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クリエイターインタビュー後編|佐藤 ジュンコ(イラストレーター)

時間が経ってからでも、被災地の力になれる。そのことを教えてもらったような気がします。

最近では、震災復興にまつわる仕事を担当する佐藤ジュンコさん。仙台に引っ越して20年、この街に対する愛情は日に日に深まるばかりだ。イラストレーターという職業を通し、宮城、仙台にどのような形で貢献していきたいか。後編では、これからの展望について、彼女に語ってもらった。

 

―メモリアル交流館の2階には、被災地の情報を絵で表した「仙台沿岸イラストマップ」があります。こちらも佐藤さんがご担当されたとお聞きしました。

このイラストマップは、震災を経験した方が見ることもあれば、これを見て初めて震災に触れる方もいます。だから、震災のつらい記憶ではなく、楽しかったときの記憶を掘り起こしてもらいたいし、持ち帰ってもらいたい。そんなことを思いながら描きました。

―街で暮らす人々の温かさが、イラストで表現されていますね。

実は自分がたまたまメモリアル交流館にいたときに、前に親子で来たというお母さんから「このイラストを描いた方ですよね?」と話しかけられたことがありました。そこで話を聞いたら「震災の後はつらくて前に住んでいた場所の話を子どもと全くしなかったけど、これを見て『こんな場所あったね~』『ここに行ったとき楽しかったね~』と当時の思い出を語り合うことができた。だから来てよかったです」と言ってくださって。もちろん、地震が怖かった、津波が大変だった、といった教訓は大事。だけど、震災前はこんな暮らしをしていた、こんな行事があった、といった「記憶」を次世代の人に残していくのも大事だと思います。それに関わることができたのは、本当に良かったですね。

せんだい3.11メモリアル交流館の2階にある「仙台沿岸イラストマップ」。イラストの周りには、人々がその場所に対する思い出を書いた付箋が貼られている

―被災地に貢献できたという思いも強いのではないでしょうか?

震災直後の大変なときにボランティアなどに参加してなかったので、復興の役に立てなかったという後ろめたさがずっと心の中にありました。だけど、時間が経ってからでも、被災地の力になることができる。そのことを、メモリアルソーダやイラストマップのお仕事を通して、教えてもらったような気がします。これからも、自分が出来る範囲の中で、やれることを見つけていきたいです。

―お話を聞いていると、仙台という街への思いもだいぶ強くなっているように感じます。

仙台に引っ越してきた当時は、ここで長く暮らすとは考えていませんでしたが、今の私の体の細胞の大半が仙台で作られていますものね(笑)。自分の本が全国の書店に並んだり、ウェブサイトに連載されたりすることで、それを見てくださった方から「仙台に行ってみたくなりました」と言ってもらえることがあって、とてもありがたい気持ちになります。私のイラストには、近所にある行きつけのお団子屋さんのことがしょっちゅう出てくるのですが、ある日、読者の方が「ジュンコさんの本を読んできました!」とわざわざ遠くからお店に来てくださったことがあったんです。そのお団子屋さんのお母さんたちも私をいつも気にかけてくれて、イラストが載った新聞記事などを全部スクラップし、お店の一角に「佐藤ジュンココーナー」を作ってくれています。そうした形で、大好きな仙台に貢献できるのもうれしいですね。これからもイラストをたくさん描いて、仙台の街の良さを伝えていきたいです。

―今後、自分が手掛けていきたい仕事などはありますか?

先ほども言ったとおり、メモリアルソーダの付録の漫画は、100号出せるまで続けていきたいです。それと、初心に帰るような気持ちで、自分が気付いたささいなことをなるべく絵に描いて残していけたらと思っています。最近は仕事として依頼を受けて描くことが多く、ひたすら締め切りに追われるような日々を過ごしているので(笑)。数年前まで、あるデパートの裏に立ち飲み屋さんがあり、3人のお母さんたちが営んでいたので、その3人を勝手に「チャーリーズエンジェル」と呼んでいて、ここでも気にかけてもらっていました。でも、デパートが閉店することになり、その飲み屋さんも立ち退くことになってしまったんです。そうしたお店って、歴史の中には残らないけど、私がイラストで残していたことで、いつか誰かに「こんなお店があったんだ」と知ってもらえるかもしれません。ものすごく主観的な記録だけど、興味をもってもらうきっかけになる。そんなイラストを描いていきたいですね。

―最後に、クリエイターを目指す方々にメッセージをお願いします。

興味を持ったら思い切ってやってみるということは、とても大事だと思っています。それに、自分が尊敬できる人との繋がりはいつまでも大切にしてほしいです。仙台でカメラマンのお仕事を長くされている年配の方がいて、その方には書店で働いていた頃からお世話になっています。撮影の対象に寄り添う姿勢や、仕事に対する目の配り方などはもっと見習っていきたいし、いろんな経験をされた方の言葉というのはとても奥が深いですよね。「自分が将来こうなりたい」と思えるような人がいる。そのありがたみを忘れないでほしいです。

取材日:令和元年12月13日
撮影協力:せんだい3.11メモリアル交流館
取材・構成:郷内 和軌
撮影:豊田 拓弥

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佐藤ジュンコ

1978年生まれ、福島県霊山町(現伊達市)出身。宮城教育大学を卒業後、1年間のフリーター生活を経て、ジュンク堂書店仙台ロフト店に勤務。書店員時代から趣味で漫画を描き始め、2015年よりイラストレーターとして活動。現在は雑誌、新聞、ウェブサイトなど多くの連載を持つ。

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