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ピクセル(後編)ゲームの素晴らしさ、ものづくりの楽しさを、次代へ

ニンテンドースイッチ版でピクセル初のコンシューマータイトルとなる「ホーギーヒュー」。その開発のきっかけは東日本大震災だった。共に暮らしていた主人公のモデルとなった避難犬と、彼が戻ることのできなかった元の家族、そして資金を援助した支援者の思いを胸に、実現への覚悟を語る佐々木氏。かつて画用紙と粘土さえあればいくらでも遊んでいた自分のように、子どもたちにものづくりの楽しさを知ってほしいという思いも、その胸の内で燃えている。

ゲームの素晴らしさ、ものづくりの楽しさを、次代へ

−それぞれ事業ごとに、会社の強み、特色は何だと思いますか。

佐々木 イベントに関しては、古いゲームのイベントなど、大手がやらないお金になりづらいところで、ファンの人が求めているものをやっているというところですね。

ウェブ制作だと、何でも対応できることですかね。器用貧乏ともいえますが。技術的なことはだいたい調べて解決します。そういうこと自体が好きなのかもしれません。ゲームはファン目線で作っているところが大きいかと思います。同じようなものが好きな方に共感してもらえる部分を作れているかもしれません。また、インディーズや同人の視点・規模で動けるフットワークの軽さとユーザーとの距離感、法人として販路や取引先の開拓ができることなど、この中途半端なポジショニングが強みになっている部分はあると思います。

 

−今、力を入れていることは。

佐々木 2020年はとにかく「ホーギーヒュー」のスイッチ版。あとは別件で古川さんが主体になってクラウドファンディングで資金を調達した「スチームパイロッツ」というゲームの開発です。

 

ニンテンドースイッチ版「ホーギーヒュー」ゲーム画面

−古川さんとはゲームでもイベントでも継続的にご一緒されていますが、きっかけは何だったんですか。

佐々木 「ホーギーヒュー」の音楽をお願いしたことです。この作品は、実は東日本大震災が関係しています。

 

−そうでしたか。詳しくお聞かせいただけますか。

佐々木 ゲームの主人公「ヒュー」のモデルになっているのが、東日本大震災の原発事故で帰宅困難となった福島県飯舘村からの避難犬の「ヒューガ」で、妻がうちに引き取ってきました。本来の飼い主のご家族とは交流が続いていて、何の因果か分かりませんが、そこのお孫さんが小学生なのにレトロゲームマニアなんです。それで、ヒューガを主人公にしたゲームを作っているという話をしたらすごく喜んでくれて。

一方で古川さんは阪神・淡路大震災で被災されていて、そういった経緯からか東日本大震災後にチャリティーライブを行っていました。その映像を私がたまたま見たのがきっかけです。古川さんが曲を手掛けていたゲームをヒューガの家のお孫さんも知っていたこと、私自身が子どもの頃からファンであったこともあり、音楽は「古川さんにお願いするしかないだろう」と、ツイッターでコンタクトを取って、快諾していただきました。

ゲームは完成したんですが、パソコン版なのでその子はプレーできていないんですね。「スイッチだったらできるのに」と話していて、その子をはじめたくさんの子どもたちにも遊んでもらいたい、そこからクラウドファンディングをやろうとなりました。結果、230万円くらい集まりました。それだけのご支援を頂いたということもありますし、その子のためにも実現させないと。

ヒューガはクラウドファンディング期間途中で他界。在りし日のヒューガを抱いて撮った一枚(写真提供=ピクセル)

−そうですね。完成を楽しみにしています。地域についてのことも伺いたいのですが、仙台で事業を行うことにデメリットはありませんか。

佐々木 クラウドワークスで仕事を依頼することも含めて、今はどこにいても全国や世界中の人とつながって共同制作はできますからね。東京に拠点があれば会いたい時に会いたい人に会えるかなと思っていましたが、新型コロナウイルスの影響で、近くにいてもネットを介してコミュニケーションするようになりましたので。仙台から発信することにも意味があるのかなと思っています。

−地域との連携についてはいかがでしょう。

佐々木 南三陸さんさん商店街のモアイグッズ専門店「南三陸モアイファミリー」の柳井謙一さんに依頼して、HEARTY MUSIC CLUB BANDのライブの時にコラボグッズを作らせてもらいました。コナミといえばモアイだろうと(筆者注:モアイはグラディウスを筆頭にコナミ作品にたびたび登場する、コナミの象徴的な存在)。復興や被災地の応援に少しでも関われたらとはいつも思っていて、それができたのはちょっと良かったです。

HEARTY MUSIC CLUB BANDのライブで配布したモアイのコラボグッズ

−これは宮城ならではですね。また、思い付いてすぐ連絡したんですか。

佐々木 直接行きました。営業には向いていないと思いますが、やりたいことだと抵抗なく動けるんですよね。

地域との関わりでは、インディーゲームマーケットを仙台で開いたのもそうです。東京にはそういうイベントがたくさんあるのに仙台では少ないので、文化に触れてもらう機会になればという思いでした。会社の理念に「文化としてのゲーム」「アートとしてのゲーム」「レトロゲーム=ゲーム業界のクラシック、としての位置付け」と掲げていますが、それを地方でも発信していきたいです。

業界の中の狭い範囲ですが、ピクセルの名前やゲームを知ってくれている方はそれなりに増えてきていると思います。でも、仙台や東北で、もっと知ってもらいたいですね。特に子どもたちに知ってほしいです。

−それはなぜですか。

佐々木 2020年度に小学校でプログラミング教育が必修化されますが、プログラムって、ただ習ってもしょうがない気がするんです。何か作りたいもの、やりたいことがあってこそ生きるものではないかと。それが何かまだ分からない子どもたちもいると思うので、まずはものづくりの楽しさを知るきっかけをつくりたい。

入り口はデジタルではなく、自分と同じように、絵を描いたり粘土で何かを作ったり、そういうことが楽しくなればいいと思うんです。イベントでワークショップを行っているのもそのためです。そして仙台でゲームを作っている小さな会社があると知ってもらって、ものづくりに興味を持ってくれたらうれしいですね。

子どもたちも参加した「Mr. ドットマン in SENDAI」ワークショップ(写真提供=ピクセル)

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

 

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株式会社ピクセル

2016年設立。ウェブやその他のデザインなどの業務、レトロゲームイベントとゲーム開発を行う。「文化としてのゲーム」「アートとしてのゲーム」「レトロゲーム=ゲーム業界のクラシック、としての位置付け」。これらの理念の下、ゲーム開発やイベントを通じてファンとゲスト、クリエイターとクリエイター、古い技術と新しい技術など、ゲーム文化のつなぎ手というポジションを志す。

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