Article 記事

クリエイターインタビュー後編|ほんだあい+伊東卓(喫茶frame)

ギャラリーをもっと自由な場所へ、仙台の若手世代がもっと活躍できるまちへ

作家のほんだあいさんと写真家の伊東卓さんが運営を始めた「喫茶frame」。後編ではおふたりがお店を運営していく上で感じるおもしろさや今後の課題、これから実現していきたいことについてお聞きしました。

― ギリギリまでオープン準備、大変でしたね。普段は、どんな方が来店されることが多いですか。

ほんだ 60〜70代くらいの男性が多いです。ギャラリー青城のオーナーのご友人など現代美術に詳しい方が多くいらっしゃるので、色々なお話を聞けるのが新鮮です。私自身お話を聞くのが好きなので、「面白いっ!」と思いながら日々運営しています。たとえば、高橋親夫さんという男性がいらっしゃるのですが、本当に面白くて素晴らしい方なんです。

ほんだ 親夫さんが20代の頃に世界中を旅していた当時記録していた日記やスクラップブックなどをお店に持ってきてくれたのをきっかけに「この記録、すごいですよ。展示やりましょうよ」という話になり、 『未明行路』展やトークイベント『50年前の旅日記を読む』の開催が決まったんです。各国で撮影した写真はもちろん、チケットや切符、キャンディーの包み紙、リバーサルフィルムなども一つ一つ丁寧に残してあって。

伊東 『未明行路』展で特に人気を集めたのがリバーサルフィルム。本当はスライド映写機も用意できればよかったんですが、このときはそのまま手に取っていただくかたちで展示しました。

ほんだ スライド映写機も素敵ですが、光に透かして見るのもまた楽しいんです!この場所を通して、お話をしたり何かを見せに来てくれたりする機会ができるのはいいことですね。親夫さんも「誰かに見て欲しかったのに、今まで誰も興味を持ってくれなくて…」と仰っていました。

世間では家族に呆れられるようなことでも面白い取り組みをされている方はいると思いますし、もっとスポットが当たったらいいなと。

ほんだ 今後、この場所ではギャラリー青城に残された村上善男さんの版画や取り組みの記録を発信していきたいと考えています。ギャラリー青城には村上さんによる講義のカセットテープなども残っているので、文字起こしをして現代に残せたらと思います。今は情報収集の段階ですが、この発信を通して村上善男さんが活躍していた時代の仙台を振り返って伝えていくのが楽しみです。

― ワクワクする構想やエピソードがあり、今後の展開も楽しみですね。一方、運営での課題や難しさを感じる部分はありますか。

伊東 広報やマネタイズ的な部分もそうなんですが、店側とお客さま側で「美術はこうあるべきだ」と、それぞれ固定観念があるのが大きな課題だと感じています。ギャラリーとして、もっと自由な場所でありたいですね。

ほんだ 卓さんの言うように「こうじゃなきゃいけない」に縛られすぎるのはよくないと感じています。美術に関して厳しい目線を持つ方にも納得してもらえるようなバランスを取る方針で運営していきたいです。配慮を気にしすぎて何も挑戦できなくなるのは避けたいので。

― 課題も様々、大変なことも多いかと思いますが、仙台で活動を続けていくおもしろさや場所を運営していく意義について教えてください。

ほんだ 仙台には、眠っている資源を発見して深めていく面白さがあります。ここ数年で宮城県美術館の移転問題もありましたが、それまで美術館を設計した建築家の前川國男さんのことも広く知られてなかったので、仙台には知られてないものがまだまだある気がしています。

伊東 宮城県美術館が前川國男さんに頼んで作られたという歴史も、多くの方にとって大したことではないような空気があり、昔から続く「美術=関心のある界隈が盛り上がるもの」という縮図の変わらなさを感じますね。今後活動していきたい若手世代が活躍しやすい空気づくりができたらもっと仙台は楽しくなっていくのではないでしょうか。

ほんだ ベテランのシニア世代でも現代のアートシーンがよくなるように頑張られている方もいる一方、「昔はよかった」と若手世代の子たちに一方的に語る方も多いんです。次世代を託していく若手世代へ残してあげるのは、懐古主義だけではよくないですよね。

― では、そういった背景を踏まえ、この場所やご自身の活動を通して仙台の若手世代のクリエイターやアートシーンに期待するビジョンはありますか?

伊東 クリエイターの活躍する場所が減っている実感があるので、仙台からそういった場所がなくならないようにしていきたいです。また、宮城県外のエリアとの交流が生まれる機会も増えたらいいですね。自分も若い頃は「活躍するなら東京じゃないと」と思っていましたが、そういった機会が増えることで、固定観念がもっと減ると良いと思います。

ほんだ 子どもたちや若手のクリエイターたちに「楽しそうに生きている変な大人」が1人でも増えればいいと思っています。私自身、そんな大人になりたいです。楽しそうにしている大人がいっぱいいたら未来が明るく見えると思うので。

取材日:令和4年1月11日

取材・構成:昆野 沙耶(恐山 らむね)
撮影:窪田 隼人

前編 > 後編

ほんだあい(右)

1977年、宮城県仙台市出身・在住。1997年、東北工科情報専門学校 デザイン科卒業。

<展覧会>

1998年、「ウルトラワールド」ギャラリー週刊アート/仙台市(個展)
2010年、「ドローイングワールド」丸福珈琲店・Gallery誉/仙台市(個展)
2010年、「夏休みの思い出」美術カフェpicnica. /仙台市(個展)
2019年、「short short piece- 仙台アーティストランプレイス小品展-」SARP/仙台市
2019年、 奇数アトリエ11月 AER/仙台市、
2020年、mado-beya企画 第2回目「はるなつあきふゆコレクション」展mado-beya/石巻市

他グループ展に参加

伊東卓(左)

1971 年 宮城県仙台市生まれ。バッハと麻婆豆腐を愛する。

<展覧会>

1998 年 個展「日没の温度計」エルパーク仙台展示ギャラリー
2001 年 個展「あたたかい岸」artspace 宙
2002 年 個展「town」artspace 宙
2003 年 個展「新 town」re:bridge edit
2006 年 個展「遠い一群」artspace 宙
2009 年 個展「たいら」ギャラリー青城
2011 年 二人展「311 以降」gallery COEXIST
   個展「ROOMS」SARP 仙台アーティストランプレイス
2012 年 企画展「東北より」ニコンサロン bis 大阪
   個展「ROOMSII」SARP 仙台アーティストランプレイス
2013 年 個展「ROOMSIII」SARP 仙台アーティストランプレイス
2014 年 個展「漂う昼 ROOMSIV」birdo space
2015 年 個展「空白 ROOMSV」birdo space
2018 年 個展「Rooms 片蔭」SARP 仙台アーティストランプレイス
2020 年 個展「光の穴」SARP 仙台アーティストランプレイス

<受賞歴>

2020 年 宮城県芸術選奨新人賞受賞

ページトップへ

Search 検索