NURUCON|生コンメーカーが生み出す新たな価値とそのブランディング
ブランディングは“かっこいい”だけじゃない
思いと価値を伝えるデザインの力
「塗るコンクリート」だから「NURUCON(ヌルコン)」。液状の化粧材をローラーで塗るだけでコンクリートに打ちたての美しさが蘇る、まったく新しい発想の商品を生み出した株式会社タイハク。生コンクリートメーカーとして事業者向けにビジネスを行ってきた同社が、一般ユーザーにも受け入れられる新商品をどのように作り上げたのか?全国のホームセンターで取り扱われるなど、その効果を生んだのは、デザイン会社との協業によるブランディングの力でした。
―NURUCONが誕生したいきさつを教えてください。
これはひとえに、開発担当者のアイデアと努力の結晶です。コンクリートは施工時の条件によって表面に色ムラがでてしまい、耐久性など品質上の問題がないにもかかわらず打ち直さなければならないことがあります。彼はこれを何とか解決できないものかと独自に研究するうちに、上塗りする「化粧材」という発想にたどりつきました。
彼がはいつくばって試作品を床に塗っているのを初めて見たとき、「こんな製品、見たことない!大発明だ」と興奮しましたよ。浮き出てしまった色ムラも、古くなり汚れたコンクリートも、ローラーでこれを塗るだけで見違えるほどきれいになり、周囲の景色までがパッと明るくなる。ありそうでなかった製品です。
従来のコンクリート用塗料は、表面がツルツルしたビニールに似た質感で、コンクリートの素材感が感じられないものばかり。しかし彼が作り出したものは、自然な風合いやザラついた質感がまさにコンクリートそのものでした。しかも生コンの製造過程で発生する産業廃棄物を原料とするので、SDGsの考えにも合致する生コンメーカーならではの製品になると感じました。商品化に向けて開発を進め、徹底的に品質にこだわって納得のいく自信作が完成しました。
―画期的な商品が生まれたわけですが、他社を含めこれまで同じような製品はなかったのでしょうか。
コンクリート業界で求められる要件は強度や耐久性といった品質であり、見た目はさほど重視されません。そのため施工業者には「見た目を良くする」発想自体がなく、ニーズも低い。しかし一方で、日頃から自宅の外壁やガレージなどを目にする一般のお客様にとって、美観は何より重要です。この意識のギャップを高いレベルで埋める商品は、これまでなかったと思います。
―販売はどのように展開されましたか。
当初は事業者向けのtoB商品として計画していました。しかし幕張メッセで開催された大規模展示会「TOOL JAPAN」に出展したところ、全国のホームセンターのバイヤーに大変好評だったため、一般ユーザー向けのtoC商品としての展開に路線変更しました。
―発売に向けて、ブランディングを外部に委託されました。
リリースの際に、デザイン会社「株式会社ブライト」にブランディングを委託しました。当社では生コン以外の商品を製造販売する経験がほぼなかったことと、これまでにない商品ができたので、この価値がお客様にしっかり伝わるものにしたかったからです。商品コンセプトの打ち出し方からロゴマーク、ウェブサイト、紙媒体、パッケージデザイン、商品撮影、プロモーション動画、使い方の動画など、商品に関わるありとあらゆるものをトータルで制作していただきました。ここは費用を惜しまずに、プロにお願いするべきという決断に迷いはなかったし、実際に制作いただいた内容も、費用対効果は十分に高かったと思います。
デビュー戦となった展示会のブースもお任せしたのですが、スタイリッシュかつ目立つデザインで、来場者の目に留まったと思います。ブースには長蛇の列ができました。どんなに良い商品でも、こうした大規模展示会場では、まず見つけてもらえないと始まらないので、ありがたかったですね。
―ブランディングのプロセスはどのように進みましたか。
商品誕生までのストーリーや、われわれのNURUCONに対する思いを丁寧に聞いて、デザインや言葉に落とし込んでくれました。単に見た目のかっこよさだけでなく、漠然としたイメージを目に見える形に表現し、商品の価値や魅力を余すところなく伝えるというのは、さすがプロの仕事。感激しました。デザインの方向性は複数の案を出してくださり、社内で検討して当社らしい「職人気質」や「質実剛健」のイメージが反映されるものを選びました。当初は、「誰にでも気軽に使ってもらいたい」という思いが強かったので、デザインの方向性を決める際に顧客ターゲットの絞り込みが難しいところでした。
自社では、何もないところからデザインを生み出すことはできません。ですが、作っていただいたデザインを見ると、ここをもっと強調してほしいとか、レイアウトのバランスを変えたいなど要望は出てくるもので、いろいろと聞いていただきました。
―御社側から出されたアイデアもありましたか。
私自身こうした取り組みが初めてで分からないことばかりでしたが、ブライトさんがうまくリードしてくれて、当社からのアイデアを引き出していただきました。例えば、売場でこの商品を手に取ったお客様に、少しでも興味を持ってもらえればと思い、商品のキャップシールにQRコードをプリントして、プロモーション動画へリンクさせることは私からお願いしました。
当社には開発担当者の他に、ホームセンター業界からの転職者や、前職で広報を担当していた人材もいたので、それぞれの専門性を活かしてより良いものができたと思います。
―「NURUCON」のネーミングはどのように決めたのですか。
開発担当者自身が、研究開発時から「ヌルコン」と呼んでいたんです。ただ、それをそのまま商品名とすべきか否か、ブライトさんも交えて他の候補もたくさん考え、検討を重ねました。最終的に「三周回って結局、原点に落ち着いた」という感じ(笑)。ロゴが完成すると断然かっこよくなって驚きました。これがデザインの力なのでしょうね。口に出して呼んでいただけではあまりピンとこなかったんですが、完成したロゴを見ていると、商品コンセプトが分かりやすいし、呼びやすく、愛着が湧いてきました。
―現在の販売状況と今後の展開についてお聞かせください。
販売開始は2021年で、その際は、生コンメーカーの「株式会社タイハク」からの販売でしたが、2023年9月に本商品を専門に扱う「タイハクマテリアルズ株式会社」を設立して製造販売を事業承継しました。現在の販路は9割がtoCですが、今後はtoBの売り上げを増やし収益力を強化していきたい。耐久性などを高めた商品や、室内の壁にコテで塗り付けるタイプの商品なども開発中で、完成すればハウスメーカーやリフォーム業、外構業などプロ向けの高付加価値商品としてリリースしたいと考えています。またNETIS(国交省が運用する、民間開発による新技術のデータベース)への登録を目指しており、登録が実現すると公共工事等への活用も見込まれます。新しいジャンルの商品なので、まだまだ伸びしろがあると考えています。
―一連のブランディングを振り返って、いかがでしたか。
株式会社タイハクでは以前から、企業としてのブランディングを意識した取り組みを行っていました。生コン業界は、いわゆる「3K」のイメージや「なんとなく怖そう」という先入観と常に隣り合わせです。少しでも身近に感じてもらいたいという思いでTikTokなどSNSも活用してきましたし、一般ユーザー向け商品もそのような中から生まれました。そうした新しいことにチャレンジする気風と、研究者のアイデアと情熱があったからこそ、良いブランディングの取り組みになったと思います。商品の価値をしっかりお客様に伝えるにはどうすればよいか、というところでプロの力をお借りできたことは非常に効果的でした。
―御社の今後についてどのようにお考えですか。
タイハクグループは、主にハウスメーカーや外構工事等の建設業に生コンなどを販売しており、理念は顧客第一主義。東日本大震災後に生コン需要が跳ねあがった際、ゼネコンへ優先的に販売する同業者が多かった中で、タイハクでは当然のことではありますが、従来のお客様への販売を続けました。このことは今でもお客様からお褒めの言葉をいただいています。
生コンはJIS規格に沿って製造するため、品質はある程度均一化され、他社と差別化を図りにくい業界ですが、これからも社員一丸となって「タイハクならではの価値」を提供していきます。顧客第一主義の理念を大切にしながら、NURUCONのような新商品の開発など、様々な分野に挑戦していきたいと思います。