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岩沼精工(後編) ものづくりの未来のために、楽しさと可能性を伝える

国内企業の生産拠点が海外に移ってはや20年以上。産業の空洞化も叫ばれて久しいが、ここに来て国内回帰の動きも見られ始めている。しかし、それを受け入れるために欠かせない働き手の不足はますます深刻だ。そんな中、岩沼精工では工業高校以外の生徒を受け入れて育成し、定着させることに成功。さらに、いずれ自らの進路を決めることになる子どもたちに、ものづくりの楽しさを植え付けている。自社のためだけでなく、日本のものづくりの未来のために。

ものづくりの未来のために、楽しさと可能性を伝える

−これからのことについてもお聞きしたいんですが、まずここ数年の状況はいかがでしょうか。

千葉 皆さんと同じくリーマンショックのときは大変でしたが、やっぱり震災が一番しんどかったですね。工場は周りの市道より1メートルかさ上げしているんですけども、それでも1.5メートル水が入ったので、機械はみんな使えない状況になりました。工作機械は総入れ替えし、プレス機械は心臓部が上にあるので全て掃除して、部品交換で対応しました。3カ月かけて何とか復活して、操業を再開して、そこからはずっと右肩上がりで来ています。

水に漬かった大型機械は社員らで掃除し、部品交換して復活させた

−中国など海外生産の流れはその後どうなっていますか。

千葉 十数年前に一気に海外に移って、国内でしかやれないものが残って、それは引き続きやっているんですけども、国内にまたちょっとずつ戻ってきているんですよね。海外に出すメリットがだんだんとなくなってきている中、すでに流れているものはそのままだとしても、新規で起こすものに関しては国内でやろうという動きがあります。

例えば金属部品一つだけでいくと、実は中国が相手でも価格競争には負けません。実際に見積もりを出させてもらったこともあって、何でその数字が出せるのかと言われましたけれど、日本の技術だと人件費をカバーするくらい(製造の)スピードが速いんです。

中国も品質レベルは年々よくはなってきているといっても、まだ常に人がついて、上がってきた部品一個一個を見なくちゃいけない状態です。われわれは基本的に自動化されていて、一度動かしたら機械に人はほとんどつかず、例えば1ロット5万個のうちの初めの部分だけ見れば問題ないと判断できるノウハウを持ってやっているので、そこら辺は大きく違いますよね。そうした実績がありますから、いま国内に帰ってきたことに対して驚きはありません。

日本のものづくりの競争力について熱く語る千葉社長

−そんな話を製造業の取材でこのところよく聞きます。

千葉 ただ、プレス部品だけを日本で作って、それを中国に送るかというと、しないんです。全部セットでやっちゃうんですよ。そうなってくると、樹脂成形品は中国でやっても日本でやっても時間がほとんど変わらず、向こうの方が断然安い。組み立てる最終工程の人件費を考えると、やっぱり中国で作った方がまだ安いという話なんですね。

−そんな状況の中で、今後の展望をお聞かせください。

千葉 いま社員が五十数人なんですけど、人数をどんと増やす気はありません。規模は変えずに、いまの1.3倍、1.4倍くらいの売り上げを立てるのが目標です。それを達成できる設備と人員はそろえてあるので、あとは仕事を持ってきて、いかにこなすかだけだよという話を社員みんなにしています。

−採用については。

千葉 求人を出してもなかなか集まらないのが現状です。金属に限らずものづくりに興味を持ってもらえないというのがあって、製造業の人手不足はこの先しばらく続いていくだろうと思います。特に、われわれみたいな中小企業は厳しいですよ。

宮城県内でも電機メーカー、自動車メーカー、部品メーカーの大手があって、工業高校の生徒さんたちはそっちを目指すんですよね。もちろん親御さんも勧めるでしょうし、それはそれでしょうがない。じゃあわれわれはどうやって人を集めていったらいいかということで、普通科や商業科の生徒たちに目を向けてもらうような取り組みをしています。

実際、いまわれわれの製造現場で働いている89割は普通科や商業科卒の人たちで、ものづくりは全然分からないですと言って入って来た人たちも育ててきました。その中にはもちろん女性もいて、大きな機械を動かしています。

機械の操作を経験したことのなかった普通科卒の若手や女性も多く働く

−製造業に目を向けてもらうために、どんな取り組みをされているんでしょうか。

千葉 高校よりももっと前の、小学校の子どもたちにものづくりに触れてもらう機会をつくっています。「きのこま」を作ったときに、すぐに飛び付いてくれたのが子どもたちだったんですね。でも、小学生にとってはちょっと高価なので、工場に来てコマを作って、それをお土産に持ち帰ってもらうというものづくり体験を始めました。それと一緒に、ものづくりの現場を見学していってもらうんです。

高校生が進学ではなくて就職を考えるときって、まだ選択肢はそう多くないですよね。そのときに、そういえば昔コマ作りをしたな、社長さんが金属のことを話していたなと思い出してもらうことを期待して、小学生にものづくりの面白さを伝えています。従業員たちにも社会貢献の一環だからということで、小学校などに派遣しているんですが、だいぶ人気になっています。

パーツを組み合わせてオリジナルのコマを作るものづくり体験は子どもたちに大人気

−子どもたちにはどんなことを伝えているんですか。

千葉 うちの会社のスローガンでもあるんですけれども、「できない理由を述べるより、できることを考えよう」ということ。「これをやって」と頼まれて「できません」と言ったら、もう会話が終わります。そこで一呼吸置いて、「これを片付けたらできるから、ちょっと待って」と言えば、話が展開できるじゃないですか。いろいろできる方法を考えてやるのが、われわれものづくりの世界の基本だと思います。

いまの子どもたちが大人になったときにどういうものが出てくるのか分かりませんけども、それを作っていく可能性が君たちにあるんだよ、と。だから、こういうものができたらいいな、どうすればできるかなということを一生懸命考えてもらいたいと伝えています。

われわれも決まった世界の中でやっていたら、例えばスマホだってでき得なかったと思うんです。そこに挑んできた人がいるからこうして形になった。ちょっとやってみようかという挑戦する勇気を常に持っていなくちゃいけないし、そういう気持ちを子どもたちにも持ってもらいたい。それが10年後、20年後のものづくりの世界に生きてくるんじゃないかと思っています。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:庄子 隆

 

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株式会社岩沼精工

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プレス加工(量産、試作、金型製作)、精密機械加工(量産、治工具、各パーツ部品)、板金加工(精密板金、架台、溶接)、省力化機械(設計、製作、据付)など幅広く対応しております。創業以来、これらの技術ノウハウをお客さまと共につくり上げてきました。今後もより良い「ものづくり」を共に目指してまいります。

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