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クリエイターインタビュー前編|大江 よう(「TEXT」主催)

ものそのものではなく、それをとりまく「文脈」のなかにこそ何かがある。

テキストとテキスタイル、二つの言葉はともに“織り上げる”を意味するtexereを語源とする。仙台を拠点にこれらのデザインを通して、そこにある「文脈」を収集し、物事のあり方や豊かさの意味を拡張する活動を続ける「TEXT」を主催する大江ようさん。謎に包まれたその試みについて伺うため、市内にある工房を訪ねました。

 

―大江さんが主催されている「TEXT」の活動についてお聞かせください。

一言でお伝えできるような実態はまだないんですが、テキスタイル制作全般に関わる活動をしています。言葉で組まれる「テキスト」、繊維や糸で編む「テキスタイル」。それらの語源を調べると、両者はともに「texere=織り上げる」という意味にたどり着きます。TEXTの活動では、それら二つのデザインを手がけていくことを土台に、そこに潜む「文脈=コンテキスト」を見つけ、収集する活動を続けています。

―なぜ「文脈」なのですか。

たとえば、豊かさについて考えたとき、一見価値がないと思われているものも、文脈というものがあることで物事の見方や意味は変わってくる。価値観は時代によっても変化しますし、ものそのものの価値よりも、それらをとりまく文脈のなかにこそ何か示唆するものがあるのではないかと考えています。僕自身が表現したいものをつくることもありますが、作家さんや企業の方など他の人とコミュニケーションを重ねながらつくっていくことが多いですね。

―そうした活動を志すようになったのはどのようなきっかけからだったのでしょうか。

宮城に生まれ、高校までは仙台で過ごしました。父は精神科医で、書斎には哲学や文化人類学、小説など本がたくさんあり、わからないながらもよく読んでいたんです。それらに触れるなかで身体的なこと、服で言えば「ブランドとしての服」よりも「衣服そのもの」、人間にとって衣服やテキスタイルがどういうものであるか根源的な部分にとても興味を持ったんですね。仙台の高校を卒業した後、東京にある桑沢デザイン研究所という服飾の学校に進学し、現在の道に進みました。

―いわゆるハイブランドなどのファッションの文脈とは違ったところから衣服にたどり着いた、その経歴もとても面白いですね。

僕の興味のなかにはいつも“人間が纏うものとしての衣服”があるんです。専門学校で服飾を学んだ後は衣服造形家の眞田岳彦先生に弟子入りしました。眞田さんは元々ファッションブランドのイッセイミヤケにいた方で、衣服を媒体に「身体とは何か?」「生命とは何か?」ということについて考え、作品にしています。ちょうど僕が学校を卒業する年に教えに来られて、そこでの出会いがきっかけで師事することに。

―弟子入り…!現在の活動の核となる思考はここで培われたのですね。

眞田さんは哲学者の鷲田清一さんなどと社会との関係性を衣服で表現する作品も発表されていて、そうした活動や考えに触れることができとても刺激を受けました。6 年ほど手伝った後、もう少しマスで消費されるファッションを勉強したいと思い、アパレルメーカーに転職したんです。最初はデザイナーとして入り、最終的には事業部として運営のマネジメントや予算管理などを担当しました。なので、現在の仕事につながるコンセプトや思考の部分は現代美術から学び、アパレルのリアルな知識や技術、たとえば棚卸しの方法やお金の流れなど、服づくりの現実的な部分はアパレルでの経験から学んだんです。

―それらの経験を活かし現在はフリーランスで活動されていますが、当初から独立の計画はあったのでしょうか。

35歳ぐらいまでにはという考えはありました。経験を積みながらちょっとずつ実行してきた感じです。高校を卒業してからずっと東京にいて、2018年に独立して仙台に戻ってきました。

―TEXTのInstagramを見ていると、服飾とアートの領域を横断するような、ユニーク作品が多いように感じます。こうした仕事はどのようなきっかけから生まれるのでしょうか。

これまでの活動を見ていただいてご依頼をいただくこともありますし、僕から何か一緒につくりませんかとお誘いすることもあります。これは「タコ飯」がアイコンの料理家・chiobenの山本千織さんをイメージし勝手につくった布で、タコの煮汁を使って染色したテキスタイルです。最初は美味しそうな匂いがしていたんですが、だんだんとれてきました(笑)。

TEXT instagram https://www.instagram.com/text_textile/

美味しくてユニークなchiobenの活動そのものを表現するようなタコの煮汁を使って染色したテキスタイル。

―一緒に制作される方とのアイデアの掛け合いが面白いですね!デザインの素案をつくるにしても、反射神経がよく、考えつつも煮詰め過ぎないスタイルが魅力的です。

そういったものづくりを楽しんでくれる方や企業とともにつくることが多いですね。そうした部分は現代美術から学んだ影響が大きいと思っています。テキスタイルが元々持っている役割からブレていなければ、染色に多少むらがあろうが、インクが滲んでいようが、それはその表現の範疇にあると思っています。先日は阪神百貨店さんの企画でクリスマスプレゼントを包むラッピング用のテキスタイルを作りました。環境や社会貢献に配慮する「エシカル」や「アップサイクル」をコンセプトに、繊維の産地である愛知県一宮で今はもう使われていない生地を引き取ってつくるオリジナルプロダクト。全部で500枚、一つひとつ手で刷ったので多少の色むらは出てしまったのですが、それも味わいとして楽しんでもらえました。最初に目指していたかたちから飛躍しさまざまな広がり方をすることもありますが、その方が面白いものができることも多いです。

阪神百貨店と制作したクリスマスラッピング用のテキスタイル。鮮やかなグリーンの生地に、日本画でも使用される胡粉を混ぜたインクでイラストが刷られている。

―デザイン以外の仕事ではどのようなものがあるのでしょうか。

コンセプトメイキングやコーディネート、スタイリングで携わる仕事もあります。アーツカウンシル東京が企画したプロジェクトでは、Gottingham(ゴッティンガム)の作品に衣装演出として参加しました。この本に写っているモデルは実際には寝ているんですが、衣服によってまるで立っているかのような重力を表現して欲しいというリクエストがあり、撮影の際、服の上に皺を一本一本入れながらその重力を表しました。

TEXTの活動では、写真家や建築家、料理家など、他ジャンルの方とともにつくっていくことも多く、仕事内容にあわせて自分の肩書きも変えています。スタイリストを探していればスタイリストですし、生地のデザインをして欲しいという依頼であればテキスタイルデザイナー、文章を書くときはライターなどさまざま。コンセプト重視のプロダクトも多いので、最初の打ち合わせで何を重要視するか、前提の部分をしっかり擦り合わせるようにしています。依頼をいただければ何でも取り組みますし、ではなぜその表現やデザインを求めるのかという意味を考えながら進めていきます。こうした活動を続けていくことによって、TEXTとしての輪郭がどんなふうに見えてくるんだろうというところは僕自身も楽しみなんです。

クリシュナ—そこにいる場所は、通り道』(アーツカウンシル東京/2018)のドキュメントブックでは衣装演出を担当。寝転ぶ人びとの衣服に、重力を感じさせる皺を一本一本表現した。

取材日:令和2年1月29
取材・構成:鈴木 淑子
撮影:小泉 俊幸

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大江よう

宮城県出身。現代美術家のアシスタント・アパレルメーカーを経て、テキスト・テキスタイルのデザイン・製造・販売等を行う「TEXT」を主催。メタポップユニット「Frasco」の衣装担当。ファブリックブランド「LAWN」を妻と運営するなど、いろいろやっています。

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