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ヒロセ(中編) ボリューム、ブランド、クラフト 未来へのテーマ

艱難(かんなん)辛苦を乗り越えて再び軌道に乗り始めたヒロセの社長に満を持して就任した菅井氏は、会社を支える3つのテーマを明確化した。会社の基礎を築いた「ボリューム」、売り上げの大きな柱に成長した「ブランド」、そして新たに取り組み始めた「クラフト」。3つがかみ合って回ることで、会社の未来が見えてくる。中でも鍵となるのは「クラフト」。修繕修理で得た蓄積と研究機関の知見で生まれた「SOJI」が、名刺代わりとしてデビューした。

ボリューム、ブランド、クラフト 未来へのテーマ

―社長に就任してまず行ったことは。

菅井 大きく分けて3つのテーマを掲げました。一つが「ボリューム」。これは昔からやっている得意なことで、中国でもインドでも売れるものを世界中で探して、安く仕入れて大量にさばくという、卸売業では一般的な薄利多売と呼ばれるものです。

それを繰り返して会社は加速度的に大きくなったんですが、同時に動かしていたのが「ブランド」です。ナイキやアディダスの東北の代理店をしながら、地方のいいところは未来を先に見ている部分があるんですね。人がどんどん減って、人口比率が高齢の方に偏っていくという未来が見えていて、その中でものを売るのはどうしたらいいのかを考えることができました。

いまでは当たり前なんですが、やっぱりいいものを売っていこうとか、生活に合わせたものを売っていこうとか、人口が減ることが分かっているからこそ知恵を絞って、チャネルや間口を広げるような開拓をしていきました。そのかいあって、人口減少に反して伸び率が高いとブランドホルダーのメーカーさんから信頼を得て、名指しで代理店に選んでいただけるようになりました。現在、50ほどのブランドの代理店をしています。

5階建ての社屋兼倉庫にはさまざまなブランドの靴が所狭しと並ぶ

―そんなに多く取り扱っているんですね。例えばどんなブランドがありますか。

菅井 「ドクターマーチン」は20年ほど前から東北で代理店をしていて、パンクやロックが好きな世代やバイカーなど、非常にコアな人たちに支持されています。私が社長になってから今後自分たちはこういうビジネス展開を考えているということを受け入れてもらって、一部の専門店を除き靴に関しては全国に向けて当社が販売活動を行っています。

われわれを介せば日本国内のブランド浸透がスムーズにいくというイメージで捉えてもらえているようです。ブランドのビジネスは順調に伸び、会社の売り上げの3分の1以上になっています。

―ボリュームとブランド、そしてもう一つは。

菅井 ボリュームの商品は言ってしまえばブランドの商品を模倣してできるものです。靴業界に限らずあらゆる業界の方々が模倣の仕方を分かってしまったので、今後このボリュームの商品を伸ばしていくのは相当難しいと見ています。そしてボリュームが増殖すればするほど、ブランドが駄目になってしまう。ブランドが駄目になったら、ボリュームも生まれません。

そこで、ボリュームの「種」になるものづくりにわれわれも着手しました。それが3つ目のテーマ「クラフト」です。いまの主流ではないものづくりのやり方を探そうと、まず私が1年間、靴職人さんの下で靴作りを覚えました。そうすると、もちろん靴作りのノウハウは分かるんですが、どれほど手間がかかるのかがよく分かる。靴職人は頑張って作っても月2足ぐらいしか作れない。機械化が進んでいる世の中なのにこんなに手間がかかって、こんなに大変なのかと。

そこで、お客さまに大事に履いてもらう靴を作るために、まず「直す」ビジネスをやるべきだろうと考えました。直してまで履きたい靴がどんなものなのかを分析することで、長く履いてもらえる靴を作るヒント、着想が得られます。それを一つのビジネスの種にしようと、社屋に工房を作り、修繕修理ビジネスを始めました。年間だいたい1000件ほどデータがたまり、こういう不満があるんだな、靴はどうあるべきだなというのが分かってきて、ビッグデータとは言えませんが、非常に面白い、有効な情報が得られています。

通りからガラス越しに修理修繕の様子が見える「Shoe LAB.」

―そのデータを基にオリジナル商品が生まれたんですね。

菅井 もう一つ大事な出会いがありました。スケートリンクで滑らない靴を履いて対決する、というテレビ番組に東北大の堀切川一男先生(大学院工学研究科教授)が出ていて、興味を持ってお会いさせてもらいました。先生は摩耗についてずっと研究されているんですが、歩行安定性や転倒防止性の研究も同時にされていたんです。論文も書いたのに誰も活用していないと聞いて、そのビジネスの種を使ってわれわれがものづくりに取り組んだのが最初のオリジナル商品「SOJI(ソジ)」です。

底材の部分を大学に協力してもらい、産学連携事業として宮城県から助成金を頂き、2018年4月に販売にこぎ着けました。これが非常に評価を頂いて、国内の優れた商品だけを扱うオンラインショップ「藤巻百貨店」でも取り扱ってもらっています。

SOJIの特徴を教えてください。

菅井 革靴の良さって何だと思います? 合成繊維もたくさんある中で、あえて革靴を選ぶ良さの一つは経年変化です。こちらは販売サンプルで置いているもので、こちらは私が6カ月くらい履きつぶしたものです。

右は箱から出したばかりの新品。左は菅井社長が履きつぶしたもの

―なるほど。全然違いますね。

菅井 経年変化が起きる理由は、牛の革が人間の皮膚と同じく日焼けするからです。サンプルで置いているものと箱から出していないものを比べてもこれだけ違う。日光に当たるだけで変化していってしまうんですね。逆に言えば、自分が使った分だけ色が変わり、長く寄り添った感が出るのは革靴ならでは。

そのことをもっと楽しんでもらうために、クリームも作りました。コロンブスさんという、靴に使う乳化性クリームのシューケアメーカーとしては世界で一番大きい国内の企業のクリームがベースになっています。実は○○○○○や○○○○○(どちらも一流ブランド)のクリームも、中身はコロンブスなんです。

人がきれいに日焼けしたいときにサンオイルを塗るのと同じように、経年変化を促進させるクリームで楽しんでもらいたいという意図で、一緒に入れています。そうすると、革靴は経年変化が楽しいんだなと気付いてもらえて、エイジングすることによって「自分のもの」になって、長く使ってもらうことにもつながるだろうと。さらに、うちの修理工房で修理もします。

コロンブスと共に開発したオリジナルのクリーム

―長く履いてもらうことを大事にしている。

菅井 実は長く使えるというのは、卸業界ではやってはいけないことなんですが、回転数は悪いけど満足度は高い、そういうものは絶対あった方がいいと思って作っています。

この革は北海道の契約牧場から独自に持ってきて、姫路のタンナー(動物の皮を革に加工する職人)さんでなめしてもらっていますが、頑張っても1年間で900足分しか作れません。限定された足数で売り上げは微々たるものですが、「SOJI」はわれわれのものづくりの名刺代わりだと思っていて、靴業界へのアンチテーゼとして、ものを大事に売っていくということを実践しています。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

 

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株式会社ヒロセ

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国内全域に販路を持ちナショナルブランドシューズおよびドメスティックブランドシューズ販売代理店、約150社。ファブレス生産による企画商品(PB、OEM)の開発。国内工場及び、中国・欧州を主とした契約工場へ生産依頼を行い国内向け商品の開発を行う。地方広域商圏を持っている商業施設へ出店。東日本に現在10店舗運営。

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