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クリエイターインタビュー|千坂 まこさん(後編)

昨年大学を卒業し、大学の恩師が代表を務める「合同会社マイチデザインスタジオ」に就職した千坂まこ(ちさか まこ)さん。デザイナー・イラストレーターというクリエイターとしての道を歩み始めた千坂さんに、お仕事の楽しさや将来に向けての抱負についてお話を伺いました。

 

―卒業制作のイラストについて伺います。こうしたアイデアはどこからくるのですか。

この作品は、七ヶ宿の四季を表現した連作の観光ポスターなんです。七ヶ宿町って、水芭蕉や滑津大滝など、季節ごとにいいところがたくさんあるんですね。そこで「春夏秋冬」の4枚、プラス七ヶ宿町のシンボルである「コブシの木」の1枚で、計5枚の、イラストを使った観光ポスターを制作しました。

それぞれのポスターが1枚単独で成り立つことは勿論ですが、四季の4枚を並べると、背景が繋がっている連作になっています。中心にコブシの木を置いて、自分の好きな季節2枚をその両脇に置いて3枚セットとしても成り立つ…という観光ポスターを卒業制作で行いました。

「四季4枚で連作」は思いつきで、「3枚セット」は亀倉雄策氏のオリンピックポスターからヒントを得ました。「1枚単独は勿論、連作としても成り立つ」という考えは、学生だった当時の私からしてみれば新しい発見だったのですが、とうの昔にその考え方はすでに存在していて。日本画の掛け軸だとか。そういったことを考えると、昔から今までに残っている良い作品で、どこが良いのか、きちんと理解することは大事だと思います。

ポスターにイラストを使っているのも、ちゃんとした理由があります。現在、安価で高性能なカメラが気軽に手に入り、ソフトの性能も良くなりました。ネットで「観光ポスター」で画像検索していただくとわかると思うのですが、写真を使った観光ポスターは世の中に溢れています。写真は、ありのまま、そのまま正確に伝えることには長けています。しかし、魅力をより強く引き出し、他の観光ポスターと差別化するためには、イラストが必要なんです。

卒業制作のイラストを使った観光ポスター,4枚連作(左から順に「春夏秋冬」を表現)
3枚セット(左から「夏」「コブシの木」「冬」)

―このイラストの女性は誰かモデルがいるのですか。

特定のモデルがいるわけではなく、私の理想の女性という感じで、七ヶ宿町のイメージを崩さないために和服で描きました。卒業研究の発表展覧会はメディアテークで行ったんですけど、そこではこれをポストカードサイズにして、テイクフリーで置いてみたんです。テイクフリーだったら、どれが一番人気か分かるかなと思ってやってみたんですけれど、冬が一番人気でした。

―卒業制作でも七ヶ宿を取り上げたということで、地元の方も喜んでくれたのではないでしょうか。

結構好評で、地元の方々から嬉しいお言葉を沢山いただきました。これは、A1サイズのポスターなんですけど、拡大しても縮小しても見られるイラストというのをサブテーマにしています。モノによっては、大きくしたり小さくしたりすると、印象が変わってしまうイラストもあるんです。でもこの場合は、ポストカードのサイズに縮小してもA1の大きいポスターにしても、しっかりしたものになっていまして。展覧会のときには、ご高齢のおじいちゃん、おばあちゃん、お父さんお母さん世代と、小さい子ども達も結構来ていて、ポストカードは多くの方々に手に取っていただき、好評でした。多くの来場者に声をかけていただき、生の声をたくさん聞くことができました。

―就職活動では東京に出たい気持ちが強かったとのこと。ゆくゆくは東京へ行きたい思いがあるのでしょうか。

そうですね。結果的に戻ってくるにしても、ずっと仙台ではなく、一回は外に出た方がいいかなとは考えています。やっぱり、外に出ないと仙台の良さとか見えてこないと思うので。

―これからやってみたいこと、新しくチャレンジしたいことがあれば教えてください。

やってみたい仕事としては、医療関係、例えば歯科医院のブランディングとか、あと学校の校章とかですね。あとは、私がやらなければいけないことと思っているのは、イラストレーター、デザイナーとして名乗っている以上、イラストとデザインが一体化している表現ができるようになることです。現在は、イラストレーター、グラフィックデザイナー、フォトグラファー、コピーライターなど、分業化の時代ですが、昔はイラストとデザインって一人で分け隔てなく行っていたんですね。例えば、日本人に好まれるミュシャ(*)は、イラストからポスターとして落とし込むまで全部一人でやっていて。日本でご健在のデザイナーでいうと、永井一正氏がそういうタイプだと思うのですが、やっぱり一人の人がイラストもデザインも一貫して行うと、強いものができるんですね。イラストの扱いについて一番分かっているのが制作者なので、イラストとデザインとしてのレイアウトを一体化させて考えられるわけです。今後、イラストとデザインの分け隔てない表現ができないと、この業界で生き残るには厳しいかなと思っています。

 

*アルフォンス・マリア・ミュシャ。アール・ヌーヴォーを代表するグラフィックデザイナー

―「マイチデザインスタジオ」として将来的にやってみたい仕事はありますか。

ちょっと話が逸れちゃうかもしれないんですけど、将来的には「ここに頼みたいから頼む」と指名を受けられるような会社になりたいと思っています。そこから大きい仕事、日本全国に展開する仕事やもっと広く言うと世界につながる仕事をしたいです。後世に残るようなもの、同業者の方々から「あれは良い仕事だよね」と言われるようなものを作りたいです。分野は違いますが、スケートで活躍する羽生結弦選手とか荒川静香選手とか、あと漫画でいうと「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦先生とか、仙台出身で活躍している方は他にもたくさんいらっしゃいますよね。いずれはその中のひとりになれたらいいですよね。特に、羽生選手は私と同い年なので、勝手に「私も頑張らなきゃな」とか思っていたりします(笑)。

―仙台の良さはどんなところだと思いますか。

仙台は何かに集中して取り組むのにちょうどいい場所だと思っています。東京だと周りに情報が溢れていて、自分の好きなことにすぐ取りかかることができたり、いろいろなことを吸収できる良さはありますが、あちこちに目がいって情報過多になってしまい、一つのことに集中できない危険性も潜んでいるのも事実かと思います。仙台はめちゃくちゃ田舎というわけでも、めちゃくちゃ都会というわけでもなく、中間的なところなので、何かに集中して取り組むにはいい場所なのかなと思っています。

―仙台に対して、こうなってほしいと思うところはありますか。

私自身仙台から出たことがないので、受け売りになってしまうのですが、美術・芸術・デザインとかそういうクリエイティブにもっと特化した県立や公立の大学が仙台にあるといいと思います。需要は必ずあると思うんです。仙台って、東北の玄関と言われますよね。私は高校が美術科で、クラスメイトは卒業後だいたい山形の芸工大や秋田公立美術大学、東京や京都など、全国に散らばってしまって、宮城県に残るのはほんと一握りなんです。そういうことも含めて考えると、やっぱり仙台にそういった大学があるといいのかな、と思いますね。

―最後に、これからクリエイティブ業界で働きたい人や勉強中の人に向けてメッセージをお願いします。

主に、美大出身ではないクリエイティブ分野を目指す人に向けてのメッセージになるのかなとは思いますが、デザイナーやイラストレーターなどクリエイティブ分野で仕事をするのに必ずしも美大出身でなければいけないということは無いと思います。正直、私も就職活動中に「美大生ってすごいな」と思っていた節も一時期あったのですが、一番大事なのは「自分がどこにいるか」より「自分がそこで何をやるか」だと思います。自分が目指すべき姿を持ち、自分を信じて一生懸命に取り組むことです。あとは、一定の場所にこもってないで、東京の展覧会とか美大の卒展などに足を運んで吸収して、自分のものにしたり、外に出てみることも大事だと思います。

取材日:平成30年5月21日
聞き手:仙台市地域産業支援課、岡沼 美樹恵
構成:岡沼 美樹恵

 

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千坂 まこ

宮城県宮城野高校美術科、宮城大学デザイン情報学科を卒業。

2017年から、グラフィックデザイナーとして合同会社マイチデザインスタジオに勤務。同時期より、イラストレーターとして活動を始める。

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