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クリエイターインタビュー後編|千田優太(アートコーディネーター・パフォーマー)

芸術は鑑賞するものではなく、地域で実践するもの

パフォーマー・アートコーディネーターの千田優太さんは、東日本大震災後から続けてきたコーディネーター業を2016年、一般社団法人アーツグラウンド東北として法人化。現在は『ダンス幼稚園』と次代を担う東北の文化的コモンズをつくる『せんだいみやぎ文化的コモン部』という事業を展開しています。ここでは、その事業内容と今後の活動についてお話を伺いました。

ー 『アーツグラウンド東北』は2つの実行委員会が統合されたものなんですね。

企画ごとに団体がいくつもできて煩雑にならないようにするため『ダンス幼稚園実行委員会』と『猿とモルターレ仙台実行委員会』を母体に統合したんです。それと助成金申請の幅を広げたり、仕事を受けやすくするためにも法人化しました。

ー 『せんだいみやぎ文化的コモン部』は2017年、東北4県のコーディネーター調査をするところからはじめたと聞いて、驚きました。千田さんを突き動かしたものはなんだったのでしょうか?

文化・芸術の振興による地域創造支援を行なう『一般財団法人地域創造』という団体が、東日本大震災後に発行した報告書を見たときに感銘を受けたのがきっかけです。その内容は、全国の劇場とか文化施設の役割・活性化事例をまとめたものと、それを実現するためにはコーディネーターが文化的コモンズの担い手として重要だというものでした。

「まあ、そうだよね。でも本当にコーディネーターっているの?」と疑問に思いましたが、「実際調べたわけでもないのに疑っても仕方がない。物申す前に自分で調べてみよう」とこの事業をはじめました。

ー なるほど。ご自身で確かめたくなったんですね。

この調査においては、東北地方で文化・芸術に携わるコーディネーターとその役割を担う人材の発掘を目的として、文化庁の委託事業で実施させていただきました。青森・岩手・宮城・福島の東北4県の太平洋沿岸45市町村への聞き取り調査をしたのですが、青森県大間町から、福島県はいわき市まで行きましたね。29名の方にご協力いただいて、調査は約7ヶ月かかりました。東北は広いです(笑)

調査期間中には『第1回フォーラム 東北の文化芸術の未来を創造する』と題して意見交換会も実施しました。ここでは調査にご協力いただいたコーディネーターの方々だけではなく、より専門的に活動されているゲストの方もお迎えしたんです。震災後、浮き彫りになった東北の文化・芸術活動の課題解決と今後について語り合いました。

ー この事業で現在、千田さんが行なっているものに繋がる出会いもあったのでは?

東北を調査する中で「芸術は鑑賞するものではなく、実践するもの」と捉えている地域があり、その感覚にハッと気付かされました。青森県東通村の教育委員会へ伺ったときに「この村には29の集落があり、そのうちの21の集落に郷土芸能がある。芸術は鑑賞するものではなく、実際に自分がやるものという認識だ」という話があったんです。

私自身『三陸国際芸術祭』で郷土芸能に触れて、生活の中に存在することが当たり前の芸術・踊りに関心を持った人間なので、とても共感しましたね。

鮫神楽発表会(2018年)

ー 本物の芸術が日常的に見られるところは『ダンス幼稚園』の活動にも通じるものがありますね。

そうですね。ダンスがより子どもたちにとって身近で自由なものになってほしいです。『ダンス幼稚園』では、タップダンス・バレエ・民俗舞踊・舞踏・コンテンポラリーダンス・タイ舞踊など幅広いジャンルを体験できます。

子どもたちの身体表現力や芸術感覚の素晴らしさに感動することが良くあります。また、言語表現がまだ発達していない子どもとのコミュニケーションに、ダンスは最適だと思っています。『ダンス幼稚園』では敷地内で同時多発的に複数のダンスがはじまるので、子どもたちには自ら「選ぶ・決める・行動する」という力を身につけてもらえたらいいですね。

ー 活動当初は復興支援事業の一環だったと伺いました。

当初は、『ART Revival Connection TOHOKU』主催の支援事業として行なっていたので、震災後の「心のケア」を目的にはじまりました。支援事業が終わる際、継続を求める声があったので実行委員会を立ち上げて現在に至ります。

『ダンス幼稚園』はダンスを体験するだけではなくて、出演者・スタッフそして観客の全員でご飯を食べているのですが、これは支援事業のときから続けています。震災直後に避難所の方々が炊き出しを行なうなど、協力し合って苦難を乗り越えました。その経験や感覚は忘れてはならないと思うんです。未曾有の有事がまた起きたときのために、老若男女隔たりなく「場」を共有することの意味を感じてもらえるようにと実施しています。

ダンス幼稚園 昼飯の様子(2018年)

ー 地域の方々へ文化・芸術の間口を広げている千田さんの活動やアプローチ力には、感服します。

私が思う文化・芸術の価値は社会的価値のあるものと同じだと考えています。文化・芸術は、製品をつくって販売するような経済ルートには乗りづらい。すぐルートに乗って「これはいくらです」みたいな世界じゃないから……。

理想的な立ち位置として、例えば公共施設や信号機などのように日々の生活で必要とされているものですかね。これからは、地域の方々にそれと同等の必要性があることを理解してもらい、その実現のために税金を活用させていただけるようになったらいいなと思います。

いま課題となっているのは、その必要性を地域の方と共有できていないこと。まずはそこを理解してもらえるような動きをつくることが大事じゃないかと。でもそれを真面目にやってもしょうがなくて(笑) こういうのは遊びが必要というか、余裕があり柔軟な対応ができる「共有の場づくり」が必要だと考えています。

ー 継続力が必要なんですね。そのためのコツとは。

それこそ遊び感覚でいることがポイントです(笑) 継続できているのは、これを生業にしていないことが大きいと思います。

ー 団体の事務所は塩竈ではなく、仙台なんですね。

理事の一人が仙台在住なので、事務所は仙台におかせてもらっています。私は住むところを転々と移動しそうだったので(笑)

先日、新型コロナウイルスの影響について事業関係者にアンケートをとったんですが、仙台は多種多様な業種の人が集まっている街だと改めて実感しました。また、普段の活動の中では「中途半端な規模感」という意見をよく聞くのですが、私は逆に芸術のジャンルを飛び越えて、横との繋がりがつくりやすい街だと思います。経済的にはやりづらい面もあるんですけど(笑)

ー 仙台市の文化・芸術における取り組みについて考えていることはありますか?

最近は 歩み寄りたいというか「お手伝いできることあれば声かけてください」という気持ちが強いです。でも、そんなことを直接窓口とかに言いに行くのもおかしいから、飲みながら楽しい企画をつくれる関係になれたらと考えています。もちろん、忖度や癒着にならない程度でバランスを取りながら、双方の負担が軽減できることを大切に。オンラインでもいいから、気軽に担当の方と飲みながら話し合える場ができたら面白そうですよね。

ー これからチャレンジしたいことがありましたら教えてください。

文化・芸術の20年後の在り方を10代、20代の人たちがどう考えているのかを聞きたいです。そして私はその実現のための土台づくりをする側になりたいと思っています。 「子ども議会」って知っていますか?子どもが参加する県や市町村主催の模擬議会のことですが、その仕組みに近い形で次代を担う「文化的コモンズ」として、若者が自由に発言できる場を設けたいと考えています。

ー 最後に、次代の『文化的コモンズ』になるであろう10代20代の若者へメッセージをお願いします。

はじめから「地域のため、誰かのため」という考えから入るのではなくて、当事者が楽しいと思うことをそこへ繋げていくことが大切だと思うんです。義務になると途端に苦痛になってしまいますからね。私の活動も同じように派生していて「ダンス=ダンスのことだけ知っていればいい」ではなく、地域にいる人たちや仕事に対して、社会の成り立ちにちゃんと目を向けてお互いの立場を理解しようとする努力を大事にしてほしいです。

取材日:令和3116

取材・構成:太田和美
撮影:豊田拓弥
取材協力:わだつみ保育園

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千田優太(ちだ・ゆうた)

1980年宮城県塩竈市生まれ。アートコーディネーター・パフォーマー。宮城教育大学卒業。2011年〜2014年ART Revival Connection TOHOKU(現ARCT)事務局を経て、2015年に同代表を歴任。2014〜2018年『三陸国際芸術祭』フェスティバルマネージャー。2016年『一般社団法人アーツグラウンド東北』設立。小学校教諭・コンテンポラリーダンスの経験を活かし、東北における地域と舞台芸術のための企画・制作を行なう。

アーツグラウンド東北 https://agra06t.jimdofree.com

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