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ライターバトン -12- 「望遠鏡を逆からのぞく」

仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。

望遠鏡を逆からのぞく

この広い夜空。
137億年前になにかのきっかけで宇宙が生まれて
何かの屑が地球になって、43億年前くらいに海ができて
私が今、望遠鏡で見ている星の光は何十年も前に光ったものだと、
そう考えれば、私の気持ちなんかとるに足らないし、語るに及ばないし、
悩んだところで何も変わらないと理性は知っているのだけど、
それでも「いまビックバンがおきたな!」と思うことがたまにある。
のんだ後とかに。
 

あのヒトと最初に会ったのも、例によってのんだ後でした。
 

当時は、なかなかきつい仕事が連続したあとで、
ああすればよかった、でもこれが最善だったという葛藤や
子育てを後回しにしたという罪悪感や、
洗濯物洗ったけど干してない、おとといの出前のお皿出すの忘れてた、
私何もできてないじゃん、もういなくていいんじゃと
限界まで絞ったあとに陥りがちな、自己評価がどん底まで低い状態に陥っていました。
 

そういう時こそ夜空でも見るべきなのだと理性は知っているのですが、
そういう時こそそんな気持ちになれないもの。
 

背中を丸くして、電灯が落ちる地面ばかり見てるような日々。
 

そんなときだったから、あのヒトの態度が染みたんだなぁと思います。
楽しくのんだはずなのに、
自己嫌悪に陥って下向きになっていた私の目線をからめとるように、
むりやり目をあわせて、どうしたの?
ま、大丈夫じゃない?と。
 

どう考えても大丈夫じゃない状況でしたが、
あ、大丈夫かも。と気持ちの針が少し、元気な方に振れました。
 

そのあとも、会うたびに
私の足に手を置いたり、わざと足を踏んだりしながら
好き、好きになっちゃった、ゴハン食べた?食べようよ、と、
思いがけず積極的な様子に、
私の何が良いんだと戸惑った時期もありましたが、
好き好きと言われ続ければ、好きな気がしてくるものだし、
なにより、私自身がそのヒトの手触りに救われていたんだと思います。
 

触れば気持ちいいし、
好きと言われれば、やっぱりうれしい。私、生きてていいんだな、と思う。
 

好き、私も好きになった。一緒にいよう。
と口にしてみればカンタンなもので、
ゲンキンにも世界に色が付いたような気がしました。
 

定禅寺通りの青葉がきれいだな。
月がきれいだな。
 

そりゃ、人の心を動かす仕事を生業にしておきながら
コンクリートの色ばかり見てたら、うまくいくはずもない。
あのヒトに出会ってから、ちょっとずつ仕事の車輪もうまく回るようになってきました。
 

このヒトは今私のところにいるけど、数年後にはどこかに行ってしまうかもしれない。
たぶんつらい。
でもそんな別れも、望遠鏡を逆からみたら、ま、大丈夫かなと。
 

ということで、ネコを飼い始めました。

次回

バトンは、鎌田ゆう子さんに渡します。私がフリーになって、右も左もわからない時に「いいですよ~」といろんな仕事を引き受けてくれた恩人です。ほんとに。感謝しかない。しかも高校の先輩でした。二女高魂。そろそろゴハン行きましょうー

沼田 佐和子

株式会社月刊カフェラテ コピーライター。宮城県名取市閖上出身。

大学は東京に出て、仙台の編集プロダクションに就職。7年間ほど旅行情報誌をつくったあと、フリーライターを経て、現職。座右の銘は、迷ったらおもしろいほう。娘とおいしいお酒と本が好き。週末一軒家プロジェクト運営。

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