ハミングバード・インターナショナル(後編)事業を通して地域を照らし、地域と共に成長する
事業を営むことが同時に地域や社会の課題解決にもなる。むしろ会社とはそのためにあるのではないか。稲荷小路と虎屋横丁が交差する場所での出店経験を通して、経済的価値と社会的価値の交差点を見いだした。そして227市町村につながるルートの起点としてのカフェを地元企業との連携により出店。点から線へ、線から面へと周辺エリアへの波及効果を図る。定禅寺通のケヤキのように地に根を張って枝を伸ばし、その成長で杜の都をけん引する。
事業を通して地域を照らし、地域と共に成長する
−「イナトーラ」での経験とは。
青木 虎屋横丁は国分町の歓楽街に流入するために最も多く通る道の一つですが、当時は呉服のほていやさん、たばこ屋さんが並んでいて、夜になるとシャッターが閉まっていました。反対側はクラブなどで働く女性向けのブティックがあり、コンビニだった場所もシャッターが下りている。そんな薄暗いところにキャッチもたむろしていて、東北一の歓楽街なのにどうなのかと思っていました。
そこにわれわれが持っている資源を生かし、新しいものも加えて、まちを明るく照らすことができたらという思いで出店しました。もちろんハミングバードが一番町にあるので、移動の効率化を図ってお客さまを共有することも考えた上での出店です。その結果、通りを明るくすることができて、「ここ明るくなったね」という声を聞くたびにうれしくなって、役に立つって気持ちいいなと実感しました。
その経験で視座が上がったというか、単にお金もうけや存続のためだけではなく、会社は社会の役に立つために存在しているんだと気付きました。さまざまな社会課題がある中、どういう部分でわれわれが役に立てるかと事業を考えるようになったんです。それが、いまで言うCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)に当たるというのは後で知りました。
−まさに地域の課題に対する一つの取り組みとして形になったのが、2019年8月にオープンした「ルート227カフェ」だと思います。
市職員 仙台市からは、東北の交流人口拡大や活性化に資するような取り組みとしての飲食店というテーマを用意させていただきました。
青木 そういう公募条件がありましたが、われわれの力でそこまで大きなことはできません。飲食だけではなく、広報的な部分でもっと力がないとお役に立てないなと思いました。そこで先ほど(中編参照)の「連携」の話につながりますが、地元ナンバーワン企業である(株式会社)ユーメディアさんとの連携を思い立ちました。
ユーメディアさんは印刷業として行政や自治体と取り組みをしていらっしゃるだけでなく、オクトーバーフェストや伊達美味(だてうま)マーケットなど、さまざまなことに取り組んで活躍されています。さらに雑誌、ラジオのメディアもお持ちになっている。一緒に組むことができれば、それぞれの本業を生かしながら、市の求める「東北を発信する」という事業が達成できるんじゃないかと、お声掛けさせていただきました。
−店のコンセプトはどのように立てていったんでしょう。
青木 東北というのはすでに使い尽くされたキーワードなので、もう少し着目の仕方はないかユーメディアさんと話しているうちに、マクロ的な見方ではなく、もっと虫の目で地域にスポットを当てたらどうだろうと思い付きました。それで数えてみたら東北には227の市町村があり、東北227市町村の懸け橋になるというコンセプトが出来上がりました。
「ルート」には2つの意味を持たせています。仙台には東北各地から多くの方が来て学校に通ったり働いたりしているので、それぞれのルーツ(roots)があるような食材や人たちが集う場所であること。また、ここが起点となって227市町村につながる道(route)として、アウトバウンドにも影響を与えられる場所になればとの思いです。
1年目は手探りしながらでしたが、角田市の事業者さんからPRしたいと話を頂いてイベントを行いました。漁業関係者の方からも何かやりたい、一緒にメニューを提案させてほしいという話も頂いています。PRに課題を持っていて、自治体の予算を使わなくてもやりたいという方々が増えてきているので、今後発信につながる事業を本格的に進めていきたいと思います。
−周辺エリアの活性化への効果も期待されます。
青木 仙台の経済を考えると、定禅寺通というのは非常に大切な場所だと思います。これだけ駅に一極集中すると、もう一つ軸を持つことが非常に重要で、それでこそ中心部商店街にシャワー効果が生まれていきます。
国分町には店が3000軒あるといわれていますが、仮に1店舗当たり3人の従業員がいると、それだけでも約1万人の就業者がいることになります。その方々が二日町や立町、大町など、国分町の周りの街に住んでいると考えると、国分町の衰退イコールその周りの街も衰退することになる。そこを守らないといけません。
−それにはどのような取り組みが必要でしょうか。
青木 自分の店さえよければいいという考え方では駄目で、面としてもっと魅力のある場所にしていくという考え方を持つのが大事だと私は思います。個人間競争も激しいですが、いまは地域間競争の時代ですから。
私は稲荷小路を夜市にしたいと考えていて、国分町にビルを持つ仙台協立グループの氏家(正裕)社長も賛同してくださいました。氏家社長も定禅寺通を何とかしたいという思いをお持ちで、私たちは国分町の動きが定禅寺通に波及する可能性はあると見込んでいます。もちろん難色を示す方もいらっしゃって、ハードルは決して低くはありませんが、諦めずに取り組みも進めていきたいです。
−会社の今後については。
青木 もちろん自分たちの事業を発展させていくことも重要だと思っています。二宮尊徳の「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉が胸に刺さります。いくら立派なことを掲げていても、会社として力を付けない限り、それは寝言でしかない。自分たちが力を付けていくことも大切で、それと同時に、地域や社会の課題を解決することに力を尽くしていけるようになればと思います。
仙台にとどまっているつもりはありません。飲食業は内需型産業ですので、外に広げていく考え方も必要。その気持ちもあって、ハミングバード・インターナショナルという社名にしたんです。まずは地元に密着して根を張り巡らせて、倒れないような組織にするのが前提ですが、そこから徐々に枝を伸ばしていこうと思っています。
株式会社ハミングバード・インターナショナル
〒980-0014 宮城県仙台市青葉区本町2-6-16 青木ビル3階
TEL:022-225-0522 FAX:022-215-6509
1957年7月1日創業、1975年4月1日設立。事業内容は飲食店経営業務全般。社員数は正社員89人、パート・アルバイト380人(2020年4月現在)。
運営店舗:osteria humming bird(本町店)、osteria humming bird(セルバテラス店)、pasta&pizza humming bird(石巻店)、trattoria humming bird(泉パークタウンタピオ店)、trattoria humming bird(ララガーデン長町店)、humming bird VECCHIO、炙屋十兵衛(二日町本店)、炙屋十兵衛(S-PAL店)、究極の親子丼 炙屋十兵衛(三井アウトレットパーク仙台港店)、南欧バル INATORA、炉地BAR 八兵衛、PASTINOVA(シャポー市川店)、HUMMING MEAL MARKET COFFEE&BAR、PUBLIC HOUSE、大衆酒場 稲虎2、うどん酒場七右衛門(新伝馬町店)、うどん酒場七右衛門(S-PAL仙台店)、Route 227s’ cafe TOHOKU、ハミングバード・デリバリー
- Web : http://www.h-bird.co.jp/