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クリエイターインタビュー前編|奥口文結(ファシリテーター・ブランドデザイナー)

自分の意見を正直に伝えることで、一緒にいい方向に進んでいく。伴走者のようなスタンスで仕事に取り組んでいます。

エフエム仙台のラジオパーソナリティとして活躍された奥口文結さん。2019年にフリーランスとなり、現在は「FOLK GLOCALWORKS」を主宰し、ファシリテーターやブランドデザイナーとして仕事を手掛けています。前編では、これまでの経歴を辿るとともに、この仕事を始めるに至った思いについて迫ります。

― 現在の仕事内容を教えてください。

肩書きは、ファシリテーター、ブランドデザイナーの2つです。ファシリテーターは本来、会議などを円滑に進める整理役・調整役ですが、私の場合は、トークイベントやインタビューを企画し、ゲストや場所などを決めて運営する役割と、実際のトークでゲストの間に立ち、伝えたいことを整理して聞き手に伝わりやすくする役割の両方を担うケースが多いです。ブランドデザイナーは、お店や商品、サービスをどのようにターゲットに伝えていくか、その方法や企画をクライアントさんと一緒に作っていく仕事です。パッケージなどのグラフィックデザイン、コピーライティング、広告宣伝の方向性など、ブランドイメージに関わるところをデザインし、ご提案しています。

奥口さんがブランディングを手掛けた商品の数々。左は雄勝ローズファクトリーガーデンの無農薬の花やハーブの香りを抽出したアロマスプレー「aroma journey」、右は泉ヶ岳の麓でお米を栽培し、その米粉で作ったカヌレ「okome canele」

写真家の石川直樹氏と東北大学農学部農学研究科の陶山佳久教授を迎えたトークイベントでファシリテーターを務める奥口さん(左)(撮影:佐藤陽友)

― 今のお仕事をされる前は、エフエム仙台で働いていましたが、どのような経緯で入社されたのですか?

もともと幼少時代は、紙と鉛筆があれば1人で絵を描いているような子どもでした。図書館で本を借りて読んだり、母親に美術館へ連れて行ってもらったり、当時から絵やデザインが好きだったのを覚えています。最初はデザインや企画の仕事がしたくて、大学4年生の就職活動では東京の広告会社やデザイン製作会社の採用試験などを受けていました。でも、就職活動を続けていく中で、毎日のように都会の満員電車に揺られて仕事ができるのかなと考えたときに、私には無理だなと思ったんですよね(笑)。そこで、慣れ親しんだ地元で仕事ができたら一番幸せだなと思い、宮城での就職に切り替えました。その年、エフエム仙台が数年ぶりに新卒採用をしていて「音楽を聴くのも好きだし、イベントごとも好きだし、面白そうかも」と思って受験をしたら、ご縁があって採用していただけました。

― エフエム仙台では2013年から6年間、ラジオパーソナリティとしてご活躍されました。

総合職での採用だったので、最初は裏方で企画を考えるようなお仕事ができればいいなあと考えていたんです。そしたらある日、上司からニュースの原稿を渡されて「これ、読んでみてくれない?」って言われたんですね。それまでアナウンスの勉強もしたことがない中で、見よう見まねで読んでみたら、実際の放送でしゃべることになって……(笑)。私としては、こんなことがあるのかと思うぐらい驚きで、顔も知らない人が自分の声を聴いているという感覚にしばらくは慣れませんでした。6年間、生放送を担当したり、取材に行ってインタビューをしたり、いろいろ経験させていただきましたが、ラジオの仕事が楽しかった一方で、自分で絵を描いたり、デザインを作ったりするような仕事がしたいという昔からの夢も捨て切れずにいました。そこで、入社から丸6年が経ったタイミングで会社を辞める決断をして、ちょうど30歳になる年に、フリーランスとして独立しました。

― パーソナリティ時代は、人とお話する機会が多かったと思います。今の仕事に生かされていることはありますか?

自分がデザインするときの強みってなんだろうと考えたときに、相手のニーズや困っていることを引き出すことなんじゃないかなと思っています。パーソナリティ時代はいろいろな方にお会いしてインタビューをしましたが、基本的にインタビューって、褒めて紹介することがほとんどなんです。でも、内心もっとこうすれば良くなるのになあ、と思うときもある。そういった改善点が見える中で、それを差し引いてまで褒めるということが、無責任のような気がしてしまって。なので今は、相手の話を聞いて褒めるだけでなくて、よりよくするために自分の意見を正直に伝えることで、一緒にいい方向に進んでいく。いわば伴走者のようなスタンスで仕事に取り組むようにしています。

― そうすると、奥口さんが今やられているお仕事というのは、自分でクリエイトする部分がある一方で、相手と一緒に作り上げていくという部分も大きいのですか?

そうかもしれません。「どうしたらいいですか?」という相談を受けて、いろいろな話を聞いているうちに、自分の中でアイディアが閃いたりするんです。そのときに、これを提案してみたら相手はどんなリアクションをしてくれるんだろう、というのを想像すると、ワクワクしちゃうんですよね。そうした会話のやり取りが、自分はとても好きなんだと思います。

― フリーランスになられてから今までの中で、思い出に残っている仕事などはありますか?

たくさんあるのですが、最近で言うと、大崎市の老舗のお菓子メーカー「松倉」さんとのお仕事です。宮城の方にとっては「パパ好み」という米菓でお馴染みかと思います。きっかけは、私がフリーランスになってから「おやつ展」というイラストの個展を開いたときに、パパ好みの絵を描いたことです。代表の松倉さんが、SNSでそのイラストを見てくださり、「ぜひ一緒に仕事をしたいです」と声を掛けてくださったんです。お父さんのおつまみのイメージがあるパパ好みを、若い方々にも食べてほしいという想いを受けて、まずは、Instagramを立ち上げ、イラストを使ったパパ好みの新たな世界観を発信するところから始めています。そうしたブランドの新たなイメージを一緒に作る機会をいただけるのは、ブランドデザイナーとしてとても光栄です。

イラストと言葉をテーマにした二度目の個展「おやつ展2」の様子。おやつにまつわるエッセイや、物語も同時に展示した(撮影:はま田あつ美)

奥口さんがデザインした「パパ好み」の新イメージ。従来のお父さん世代のおつまみというイメージから、20~30代の若い世代にも手に取ってもらえるようなイラストに仕上げた

― 奥口さんが仕事をする上で、気を付けていることなどはありますか?

パーソナリティ時代に学んだこととして、一般目線での感覚を忘れてはいけないということがあります。たとえば商品のパッケージをデザインするとして、「こういう色にこだわったんです」「こういう文字の配置にこだわったんです」って言っても、消費者の皆さんにとっては「ふーん」というリアクションで終わっちゃうことって結構あるんですよ。それよりも、「どこで買えるのか」「どんな味がするのか」といったところが一般の方にとっては大事であって、それをうまく表現することが私のやるべき仕事ではないのかなと思っています。

― 「一般の人にも分かりやすく」といった部分は、ラジオ局に勤めていたからこその考え方ですね。

もちろんクオリティーにこだわりますが、そのこだわる方向性をどこに据えるかが大事だと私は感じています。いくらカッコいいデザインを作ったとしても、クライアントさんや消費者の皆さんに喜んでもらえないと意味がないし、そうでなければ、それはもはや作り手のエゴになってしまいます。自分のカラーは出しつつも、相手が「これだ!」としっくりくるところを探っていく。そういう作業が必要ではないのかなと思っています。

― たしかに、突き詰めれば突き詰めるほど「作り手のエゴになる」というのは、この業界ではありがちですよね。

そうですね。それと同時に、自分にたくさんの引き出しがないとできない仕事だとも思っています。言葉やアイディアのストックを常に枯渇させないようにするためにも、映画を観たり本を読んだり、皆さんと同じようにネットやSNSで今何が流行っているのかもチェックするようにしていますし、そこで自分が興味を持てなかったとしたら、どうして興味を持てないんだろうということまで、常に考えを巡らせるようにしています。そして、その「なぜ・どうして」に、いろいろなヒントがあると思っています。

取材日:令和4年1月11日

取材・構成:郷内 和軌
撮影:小泉 俊幸
取材協力:THE6

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奥口文結(おくぐち・ふみゆ)

1989年生まれ、仙台市出身。宮城大学事業構想学部事業計画学科卒業後、2013年に株式会社エフエム仙台に入社。ラジオパーソナリティとして番組制作に携わった後、2019年からフリーランスに。ファシリテーターやイベントMCのほか、もの・ことのブランディングデザインを手掛ける「FOLK GLOCALWORKS」主宰。

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