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ハミングバード・インターナショナル(中編) 「十」から「七」への多業態化、そして人材育む飲食業に

先代のもくろみ通り人気店となった「炙屋十兵衛」をきっかけに、南欧バル、炉地バル、大衆酒場、うどん酒場など多業態化を加速するハミングバード・インターナショナル。各店が補い合う形で幅広い客層を取り込み基盤が固まると、さらなる発展に向け経営のバトンが渡された。将来国を背負って立つ人材を育成する場として飲食業を定義し直し、教育に力を注ぐ青木社長。他社との連携や、事業を通した社会貢献の可能性にも目を向けている。

「十」から「七」への多業態化、そして人材育む飲食業に

−その後、多業態化を加速されていきます。

青木 炙屋十兵衛が評判を集めて、仙台駅のエスパルに入らせてもらうことができ、ある程度売り上げも立ってきたことから店舗展開を広げていきました。炙屋十兵衛はハミングバードとは180度違う業態という位置付けでした。その後に作った店は、その間を埋めるような業態なんです。会社に内在する人的資源や顧客資源を生かしながら、その時のトレンドを見て、10年持つだろうという業態を予測して展開しています。

−主なブランドのコンセプトを順番にお聞かせいただけますでしょうか。

青木 まず炙屋十兵衛は大人の居酒屋。そして「南欧バル イナトーラ」は、店名にもしている稲荷小路と虎屋横丁の交差点にあり、人と人との交差点になりたいという意味合いで作りました。

国分町初進出ともなった2010年オープンの「南欧バル イナトーラ」(写真提供=ハミングバード・インターナショナル)

「炉地バル 八兵衛」は支倉常長の渡欧400周年の年にオープンしたお店です。イナトーラでバル業態が人気を得たので、今度は和洋折衷のバルをやりたいというところから、サン・ファン・バウティスタ号の料理人がスペインやイタリアを渡って学んできたことを日本で再現する、そんなコンセプトで作りました。

慶長遣欧使節団と絡めたストーリーで店作りを行った「炉地バル 八兵衛」(写真提供=ハミングバード・インターナショナル)

「稲虎2」はイナトーラに対して和の大衆酒場業態。生活の中にデジタルを介した世界が広がっているいま、人と人との温かみが求められているんじゃないかという予測の下、あえて席間を狭くして、隣のお客さんとも仲良くなれるような空間にしました。「蛇口焼酎」なんていうものも考案し、喜んでもらっています。

−「うどん酒場 七右衛門」も珍しい業態ですね。

青木 弟がやっている「麺屋久兵衛」という中華そばの店があって、十(十兵衛)、九(久兵衛)、八(八兵衛)と来たので次は七だと(笑) 好調な大衆酒場業態を増やしたいと思っていたところ、クリスロードの北側に40坪を超える大きめの物件が見つかり、ランチ難民を取り込んでお昼も集客したいと考え、昼間はうどん、夜は大衆酒場メニューのお店としてオープンしました。

昼はうどん店、夜は大衆酒場の「うどん酒場七右衛門」新伝馬町店(写真提供=ハミングバード・インターナショナル)

エスパル東館の「ハミングミールマーケット」はカフェ業態を持とうということと、中食に興味があったのでデリも販売する店として作りました。

−ありがとうございます。それらのブランドを立ち上げる際、青木社長が決めたコンセプトをスタッフの方にはどのように落とし込んでいくんですか。

青木 店舗を作る前にプロジェクトチームを作ってそのあたりは伝えますが、浸透させるのはなかなか難しいです。大きなコンセプトは用意していても、お客さまのニーズとずれることもありますので、軌道修正しながら運営しています。細かいところは常に揺れ動きながら、道を外れそうになったときは私が寄せる感じですね。

メニュー展開やサービスの指導も、基本的には店舗ごとに任せています。これだけ業態が多いと本部主導ではやりきれません。店長に裁量権を与えてやってもらって、それを補完するように本部が動いたり、もちろん業績的に思わしくなければ大ナタを振るったりすることもあります。本当に一寸先は闇の業界なので、常に悩みながら、どうしようかなと考えながらやっています。

−次々と店舗展開をしていく中、どのタイミングで社長を継がれたんでしょうか。

青木 最初は30歳になったら社長だからなと言われていたのが、35歳になったら社長だぞ、40歳になったらだとなって、途中から信じなくなりました(笑) 結局、八兵衛をオープンした2014年に社長になりましたが、何のタイミングだったんでしょうね。先代からすると、財務基盤的に、息子に継がせるのにある程度苦労させずに済むというタイミングだったのかもしれません。

十兵衛の時から店作りをやらせてもらっていたので、事業承継で苦労することはありませんでした。それまでも店の方針に関しては基本的に任せてくれて、目に余るときだけ軌道修正してもらっていた印象です。そういう意味では、20年くらいかけて社長として育成してもらったのかなと思います。

−代を継ぎ、どのような理念を掲げて経営されていますか。

青木 飲食業は同時に教育業だと思っています。世の中で働いている社会人の方の半分以上が、アルバイトなど何かしらの形で飲食店を経験しているのではないでしょうか。そういう意味では、飲食業は日本の国を形作る大人の登竜門とも言えるかもしれません。

仕事ができる人というのは、相手のニーズを的確につかんで、それに応えることができる人のことだと思います。接客でいえば、お客さまに「すみません」と言われてから動くのではなく、どうすればこのお客さまが喜ぶかなと考え、行動を起こすこと。それによって成功したり、失敗したりという経験をするのが大事です。

私は「経験サイクル」と呼んでいるんですが、お客さまはとても満足してくれると、お金を払った上に「ありがとう」と言ってくれます。そんな業種はなかなか無いですよね。そういう経験を若いうちから何回も、成功したり失敗したりしながらできる、非常に意義深い業種です。ご両親から大事な宝を預かっているという思いもありますし、将来国を背負って立つ人材を育成するという意味においても、いい経験を積ませてあげたい思いがあります。

飲食業イコール教育業として、人材育成に力を入れる(写真提供=ハミングバード・インターナショナル)

−飲食業は人材育成の場である、と。

青木 一方で対外的に、飲食業が社会に対してどんな役に立てるのか。社長になる前から「みちのく6次産業プラットフォーム」や「農商工連携プロデューサー育成塾」などに参加していたことで、徐々に「連携」による可能性が見えてきました。それまでは、自分の会社が利益を上げて税金を払うことが一番の社会貢献じゃないかなんて思っていましたが、他社さんと組むことで自社が保有する資源以上に力を発揮できたり、プラスに働いたりすることの可能性を感じるようになったんです。

また、高齢化が進む農業がこれから維持できるのかなど、社会的な課題にも触れるようにもなり、会社としてどう役に立てるだろうかと本気で考えるようになりました。そこで思ったのが、飲食店はまちを明るくしたり、通りを明るくしたりできるじゃないかと。われわれの事業そのものが社会に役に立つ事業に成り得るかもしれない。そのことに気付かされたのが「イナトーラ」での経験だったんです。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

 

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株式会社ハミングバード・インターナショナル

〒980-0014 宮城県仙台市青葉区本町2-6-16 青木ビル3階

TEL:022-225-0522 FAX:022-215-6509

1957年7月1日創業、1975年4月1日設立。事業内容は飲食店経営業務全般。社員数は正社員89人、パート・アルバイト380人(2020年4月現在)。

運営店舗:osteria humming bird(本町店)、osteria humming bird(セルバテラス店)、pasta&pizza humming bird(石巻店)、trattoria humming bird(泉パークタウンタピオ店)、trattoria humming bird(ララガーデン長町店)、humming bird VECCHIO、炙屋十兵衛(二日町本店)、炙屋十兵衛(S-PAL店)、究極の親子丼 炙屋十兵衛(三井アウトレットパーク仙台港店)、南欧バル INATORA、炉地BAR 八兵衛、PASTINOVA(シャポー市川店)、HUMMING MEAL MARKET COFFEE&BAR、PUBLIC HOUSE、大衆酒場 稲虎2、うどん酒場七右衛門(新伝馬町店)、うどん酒場七右衛門(S-PAL仙台店)、Route 227s’ cafe TOHOKU、ハミングバード・デリバリー

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