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私と「祭り」

東北の人は皆、人知れず餅好きではないか、そう思うことがある。

祭りを祝い、祈りふるまい、家を建てればやたらまく。馴染みの顔に会いながら、みんなでつきたてをいただくハレの日の縁起物だ。

大工の友人が新しい家に移り、引っ越しの挨拶を兼ねて餅をふるまったと聞いた。

コッ、コッ、コッ、コッ。杵と臼。木と木が、餅がぶつかる。高い音は遠くに届き、集うことを知らせてくれる。

今年、行われなかった祭りがある。祝うはずだった節目。会うはずだった人。鳴るはずだった音。本当は人知れず鳴っていた音。耳を澄ますと聞こえてくる。

コッ、コッ、コッ、コッ。杵と臼。音が地面を鳴らし、長く続いた沈黙を震わせてゆく。コオーン、コオーン。音がぶつかり、餅は丸まる。いい音が鳴る餅はうまい。バチン、バチンと、まぶしい粘り気を持って、たくさんの思いをつないで、目を覚ましたばかりのたましいのようなすがたで。

そうして餅は白く宿って、人びとのあいだに降り積もってゆく。

毎日の底で、あたらしい年に向かって。

Graphics = ????田勝信

1987年、東京都新宿区生まれ。山形県を拠点にデザイン業を営む。グラフィックデザインを主な領域として、フィールドワークを取り入れた制作を行なっている。ブランディングやコンセプトメイキング、商品企画、サービス設計などに携わる。家業の染色工房では染材、繊維の採集やテキスタイルデザインを担っている。

Writer = 鈴木淑子

文化施設や大学事務局勤務を経て、現在は宮城を拠点に活動。印刷物やウェブサイトの執筆・編集、展覧会やプロジェクトのマネジメントに携わっています。

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