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クリエイターインタビュー前編|Nami Sato(サウンドアーティスト)

自分のやりたいことを長く続けていく
それがまちや他の人のためになればいい

2011年から宮城県を拠点にアンビエントミュージックを中心とした音楽活動を開始し、2018年にはレッドブルが主催するミュージックアカデミー「Red Bull Music Academy 2018 Berlin」に選出されるなど、活躍のフィールドを着々と広げているサウンドアーティスト・Nami Satoさん。今回は直近の取り組みや、活動の持続性についてお聞きしました。

― 普段のお仕事やリリース音源などについて、ご紹介をお願いします。

音源としては、2021年にリリースした『World Sketch Monologue』が最新です。

この『World Sketch Monologue』のリリースパーティーをオンライン開催したのが直近だと記憶に新しいです。仙台市荒浜にあるスケートボードパークの「CDP skatepark & playground」を会場に宮城県出身のイラストレーター・亀井桃さん(https://momo-kamei-1.jimdosite.com/)のライブペインティングを並行したライブをし、その様子をオンライン配信しました。

『World Sketch Monologue』リリースを記念した無観客ライブパフォーマンス配信映像はこちらから購入およびダウンロード可能です(https://namisato.theshop.jp/items/52153354

CDP skatepark & playgroundでは2016年以降「CDPの夏祭り(Arahama Calling)」というイベントで例年ライブをしていたんですが、新型コロナウイルス感染症の影響等で開催そのものが厳しい状況が続きました。なので2021年は「やっとライブができた」という感じでしたね。

― 東日本大震災以降からアルバム『ARAHAMA callings』を発表するなど、本格的に音楽活動を開始したとお伺いしていましたが、フィールドレコーディングという手法やアンビエントミュージックというジャンルへ行き着くまでの経緯を教えてください。

もともと独学で音楽制作を学んでいましたが、本格的にフィールドレコーディングを始めたのは2016年、若林区荒井にある「せんだい3.11メモリアル交流館」の企画展のために音楽を作ってほしいという依頼がきっかけでした。フィールドレコーディングは野外の環境音を録音していくもので、仙台市沿岸部の地域を交流館のスタッフの方と周って音を収録し、そこから音楽制作を試みました。

アンビエントやフィールドレコーディングがやりたかったというよりは、そうした活動があって、結果として行き着いた感じです。アンビエントというジャンルに関しても、制作した音源をWebにもアップしているうちに、イギリスのアンビエント系サウンドを扱うレーベルから声がかかり「あ、私が作っているのってアンビエントなんだ!」と気づいた感じです(笑)。

― では、アンビエントに出会ったのも音楽活動を始めてからですか。

いえ、アンビエントそのものと初めて出会ったのは高校2年生の頃です。ラジオで流れていたブライアン・イーノの曲を聴いたのが始まりでした。音数の多いJ-POPも好きですが、アンビエントは音数が少ないにも関わらず、すごくカッコよくて。殴られたような衝撃を受けましたね。

流れで始めた部分も大きいですが、アンビエントミュージックを作ることそのものがすごく楽しくて、時間も忘れるくらい制作に没頭してしまいます。BPM(楽曲の速さ)に決まりがないために時間感覚も狂いやすく、気がついたら朝になっていた…なんてこともよくあります。市街地で生活しているとモヤモヤを抱えやすかったり、時間に縛られながら生きている感覚になりやすいですが、アンビエントはそういうものから解放される力を持っていると思います。

― 日本でいうと関東圏でもご活躍されている印象がありますが、最近だと県外での活動はいかがでしょうか。

県外だと新型コロナウイルス感染症の影響でライブ活動は減っているものの、劇伴(映画で使われる音楽)の仕事で関東圏との関わりはありますね。

劇伴の仕事は、大学時代の同期たちが監督する映画作品に参加したのがはじまりでした。卒業した大学の専攻が映像学科で、映画監督として活躍している同期も多くて。作品のストーリーを紐解きながら制作していく過程の中で悩むことも多いのですが、監督と「これだよね!!」と着地できるゴールが絶対にあるんです。大変さよりもゴールに向かって制作していくのが楽しいという気持ちが大きいので、大好きな仕事です。

ここ最近劇伴で関わった作品だと、12人の映画監督による短編オムニバス映画『DIVOC-12』が2021年10月に公開されました。

また、同じく劇伴で関わった飯塚花笑監督の映画『世界は僕らに気づかない』の公開も今後控えていますので、楽しみにしていてくださいね。

― 2019年には石巻市を拠点に活動する音楽家の四倉由公彦さんとの共作音源『Musics For Bamboos』も発表されていて、気になっていました。たびたび聴こえてくる「コツコツ」という音もタイトル通り、竹(Bamboo)を使っているのでしょうか。

『Musics For Bamboos』も、せんだい3.11メモリアル交流館の企画展のために四倉由公彦さんと制作したものです。

パーカッションはほとんど竹を使っているので、「コツコツ」「シュッシュッ」というのも全て竹の音です。風による竹のざわめきや、竹の楽器をつくるワークショップで参加者の方たちと鳴らした竹の音、荒浜の写真家・佐藤豊さんが得意の竹細工制作で竹を削っている音などにシンセサイザーが混ざり合うように構成しました。

― 2021年には新作音源のリリースパーティーで亀井桃さんと合同ライブもされたと先ほどお聞きしましたが、宮城出身・在住のアーティスト同士でクリエイションしていくことに関して、どのように考えていますか。

まず、自分のためだと考えています。少し前までは「自分のために活動しよう」「自分のためにお金を得よう、ビッグになってやろう」という気持ちにはなれませんでした。自身が周りのために活動して、自分の住んでいるまちが良くなったらいいなという想いが先行していたので。ただ、動機が自分のやりたいことじゃないと持続性がないと思いますし、自分がやりたいことを好きにやっていくしかないと考えるようになりました。

とはいえ、チームでの制作に育ててもらった部分も大きいので劇伴や映像音楽などのクライアントワークも大切にしています。でも、海外のクライアントから音楽とは直接関係のない人種や外見について指摘されたことに強く違和を感じて。それから「好きなようにやってやるぞ」と吹っ切れた部分もあります(笑)。

他者のためにやって、自分が嬉しい。それって結果的に自分のためですよね。それが結果として他の人や地域のためにもなれば良いと思うんです。

取材日:令和3年12月3日

取材・構成:昆野 沙耶(恐山 らむね)
撮影:はま田 あつ美
取材協力:キジトラ珈琲舎

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Nami Sato(なみ・さとう)

1990年生まれ。サウンドアーティスト。宮城県仙台市荒浜にて育つ。活動拠点を仙台に置き、アナログシンセサイザー、フィールドレコーディング、アンビエント、ストリングスなどのサウンドを取り入れた楽曲を制作している。東日本大震災をきっかけに音楽制作を本格的にはじめる。2013年、震災で失われた故郷の再構築を試みたアルバム “ARAHAMA callings” を配信リリース。2015年3月11日から毎年、母校である震災遺構荒浜小学校での「HOPE FOR project」にて會田茂一、恒岡章(Hi-STANDARD)、HUNGER(GAGLE)らとライブセッションを継続している。2018年 “Red Bull Music Academy 2018 Berlin” に日本代表として選出。2019年、ロンドンを拠点とするレーベルよりEP “OUR MAP HERE” をリリース、BBC Radio等多くの海外メディアに取り上げられる。2021年3月31日、最新フルアルバム “World Sketch Monologue” をリリース。他、国内外の映画や広告映像などへ多くの楽曲を制作、提供している。

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