。

たとえば、仙台にも拠点を構えるビジュアルデザインスタジオWOWのフィールドワークにライターとして同行し、郷土芸能の現地リサーチの様子を執筆させていただくこともありました。WOWの皆さんもそうですが、仙台で活動しているクリエイターには、土地に残された技術や文脈など自分たちの足元にあるものを見つめたうえで、あらたな表現を生み出されている方も多いように感じます。そうした活動を比較的若い世代が行っている印象があり、同世代の動きも刺激になりますね。復興に向けた支援や眼差しもありますし、そうした意識が息づく環境は独特でいいですね。

WOW「世界のBAKERUに出会う in Los Angeles 」前編
https://bakeru.jp/project/135/

―仙台で今後手がけてみたい活動があったら教えてください。

水産業や農業など第一次産業に携わる方と一緒にものをつくり、お金ではなく“もの”で対価をいただいてみたいです。そうしたつながりや対価の行き交いがあれば、朝市にちょっと顔を出すだけでスーパーを利用しなくてよくなるかもしれない。今ある価値観だけじゃないものを探りたいという気持ちもあるし、何より生き方に広がりが出る。どんなことがあっても生きていけます(笑)。

―そうした産業ではこれまでの仕組みから何か変えよう、あたらしい可能性を生み出そうとチャレンジされている担い手の方も多いと思います。

ジャンルを横断した関わり合いのなかから、TEXTが目指すことの根底にあるような、別の見方や豊かさの意味を獲得するためのきっかけを一緒に見つけられるといいなと思っています。漁用の網を使ってサコッシュをつくりましょうというようなクリエイションはそれはそれで資金にはなるけど、本当の意味で生き抜く術を見つけることにはならないことをもうみんな気づいているんじゃないかと。土地に息づく文化やそこに暮らす人々の民俗知をプロダクトとして綺麗にまとめて東京や海外に持っていくだけではないところで、じゃあTEXTとしてどんな表現をしていこうかということを問い続けていきたいと思っています。

取材日:令和2年1月29
取材・構成:鈴木 淑子
撮影:小泉 俊幸

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大江よう

宮城県出身。現代美術家のアシスタント・アパレルメーカーを経て、テキスト・テキスタイルのデザイン・製造・販売等を行う「TEXT」を主催。メタポップユニット「Frasco」の衣装担当。ファブリックブランド「LAWN」を妻と運営するなど、いろいろやっています。

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