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私と「新年」

昨年の暮、友人から「百年に一度だけ咲く花が仙台で開花したらしい」という話を聞いた。調べてみると、その植物の名は「アガべ・ベネズエラ」。数十年〜百年に一度花を咲かせる多肉植物で、本来は南米メキシコなど比較的乾燥した亜熱帯域に生息しているようだ。

ひとつの花茎に、蕾は1000個。最初の花がひらいてから順番に咲いては枯れ、ひと月ほど開花を続ける。どうしてもその姿が見たくなり、後日友人と一緒に展示中の七北田公園都市緑化ホールを訪ねた。いざアガベ、と意気込んだものの、我々の調査不足により入り口には休館日の看板。……残念なディスタンスである。なんとかして見れないものかと施設の周りをウロウロしていたら、採光のため大きくひらいた温室の窓ごしにその姿を見ることができた。長く長く伸びていく茎の先に、火花のような花がポン、ポンと咲いている。外は雪、ランニングするおじさんがひとり。わたしたちは、外から差し込むひかりを両手でふさいで影をつくりながら、順番にその姿を眺めた。

身動きがとれず止まったように感じる時間と、そんなことお構いなしにやってくる季節が隣り合わせであった年に、こうしてアガベは咲いた。元旦、いつもの海で日の出を待つ。まだ暗い海の向こうから、少しずつひかりが差してくる。花がひらくときの音を想像する。いくつもの時間を持ち運びながら、あたらしい年が明けていく。

Illustration = 浅野友理子

画家。食文化や植物の利用について尋ね歩く。出会った人々とのエピソードを交えながら記録するように描いている。

Writer = 鈴木淑子

文化施設や大学事務局勤務を経て、現在は宮城を拠点に活動。印刷物やウェブサイトの執筆・編集、プロジェクトのマネジメントなどに携わっています。

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