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ライターバトン -19- 「マンホールの先の海」

仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。

マンホールの先の海


ライターの仕事の役得は、普通に過ごしているだけでは出会わない人や場所と出会えることだと思う。
ちょうど直近でそれを実感していたのが、「南蒲生浄化センター」との出会い。仙台市の下水を処理する施設だ。
小学生の時に学校で見学に行った人も多いかもしれないが、その後は訪れるどころか耳にする機会もほとんど無いのが下水処理場というところだと思う。

南蒲生浄化センターは、東日本大震災で津波の直撃を受けていた。なんと仙台市の約7割の下水を処理するという巨大な浄化設備なのだけれど、その被害の大きさや復旧・復興の過程が表に出ることはこれまで無かった。それを、東西線荒井駅構内にある「せんだい3.11メモリアル交流館」の企画展で伝えようというのが、今回のお仕事。

だけど、ちょっと困った。
「下水」というのはやっぱりけっこう地味なテーマで、しかも技術的な部分を理解しないと分からない話がたくさんあるからだ。

ライターや編集の仕事の本質は、送り手と受け手の距離を縮めることだと思っている。
送り手には送り手の事情があって、受け手には受け手の事情がある。双方が噛み合わないと、二つの世界は交わらない。その接点を見つけてつないであげるのが自分の役割だと、常々思いながら仕事をしている。今回みたいなケースでは特に、いかにしてその間をつなぐかに頭を悩ませることになる。

そんな時、私が大切にしているのが「物語」だ。人間、なかなか自分と立場の違う人のことは想像しづらいものだけれど、物語の力を借りることによって、それまで視界に入っていなかった世界が急に活き活きと見えてくることがある。映画や演劇を見るときみたいに、はたまた冒険小説のページをめくるときみたいに、自分の中に新しい世界が拓けた感覚を味わってもらえたなら大成功。今回も、地味で分かりづらい話を見る人の心に届けるための物語を描くことが、とても重要な部分を占めることになった。

ところで、メモリアル交流館の館長である八巻寿文さんの前職は、卸町にある「せんだい演劇工房10-BOX」の工房長である。そこで長らく、仙台で生み出される演劇と、生み出す人びとを見守り支えてきたお父さん的な存在の人なのだ。さらに、企画展の担当である石川さんも、八巻さんと一緒に10-BOXでの勤務が長かった。そんなお2人が、立場によって経験がさまざまに異なる東日本大震災の記憶を伝えようというのだから、そのアプローチはひと味違ってくる。

「物語」と「想像力」。

その力を、あれほどの被害を出しながらすでに遠い記憶になりつつある東日本大震災の経験を、さまざまな角度から呼び覚ますきっかけとして機能させていこうというのが、メモリアル交流館なのだ。(と、私は思っている。)

ちょっとネタバレになるけれど、今回の企画展で物語のキーになるのは「海」だ。

南蒲生浄化センターは海のすぐそばにあって、屋上から眺める仙台の海は、素晴らしく美しい。
そんなにも美しい海を仙台は持っているという、忘れられがちな事実。そして、私たちの日常生活が否応無しに排出し続ける下水は、その海に注がれていくという現実。
そんな、仙台の街の十数キロ先で起きていることへの想像力を、この展示をきっかけに起動させてもらえたらと願いながら、内容を構成し、テキストを書いた。

街中でちょっと意識を向ければそこかしこに点在するマンホール。そのマンホールの先、張り巡らされた下水管の先には、命を育む海がある。この展示をきっかけに、マンホールのその先で海を守る人たちのことを、ちょっと想像してもらえたら、と思っている。

次回

次にバトンをお渡しするのは髙橋徹さん。夫のマラソン仲間、麻雀仲間という面を見ることの方が多いのですが(笑)クリエイティブにかける情熱は人一倍と感じています。「み」から始まるテーマでどんなお話をしてくれるか楽しみです!

谷津智里

東京都出身。出版社勤務を経て、夫の故郷である宮城県白石市へ移住。翌年より地域の魅力を伝えるフリーペーパーを制作。東日本大震災後、地域の文化再生、コミュニティづくりに関わるプロジェクトに参加しながら、それらを伝えるパンフレットや書籍の編集・ライティングを行うようになり、現在フリーのライター・編集者として活動中。

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