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私と「年の瀬」

年の瀬が近づくといつも慌ててしまう。もっと計画的に出来たらいいのにと思いながら、いつの間にか大晦日を迎えている。気持ちだけ空回りすることもたくさんある。今日はもう何もできない…、とこたつで朝を迎えたりする。

暖をとろうと、ストーブに手をかざしてみる。ささくれだった指さきに、一年が映し出されているような気がする。それでも、この手で家の中を掃除する。みかんを剥き、餅を手配し、とても簡単な料理をつくる。手を振って、帰ってくるひとを迎える。

嘘かまことか、冬至に柚子湯に浸かるのは、太陽の恵みが弱まり生命力が衰える時期に、太陽に似たものであたたまるためだと聞いたことがある。本当ではなさそうなその説をなんだか気に入り、誰かにこっそり教えたりしている。お裾分けしてもらった小さな柚子を手のひらに乗せてみる。太陽に似た丸い食べもの。香りが移って、指がほころぶ。訪ねた本屋では、店主がドアに飾るためのスワッグを両手で束ねていた。本棚の陰でそっとしぐさを真似てみる。帰りに花屋に寄ろうと決めたのに、今日になってもまだ行けていない。名前の知らない植物を頭の中で束ねてみる。

ストーブであたためた手を、ふたたびかざしてみる。こんな手だっけ。一年の暮れに交錯した思いを束ねるように、めくり忘れたカレンダーをめくる。書きそびれていた年賀状を書く。きっと誰の中にもある、慌ただしい年の瀬のささやかな儀式について考えている。

Illustration = 福田美里

アクリル絵の具とキャンバスを用いた絵画作品の発表を主に行う。絵や写真、言葉によって、記憶や思いを留めおくことに関心を寄せている。日常の一コマを捉え描き留められた風景は、どこかの誰かの体験とも重なり、緩やかな繋がりを思わせる。

Writer = 鈴木淑子

文化施設や大学事務局勤務を経て、現在は宮城を拠点に活動。印刷物やウェブサイトの執筆・編集、プロジェクトのマネジメントなどに携わっています。

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