クリエイターインタビュー後編|山口晃(撮影業)
仕事をするというよりは、僕はただ暮らしているだけなんです。
撮影を生業にする山口晃さんは、写真や映像によって人やものの魅力を最大限に引き出し、より豊かな表情を持たせる。そんな山口さんは会話の中で「仕事は遊ぶ感覚に近いんです」と語った。後編ではその言葉の真意や、仕事への姿勢を覗いてみた。
―海外を飛び回っていた山口さんが仙台を拠点に選んだ理由はなんですか?
地元だからです。自分の生まれたところで、自分のよく知っているフィールドで仕事をしたかったんですよ。この街で出来ることは限られているけど、可能性を作ることはできる。当たり前ですが、最初に何かを始めた人がその道の先駆者になれますから。自分の土地に誇りを持って、好きなことをしていきたいです。アメリカといってもニューヨークがあり、ポートランドがあり、ロサンゼルスがあり、テキサスがあるように、日本も東京だけじゃない。確かに東京は先端の地ではあると思いますが、なんでもかんでも東京一点集中はどうかと思っています。全国にはいい街がたくさんあります。ここ仙台も!
―実際に仙台で独立して良かったことはありますか?
こうして生まれ育った土地で働いていられることが良かったなと思います。関わってくれる皆様のおかげで働き続けていられることが本当にありがたいです。転職やキャリアアップがスタンダードになったいまでも、以前お世話になった会社と関係が継続できることも同じ街にある距離感ならではだと思っています。例えば、いまは冒頭に述べた福祉関係の会社にボランティアで動画を作っていて、人手不足など厳しい業界なのでPR などで少しでも役に立つことができたらいいなと思っています。退職して約10 年経つのですが、やっとお世話になった恩返しをすることができて嬉しいです。
―先ほど「仕事は遊ぶ感覚に近い」とおっしゃっていましたが、具体的にどういった感覚なのか教えてください。
「仕事」だからこうしなきゃとか、「プライベート」だからこうしなきゃという意識のスイッチをわざわざ切り替えるようなことはしないイメージです。暮らしていて、日常の色々なことからインスピレーションや感情を得ます。そのヒントを常にストックしているので仕事やプライベートに関わらず、いつでもその引き出しを開けて活かせるようにしているんです。かなりふざけたインスピレーションでも効果的でマッチするなら仕事でも使いますし、ただこれは個人の見解ですが、独りよがりな仕事はダメだと思いますまずはお客様の話をよく聞いて、何のために制作し、どう形にするかを考えてお客様のために尽力します。だから、自分の中で「仕事」と「プライベート」の違いは何のためにやるかで、仕事は人のため、作品=自己表現や、遊び=自己満足は自分のためにやるという目的が違うことくらいですね。仕事の時はアイデアと技術をなんのためにどう使うか24 時間365 日ずっと考えていますし、それを活用できるタイミングはいつも狙っています(笑)。なので、仕事であっても遊んでいる感覚に近いという表現をしたのですが、遊んでいるというより暮らしているだけですね。
―なるほど。今までで印象深い仕事はありますか?
これは僕が本格的に映像を始めるきっかけになった出来事なんですけど、同じ業界で東京を拠点にバリバリ働いている仙台市出身の“章ちゃん”という友人に誘われて一緒に仕事をすることになったんです。彼はディレクター、僕は撮影という役割でした。でも直前になって「晃さん、俺は行けなくなったんでお願いします」と急に連絡が入ったんです。すごく困惑したんですけど、もうやるしかないので無我夢中でディレクターの仕事をしました。その後、彼にはふざけるなと連絡したら「じゃあ、編集もやってもらっていいですか?」とお願いされたんです(笑)。できるわけがないだろうと思いながらも、仕方ないのですぐにソフトをインストールしました。
―突然の出来事だったんですね。
彼に編集のやり方を教えてほしいと連絡すると、YouTube の動画が送られてくるんですよ(笑)。試行錯誤でなんとか完成させることができたんですけど、最終的にはなんとなく心を掴めるような作品ができたんです。結果的に、報酬や内容次第ではプロデューサーやディレクターなどを挟まずに自分ひとりでやることが増えるから自分で一通りできたほうがいいという彼のメッセージだったと信じています(笑)。最後に、失敗していたらどうする
んだと彼に言ったら「でもこの感じじゃなかったら多分やんないでしょ」と7歳年下の先輩にご指導いただきました(笑)。でもそこから僕の映像のキャリアが始まったのでとても感謝しています。5回くらい殴ろうと思いましたけど(笑)。
-今後チャレンジしたいことはありますか?
正直よくわからないです。そんなに先のことよりもいま仕事をくれる方々と現時点でできるマックスの仕事をしたいです。チャレンジということはあまり考えていないですね。出会ったことにそのとき思ったように、感じたまま対応して生きていきたいです。
―最後にクリエーターを目指す方へメッセージをお願いします。
写真が上手=いい仕事とは限らないかもしれませんね。道具や技術は二の次で、まずは出会うものに対して素直に感じることを重視したほうがいいのではないかと思います。色々なものを見て食べて体験することで自分作りをするのが一番大切。百聞は一見にしかず、なので。ひとつの世界を知っているのと知らないのでは大きな差が出ますし、それがいい仕事に繋がる可能性だってあると思うんです。あとはクリエイティブ分野に限らず、30 代になって自分の考えや行動などを守りたくなる前にやりたいことはやったほうがいい。失敗しても29 歳まではなんとかなりますからね。
取材日:令和2年2月4日
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:豊田 拓弥
前編 > 後編
山口 晃
1982 年生まれ、宮城県仙台市出身。株式会社アオバカラーを中心に修行。写真創りを遊びと基礎の両面から学び、独立。宮城県仙台市を拠点に、スチルライフ撮影、動画撮影に取り組んでいる。