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ライターバトン -8- 「論よりコンセプト」

仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。

論よりコンセプト

私は、ことあるごとに「広告の命、それはコンセプトだ。」と書いてきました。嘘です。「ことあるごとに」なんて言えるほど執筆の依頼はありませんでした。しかし、何十年もずっと若手のクリエーターたちに口を酸っぱくして言ってきたこと。それは「お前ら!ぐだぐだとワケ分かんねえことばっかし書いてねーで、コンセプトを示せコンセプトを!」という金言です。それによって何人の若者の才能を開花させたことでしょう?また何人の若者のプライドをへし折ってきたことでしょう?思い出すたびに夜道を歩くのも怖くなりますが、広告にとって命とも言えるコンセプトを探し求めて、私も、世の中のクリエーターたちも日々、命を削るような闘いを繰り広げているのであります。

コンセプトは「言葉」です。

さて、コンセプトって何でしょう?それは「言葉」です。一言で説明出来る言葉。思いがちゃんと伝わる言葉。例えば、ピカソの絵やピンクフロイドの音楽を一言で説明しろと言われても出来ませんよね。少なくとも私には無理です。ところが「チョコレートは明治」とか「3時のおやつは文明堂」のように言葉ひとつで企業のポリシーが伝わり共通の理解を獲得出来る。これが企業や商品、サービスの本質を支える言葉、コンセプトです。コンセプトそのものがスローガンになることもありますし、コンセプトの下にいろんなキャッチフレーズやボディコピーが、まるで扶養家族のようにぶら下がったりします。そう、コンセプトは「広告の大黒柱」なのです。多少コピーがやんちゃしても、ド派手な化粧を塗りたくっても、傍若無人に暴れても、コンセプトがしっかりしていれば絶対に動じない。よっしゃよっしゃ!と笑い飛ばして家族をしっかり守ってくれる強いお父さん。それがコンセプトです。いや、むしろ強いのはお母さんの方かもしれませんね。

掘りまくって、とっ散らかす。

コンセプトをひねり出す。これがまた大変な作業なんです。そうそう簡単にひねり出せるほどヤワな相手ではありません。その辺にいるハズなんだよなぁと、何となく感じてはいるんだけど一向に巣穴から出てきてくれません。さて、そんなときどうするか?答えは簡単です。掘るんです。方向性や深さをイメージして、ここだ!と狙いをつけて掘る。「出てきてね、金のモグラちゃん」と祈りながら掘って掘って掘りまくる!つまり、ひたすら言葉を書いて書いて書きまくるんです。そして庭の半分ぐらいがズタズタに掘り起こされ、汗まみれ泥まみれになった頃こう思います。「やっぱこっちじゃねーや・・・」と。その後、方向性や深さを変えながら、猛然と言葉掘りの荒行をやり続けた果てに、庭は跡形もなくとっ散らかされ、もはや自分が何のために穴を掘っていたかさえ忘れかけた頃、ぼんやりと眺める庭の惨状の片隅に、見たことも無いほど美しく咲く一輪の花を見つけます。「あった。コンセプトちゃんだ・・・」そう呟き、私は歩み寄ります。

あくまでも個人的な方法論です。模倣の効果は保証しかねますので、あしからず。

さて次回は「オフィス ウェイクアップの森由紀さん」にバトンをお渡しします。私が前職でもお世話になったフリーランスのコピーライターさんです。女性のセンスを捉える素敵なコピーはもちろん、ロジックが明快に構築された骨太なコピー、そして子どもの心を優しく包み込む童話のようなコピーまでサラリと書き上げてしまう。一体どこにそんなにたくさんの引き出しを隠し持っているのか?森さんのライティングの秘密が明かされると思います。乞うご期待!

山路 裕一

大卒後33年間広告会社に勤務。在職中、東北電力様の「より、そう、ちから。」や、東洋ワーク様の「To You!」等のスローガン開発に従事。2016年に㈱電通東日本を早期退職し、同年㈱山路クリエーティブ企画室を設立。代表取締役・クリエーティブディレクター。口癖は「ミュージシャンになりたかった」。その思いと技量のあまりの乖離に、家族や友人の失笑を買うことしばしば。

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