私と「桜」
私は昔から「彩」という漢字が好きだ。
別に好きな子の名前が彩ちゃんだったわけでもなく、家族にその字が付いた人がいるわけでもない。
でも、その一文字を見ると、頭の中にはカラフルで鮮やかな世界が浮かび上がり、なんとなく心が明るく、晴れやかになる気がするのだ。
そんな私が学生時代を過ごした街は、桜の名所だった。
川沿いに並ぶ桃色の木々たち。それらが織りなす雄大な自然。
絵に描いたような景色――。
陳腐な飾り言葉だが、それしか当てはまらないほど、
その姿は美しく、圧巻であり、いつも私に元気をくれた。
そこで、ふと思った。一色でしかないあの花に、なぜ人は惹きつけられるのだろうか。
理由は単純明快だ。花そのものが、とてつもなく美しいからだろう。
「色とりどり」「十人十色」
多様性や個性が叫ばれる昨今、そんな言葉をよく耳にするようになった。
いくつもの色が重なり合い、カラフルに彩られた風景。
それはそれは華やかであり、見るものを魅了するのは間違いない。
だけども、一つの色にだって、無限の力は秘められている。
あのとき、あの場所で並んでいた木々たちは、たった一つの色だけで、
あんなに大きな輝きを、そして巨大なパワーを放っていた。
たった一つの「彩」が、私に元気をくれていたのだ。
長い冬が終わり、いよいよ春がやって来る。
新しい場所、新しい生活、新しい環境。
複雑な色が絡み合う世の中は、不安でいっぱいだ。
そのたびに、大学時代に見たあの景色を思い出すようにしている。
強く生きよう。あの桜のように。
Writer = 郷内和軌(ごうない・かずき)
1992年生まれ、岩手県一関市出身。岩手県立一関第一高等学校卒業後、仙台大学体育学部スポーツ情報マスメディア学科に進学。アルバイト等で執筆経験を積み、2015年4月より岩手県盛岡市の制作会社「株式会社ライト・ア・ライト」に入社。地域限定スポーツ誌「Standard」等の制作に携わり、19年4月よりフリーランスに。趣味はJリーグ観戦。中でもベガルタ仙台の試合は、年に数回の現地観戦を含め、すべての試合を観戦している。
Photographer/Designer = 横塚明日美(よこつか・あすみ)
1992年生まれ、丸森町出身。デザイナー。東北工業大学クリエイティブデザイン学科(現・産業デザイン学科)を経て、2015年、仙台市内の広告制作会社に入社。18年より丸森町を拠点にフリーランスとして活動を始め、20年4月に合同会社nekiwaを設立。紙媒体の広告物を中心にさまざまなジャンルのデザインを手掛けるほか、「手しごとのある暮らしmaru」では地域で受け継がれてきた手しごと商品の販売を行っている。