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クリエイターインタビュー後編|HUNGER(ラッパー/GAGLE)

自分のなかで意味があると感じるものがあれば、絶対につかまえて表現のヒントにしたい

長きにわたってラッパーとして第一線で活躍し続けているHUNGERさん。仙台を拠点に唯一無二のグルーヴを届けるヒップホップグループ「GAGLE」のMCでもあるHUNGERさんは、自主レーベル「松竹梅レコーズ」を主宰し、ソロでの活動にも積極的だ。グループを飛び越えて行う活動には、どのような想いが秘めているのだろうか。後編ではコロナ禍での創作活動や、仙台のヒップホップシーンから届けたい想いなどを伺った。

ーコロナ禍で太鼓をビートにしたアルバム『舌鼓 / SHITATSUZUMI』をリリースされましたね。MCを務めるラジオ番組で、太鼓のビートにラップをのせて世の中へメッセージを発信していたのも印象的でした。

そのときは太鼓の音にハマっていたんです。太鼓の音を聞くと、音楽とはまた違った次元の感じ方があって、体の奥からエネルギーが湧き出てくる感覚がある。そのエネルギーって、すごく大事だなと感じていて。きっかけは、仙台駅の東口にある定食屋で流れていた太鼓の音だけのBGM。それを聴きながらひたすらトンカツとキャベツを食べたことです(笑)。そのときに「すごく食べ進められるな。なんだろうこの感じ」と思ったんです。そのうち「ラップをのせられるかも」と思い始めて、太鼓のレコードを買いに行きました。太鼓の音から感じるエネルギーを突き止めてみたくなったんですよね。

HUNGERさんが収集した、数十枚にものぼる太鼓のレコードコレクションのうち2枚。

ー太鼓をビートにしたことでご自身で気づいたことはありましたか?

僕は旅が好きなんですけど、コロナ禍で外に出るのが難しくなってしまったので、もっと歴史にも目を向けてみようと思いました。ただ太鼓で作品を発表するのではなくて「太鼓とは何か」を自分で調べたら、東北の民衆芸能や祭りと密接な関係があるのがわかって、その地域独特の文化が現代でも受け継がれていることも知りました。東北の歴史を知るいい機会になりましたね。

ーコロナ禍での作品制作を通してより地域に目が向けられるようになったんですね。

太鼓のビートを追求するよりも前に紹介されたのが、仲良くしている長崎由幹さん(映像技術者)と清水チナツさん(インディペンデント・キュレーター)が出版した小野和子さんの著書『あいたくて ききたくて 旅にでる』でした。著者の小野さんが東北の民話を聞き集めた本なのですが、民話を通じて東北の歴史にも触れているので、好奇心が刺激されて自分でも歴史の本を読んで調べるようになりました。「太鼓」と「民話」はほぼ同じ時期に別のところで出会ったものだけれど、自分のなかでそれぞれの話をつなげて創作に活かしました。「くるべくして、くるもの」でも、気づかずに素通りしてしまうこともあると思うんです。でも、自分のなかで意味があると感じるものについては絶対につかまえにいきたいです。

HUNGERさんが愛読する小野和子・著『あいたくて ききたくて 旅にでる』(PUMPQUAKES, 2019)。

ーラッパーとして活動していくなかで「失敗した」と感じたエピソードはありますか?

忘れられないのは、マイクを持ち始めて1年くらい経った頃です。GAGLEがお客さんを集められるグループになり、当時10代の僕は「ヒップホップとはこうだ」と決めつけて鎧を着てステージに立っていた感じだったんです。あるときライブで「俺が1番だ」みたいなことを言ってしまって。直後に出てきたアーティストにフリースタイルラップでかっこよくいなされたんです。お客さんはかなり盛り上がっていて、僕は逆にお客さんを冷めさせてしまったのがすごく恥ずかしかったですね。ライブが終わったあとも他のラッパーやDJに全く相手にしてもらえない感じがして「このままラップを辞めるか、ちゃんと活動するかのどちらしかない」と思ったのは覚えています。でもこの一件で成長できた部分はあったし、取り返せたと思う。活動を続けている限り、いつかは失敗を取り返せちゃうんですよ。だから、失敗したとしてもあまり引っ張らないですね。

※フリースタイルラップ:即興で行うラップのこと。

ー仙台では「松竹梅レコーズ」という自主レーベルを主宰されていますが、やはり地元のアーティストを応援したい想いで活動されているのでしょうか?

そうですね。ただ、今は、特定の誰かを応援するというよりは、上下関係のないところで「こういうアーティストがいますよ」と紹介したい気持ちが強いです。コロナ禍になってからSHAFTで17回の配信ライブをさせてもらったのですが、各ライブの最後には会場に来てくれているラッパーたちとフリースタイルセッションをしたんですよね。「キャリアなんて関係なく一緒にラップしようぜ」と。そこには10〜20代のラッパーもいれば、僕のような世代の人もいて、みんなが対等に一つのビートでカメラに向かってラップしていました。若い世代からはフレッシュな感覚もキャッチできるし、僕から何か奪い取れるものがあったら奪い取ってほしい。なので、松竹梅レコーズでも特定の誰かを応援するのではなくて、新たな才能が出てくることに期待しながら活動しています。

SHAFT:約20年の歴史をもつ、仙台の老舗クラブ。

ーHUNGERさんは、一方でさまざまな企業と協働されてきた実績があると思うのですが、地元企業と協働する際に大切にしていることはありますか?

協働するうえでは、お互いの「なぜ作るのか」が一致していることを大事にしています。「なぜ僕が関わるのか」という部分が一致していれば報酬は関係ありません。逆に関係性がまだそれほど濃くなくても、お互いに一致しているものや、会社でずっと守ってきたものがあれば、それらをベースに協働できると思います。協働する動機なしに金銭的なやりとりだけになってしまうと、結局は何が残ったのかわからなくなります。いただいた仕事をすぐに引き受けて次に向かうという仕事のやり方もありだと思いますが、今の僕は協働する意味を求めていて、お互いに意味のある時間の使い方をしたいですね。最近は、以前よりも地元企業から声をかけてもらう機会が増えていて、もっと地元の役に立てるのではないかという可能性を感じています。地元企業とはヒップホップをはじめとした音楽を通して、地域に貢献できるような新たな取り組みを一緒に模索していきたいです。

ーラッパーにとって、仙台は活動しやすい地域なのでしょうか?

表現者として生計を立てるうえで仙台という地を選ぶのは、とてもハード。仙台や宮城において、何を芸術・文化として残していくのかはしっかり議論する必要があると感じています。僕は、ヒップホップという音楽は本質的にかなり大切なことをやっているジャンルだと信じているので、公的なサポートがあってもおかしくないと心から思っているんです。ヒップホップのカルチャーは良くも悪くもグレーゾーンが多くなりやすいぶんサポートしづらいのは理解できるので、なんでも支援してほしいとは言えない部分もあります。でも若い世代はみんな夢中になっているし、まちやカルチャーをもっと豊かにしていくためにも、みんなが残している足跡や、どのように作品として還元しているのかをしっかり行政と話し合えたら何かが変わっていくのではないかと感じます。

ーラッパーとして、GAGLEとして、今後目指していることはありますか?

まずはGAGLEのアルバムをしっかり作りたいです。去年、SHAFTでGAGLEのワンマンライブがありました。来てくれたファンのみなさんからアルバム制作への後押しをもらいたいと思い、だるまにメッセージを書き残してもらったんです。あのライブに来てくれたのは、いつも僕たちをサポートしてくれている人たちが多くて。だからこそ、メッセージをちゃんと受け止められる。制作にエンジンをかけるための最後の一滴は、ファンのみなさんからの応援なんです。ちゃんとアルバムを作れたら心から「ありがとう」と思えるし、僕はその関係性を大事にしたい。あの日のライブでは「たくさんの人からサポートしてもらっているんだ」と実感できました。みんながメッセージを書いてくれただるまのエッセンスを吸収しながら、アルバムを完成させたいです。

ー最後にクリエイターを志す人へメッセージをお願いします。

クリエイティビティのヒントは色々なところにあります。だからこそ、自分の直感で得たヒントに、自分自身のエネルギーを「どう乗り移らせるのか」に強く執着していくことが、良いアウトプットを生み出すために絶対に必要なことだと思います。それがなければ、これまでインプットに費やしてきた時間を棒に振ってしまうこともたくさんある。何かに「やらされていた」「流されていた」「すりよっていた」と感じることが多くなると、うまくいかない理由が本当は自分のなかにあるのに、別のことに置き換えたくなってしまうんですよね。責任を他に求めるのは、クリエイターとしてはすごくもったいない。自分の直感と、自分自身が日々培ってきたエネルギーをインプットしたことにどう乗り移らせるかが大事です。そういう意識で生活していて、自分の体が「これかも」と直感するものに出会えたら素敵なことだし、たとえほんの少しの直感でも、それが本物であってほしい。本物だったら最高だね、と思います。

取材日:令和5年1月23日
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:横塚 明日美
取材協力:SHAFT

 

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HUNGER

ヒップホップユニット”GAGLE”MC。生粋の雪国育ち。東北、宮城を活動拠点にこだわり、ラップの可能性をハングリーに追求してきた。ライブを軸にした粘り強いスタンスで着実に信頼を獲得。日本のヒップホップクラシックとの呼び声が高い「雪ノ革命」「屍を越えて」etc… 名曲を生み出してきた。2016年、旅とセッションをコンセプトとした初のソロアルバム「SUGOROKU」をリリース。7ヵ国のアーティストと共演。近年は地元でのラジオ番組のMC、日本のオーディション番組の審査員にレギュラー出演。マルチな活動でヒップホップカルチャーの普及に貢献している。2003年より「松竹梅レコーズ」を主宰。地元仙台出身アーティストの発掘、音源制作や海外のアーティストとの連携プロジェクト。現在まで100作品以上リリースしている。そして2020年夏、日本音楽史上初となる「和太鼓とラップ」をテーマにセカンドアルバム「舌鼓」をリリース。新しくも懐かしい音の鳴りとラップの邂逅がシーンに衝撃を与えている。

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