フロット(中編) 企業の思いに共感し、デザインで課題を解決
チラシやポスター、商品のパッケージといった目に見えるビジュアルや形を作るだけでなく、企業が抱える課題を解決することも、あるいはそれこそが「デザイン」であるという考えは、業界において共通認識を得ているだろう。そのためのステップとしてフロットが大切にしているのが、企業の経営理念やビジョンを社内に浸透させるインナーブランディング。社員を巻き込んでプロジェクトを成功させたいくつかの事例を紹介してもらった。そこから見えてきたキーワードは「共感」。
企業の思いに共感し、デザインで課題を解決
―肝心のデザインについてはどのような考えで取り組んでいらっしゃいますか。
五十嵐 デザイン手法やクリエイティブといったものづくりの分野に力を注ぐのはデザイン会社として当たり前なのですが、顧客の課題解決が目的だと考えると、これまで自分たちがやってきたものづくりとは少しベクトルを変えなくては役に立つ企業になれないという実感を持ち、ブランディングに力を注ぐようになりました。
中小企業家同友会や倫理法人会など、いろいろな業種の経営者が集まるところで一緒に勉強させていただいたり、異業種交流会に参加したりして、直接経営者の方々と知り合う機会が増えていくと、リアルな課題が聞こえてきます。その課題に対して、デザインで解決できることがあると思いました。
どんな手伝いができるか整理すると、社内でビジョンの共有と浸透を行う「インナーブランディング」、ビジョンや経営理念に則して会社の強みを顕在化しビジュアルに展開する「アウターブランディング」、そして売る・集めるといった成果目標達成を支援する「セールスプロモーション」と大きく分けて3つがあります。
もともと私たちのメインだった仕事は、チラシやパンフレットを作るような「セールスプロモーション」のところだけだったんですよね。その仕事が来るのをただ待っていて、入ってきたら入ってきたで時間のない中でとにかく仕上げる。そういう携わり方が多かったのですが、大本のブランディングの部分からご相談に乗ることで無駄なく、ぶれずに、課題解決につながる提案ができるので、そこからお手伝いしたいと考えるようになりました。
―具体的にはどのように進めていくんでしょうか。
五十嵐 企業の経営理念や価値観を社内で共有し、浸透させるために社内啓蒙(けいもう)活動を兼ねて会議を開くのですが、最終的にはものづくりをすることを前提に、アウターブランディングを必ずテーマにしていただきます。例えば会議を4回やって、その先にはウェブリニューアル、会社案内、またはロゴデザインと、具体的な形のゴールを決めて、そのプロセスをインナーブランディングという形で社員さんを巻き込んでプロジェクトを進めます。
―それは企業側に理解して、受け入れられてもらえるものですか。
五十嵐 受け入れてもらえる方と一緒に取り組んでいく、ということですね。理念経営(ビジョナリー経営)をされていて、何をやるにも理念が大事だと考えているのに、なかなか社内に浸透しない。そういう悩みを抱えている経営者の方に、例えば社員さんと一緒にウェブを作るプロジェクトを進めていくことで、理念を浸透させていきましょうとご提案をします。いくつかそういう事例もできてきました。
例えばエツキさん(山形県村山市、高精度大型鋳物加工・各種産業装置・OEM・設計開発を手掛ける)から、50周年を迎えロゴマークを変えたいというご相談を頂きました。そこで、インナーブランディングを行ったところ、「きさげ」の技術(エツキの代表的な製品である高剛性汎用(はんよう)フライス盤を作るための伝統的な職人技)が一番大事にしたいものだという声が社員さんから出てきました。
社長がトップダウンで「うちはこうだ」と言うのではなく、社員さんたちが自分たちの強みを見つけるワークを行う中で「きさげはうちにしかない」と。それをロゴに込めたところ、総務の方から工場の方まで、社員さんたちが「この会社のロゴマークは、きさげという技術があって…」と自ら語ってくれるので、社内浸透も早いんですよね。プロジェクトに関わったことで社員さんも生き生きとしてくるのが感じられました。
―ほかにはどのような事例がありますか。
五十嵐 こちらの「こりすのふゆじたく」という商品は、高畠町の菓子工房ココイズミヤさんと一緒に開発したものです。こういう小さなお菓子屋さんは、ショートケーキなどの生菓子はよく売れるんですが、安定してずっと用意しておける焼き菓子でヒットを出せれば経営がとても楽になるんですね。そこでココイズミヤさんでは、地元産デラウェアのレーズンを使ったお菓子を作ろうと考えていたんですが、非常に手間がかかるので、価格を少し高めに設定せざるを得ない。そこでブランディングの力を活用したいと相談を受けました。
お店に伺って、かわいい女性のスタッフさんたちが働いているのを見て、リスが一生懸命動き回っているようなイメージが湧きました。レーズンを採ってきて、サクサクに焼いた生地に一生懸命バターを塗って、冬の間の自分たちのご褒美のためにおいしいものを作る。そんな作業工程をイメージできるストーリーをデザインに込めました。商品自体もとてもおいしく出来上がって、売れ行きが非常に伸びています。楽しそうに「こりすのふゆじたく」のディスプレーをしている社員さんを見て、いいお役に立てたなと思います。
―単にお菓子のパッケージをデザインする、という仕事ではないわけですね。
五十嵐 そうです。経営課題のところまで見て、焼き菓子をそういう価格設定で売りたいとなったら、何で付加価値を付けるべきかを一緒に考えるところから始めます。そういうお手伝いは、共感が持てないとなかなかできないんですよね。会社の理念や、やろうとしていることに私たちが共感して一緒に取り組んでいけるかどうかが、いい仕事になるかどうかの分岐点だと思います。
株式会社フロット
■山形 〒990-2251 山形県山形市立谷川3-1410-1
■仙台 〒983-0803 宮城県仙台市宮城野区小田原1丁目7-6
ブランディングおよびセールスプロモーションの、企画・デザイン、取材、撮影、動画編集など。
社員34名(2019年現在)で、中小企業のブランディングのほか、大学や病院の広報、食品メーカー・食品スーパーの販促実績多数。
- Web : https://flot.co.jp/