クリエイターインタビュー|松下 さちこさん(後編)
独自の世界観と強いメッセージを放つ作品から他を魅了し続けている在仙イラストレーターの松下さちこ(まつした さちこ)さん。今の作品スタイルを確立するまでの道のりや、思い出のお仕事のお話を通して、松下さんの価値観や生き方に迫ります。
―イラストを描くタイミングを教えてください。例えば描きたいものをギャラリーさんで扱ってもらう感じですか?
お仕事でいただくときは、「こういう仕事でこれを描いてください」と、有り難いことに私のテイストありきで依頼をいただけることが増えてきたので、クライアントさんの意向の中に私のテイストをのせるという形で実体にします。ギャラリーですと、企画ものでお話をいただくことも多いので、企画展であればテーマが決まってるものもありますね。個展の場合は、別にテーマは自分で決めていいんですけど、開催する場所によって意味が変わってくるんです。東京の展示だと、直接編集者の方やディレクターの方も足を運んでくださって、そこが営業の場になるんですよね。ふだん私は、割と顔の印象が強い絵を描くんですけど、今年の春に原宿のギャラリーで個展をしたときは、顔の印象のものをちょっと封印しようって決めて。こういうものも描けますよっていう、自分でプレゼンをしなきゃいけないので、情景みたいなものとか、あとは靴やオブジェのようなプロダクトとか、一貫したテーマの中に自分でいろんなものが描けますよっていうのを見せるような形の展示の仕方をしたりします。仙台だとCYAN(*)さんとか、応援してくださる方が多いので、何か感謝祭みたいな気持ちでやったりとか。自分のテイストは一貫したものがあるんですけど、何を求められてるか、自分がどこに行きたいかっていうのはすごく考えるようにしてます。
*Botanicalitem&Cafe CYAN(仙台市青葉区一番町1-6-22 シャンボール一番町1F)
―今までで一番印象に残っている、思い出の仕事はありますか。
やっぱり「PAN AND THE DREAM」ですね。あとは、2017年のクリスマスに、藤崎さんのウインドウを全館担当させていただいたんですけど、東京の同業者の方なんかにもすごく褒めていただいて。それこそ東京だとそういうことをたくさんできる場所なんかをつくっていただけるんですけど、なかなかやっぱり難しいですよね、そういうものにお金をかけるっていうのは。それを仙台の老舗デパートがあれだけ大々的にしたのは、同業者の方たちから見ると、どれだけ気合い入れてやってくれたかっていうのがわかるので、「すごくいい仕事をさせてもらったね」と言われます。自分たちみたいな仕事をしていても、みんながみんな経験できることじゃないし、実は私がやりたいと思っていたことの一つでもあったんですよ。というのも、美術館とかギャラリーだと行く人しか行かないじゃないですか。興味のある人しか行かないし、あとは美術館って意外と辺ぴなところにあるので、足が不自由だとか、ベビーカーを押してとかだとなかなか行きづらかったりしますよね。でも、街の中にあれば、ベビーカーを押しながらでも、車に乗りながらでも、酔っぱらってでも何でも、いろんな人たちの日常になれる。私は、「アートは日常にあってこそ」だと思っていて、あの藤崎さんのウインドウは忘年会帰りのおじさんたちが5~6人でポカンと見てたりとか、子どもがべたべた触ってたりとか、おじいちゃんおばあちゃんが見てくださったりしていたので、すごくいい経験になりました。
―そう考えると、選んできた道が間違っていなかったということですよね。
私、調子に乗れない人間で、やってもやっても満足感がなくって、まだまだまだまだっていう気持ちなので、やっぱり皆さんに喜んでいただくのを見て初めて、ああよかったんだなって思えるんですよね。絵を通して社会や人とつながるっていうのは私がもらったコミュニケーションツールだと思っていて、それを使って何ができるかとか、どこまで誰とつながるかっていうのを人生通してやっている感じです。
―目指す場所はありますか。
目標だけは本当にばか高く持ってるんですよ。自分に残された時間がどのくらいかわからないじゃないですか、人間。明日死んじゃうかもしれないし。1日1日を必死で生きて、いつも今が最後のチャレンジと思ってやっています。足りないものがいっぱいあるのも自分でわかっているけど、「やりながら、恥かきながら、やっていく精神力と体力と技術とかを身につけていけばいいじゃん」みたいな感じで。そういう意思表示をすると、意外なところから応援が来たりとかしますしね。なので、今そんな感じで、エベレストを一応目指してれば滑落したときにそこそこの高さに落ちるので、目標をなるべく高いところに設定して、そこにとにかく向かっていくっていうのをしてれば、そこそこのところまで行って落ちても無念とは思わないで最期を遂げられるんじゃないかと思ってます。
―作品の値段のつけ方について教えてください。
若いころだと値段がつけられなくて、「じゃあお寿司おごってくれればいいよ」とか、「じゃあこのお酒1本で」って感じで、値段はつけられないなと思っていたんです。でも、人様の前に出すからには、やっぱり自信のないものは出すべきじゃないし、自分がズルも何もしないで、本当にそこに魂注いでやっていれば堂々とつけられるようになると思うんですよね。お金はのどから手が出るほど欲しいですけど(笑)、やっぱり本当に作品を理解して、買った後に気持ちをもってくださる方のところに行ってほしいな、と思いますし。個展で絵を販売する場合なんかは、値段をそこそこつけておいて、それに文句をいう人はもう結構みたいな感じにしておくのも大事だな、と。有名だとか無名だとかにかかわらず、自分がそれをなりわいにしてるのであれば、自分のものは自分でちゃんと守るのも大事だなと思います。
―次松大助さんのCDビジュアルに松下さんの作品が採用されていますよね。
それこそインスタで次松さんがフォローしてくださって、私も個人的に大阪のスカバンドが好きで、個人的に聴いたりしてたので、「あ、次松さんだ!嬉しいな」と思って、フォローバックさせていただいたんです。後日共通の知り合いから連絡をいただいてお会いする事になり、アルバムに作品を提供させていただくことになりました。次松さんの中ではこの絵っていうのが決まったらしく、その絵には既に持ち主の方がいらっしゃったんですけど、持主さんもすごく喜んでくださったんです。
―analogさんとのコラボで生まれたブックカバーも強いメッセージを感じます。
analogさんの生業が『製本』であるということ。私も『絵』に加えて『 (描き) 文字』でも表現しているということ。『絵』と『ことば(文字)』が合わさり『本』というイマジネーションの宝庫である美しい形が誕生する、それを大切に包み、日常に持ち歩くための小さな小さな存在が『ブックカバー』って考えるとなんだかとっても素敵じゃないですか?analogさんの持つ技術やノウハウと私のオリジナルティに加えて、仕上げに購入して下さる皆さんの思い入れのある言葉を表面に加えて唯一無二の『作品』に仕上げました。『もの作り』に携わる者として『作る』楽しみを同時に、ものに責任を持ち『大切にしていく』ことを共有を共有出来たらと思って制作しました。
―今も仙台在住で活動している理由はありますか。
正直言って、場所はどこでもよくって、もし何かタイミングがあればそっちにぱっと動くと思うし、絶対仙台じゃなきゃっていうのもなく。ただ、CYANさんで個展をさせてもらったときに、びっくりするぐらい人が来てくださったり、あとはレセプションやったときに友人、知人がすごい来てくれたりとか、みんな本当に喜んでくれて、何かすごい楽しんでくれたんですね。こんなに応援してくれてる人がいるんだと思ったら、初めてちゃんとホームって感じられて。ホームだって思える場所があると、そこからどこにでも行けるっていうことだから強いな、じゃあもうどこ行ってもいいってことじゃんっていうのを逆に思ったりもして。ただ、やっぱり仙台に恩返しをしたいので、そのために外で活動することもすごく大事だと思っています。きちっとした自分の価値をつくって外から人を連れてこれないと、仙台を活性化したりとか、仙台にお金を落とすとかできないと思うんです。だから外でちゃんと力をつけるとか、何か挑戦するっていうのはすごく大事だなとは思います。
―仙台で働くやりづらさ、やりやすさについて教えてください。
よくも悪くも狭いですよね、やっぱり。仙台ってそこそこ田舎でそこそこ都会で、暮らすにはとってもいいんですけど、何かこう「闘うぞ」とか何かを始めようとする人に対して気持ちよく認め合うみたいなのが少ない感じがするので、もたれ合いじゃなく認め合える自立した気持ちのいい関係性がある成熟した街になるといいなって思います。
―行政に対して希望することがあれば教えてください。
クリエイターの方たちを支援しようと活動してくださっていますが、やっぱりお金にどうしてもつながりづらい仕事だったりするので、そこをもっとサポートしていただけるととてもありがたいなと思います。お金が気になって活動を縮小せざるを得なかったり、何をするにしても先行投資の仕事なので、そこをもっと気楽にサポートしてくださるところや、オープンに相談できる場所があるといいかな、と。経済的なところはリアルに大きいと思うんです。絵の具1本買うのでも、本当に何百円でも迷うので、「こっち使いたいけど、でもこれ5本買うの無理だな」「じゃあこっち3本」という感じでみんなやっていると思うんですよ。自分たちも最大限努力するので、そこをちょっとでも支援してもらえると助かります。
―絵以外に日ごろやっていることはありますか。
音楽はとにかくもうずっと一日中、つくりながらも、あとは歩きながらも聴いてます。とにかく音楽と、絵と、あと何か文章書いたりするのとかがワンセットで子どものときから好きでしたね。去年までは割とストイックにし過ぎて、「ライブに行ってる場合じゃないじゃん」とか、「今それにお金使ってる場合じゃないでしょ」っていう感じでアウトプットだけをしばらくやっていたら、今年に入って、何もなくなっちゃったみたいなのがあって。なので、今年は割と「それやってる場合じゃないじゃん」っていうときこそ何かに行ってみたりしています。そうすると、「ああ、もうこれやっちゃったから、じゃあ帰って仕事しよう」とか、切りかえてできるんですよね。
―最後に、クリエイティブ分野で働きたい人や、今後目指してる方へのアドバイスやメッセージをお願いします。
何かアドバイスしてる場合じゃないっていう感じが自分でもするし、私も、本当に今、必死な真っ最中なので(笑)、とにかく一緒に頑張りましょうっていうこと。でも、何の分野でも人が見てないところをズルしない人っていうのがものづくりには一番大事だと思っているので、自分でそこをジャッジしてちゃんと肝に銘じるのが大切かなと思います。
取材日:平成30年9月12日
取材場所提供:Botanicalitem&Cafe CYAN
聞き手:仙台市地域産業支援課、岡沼 美樹恵
構成:岡沼 美樹恵
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松下 さちこ
百貨店のイメージビジュアルやミュージシャンのアルバムジャケット、挿絵等を手がける。
第187回ザ・チョイス入選(ミナペルホネンデザイナー 皆川 明審査)。
ニューヨークを拠点とするブランド『PAN AND THE DREAM』主催のCENSOR PROJECTに世界的ファッションフォトグラファーNick Knightを筆頭に世界中から集められたアーティストと共に参加。
同プロジェクトよりアートマガジン出版。
ニューヨーク、ロンドン、パリ、デンマーク、東京等で販売中。
イラストレーターの年鑑「ファッションイラストレーション・ファイル2018 (玄光社)」イラストレーション・ファイルWebに掲載中。
ファッションブランド「MelodyBasKet」の世界をビジュアル化した絵本を制作中。
映画『下妻物語 』の著書、嶽本野ばら氏をストーリーナビゲーターにイラストを担当。
2019夏 出版予定。
Instagram:https://www.instagram.com/m.sachiko.m/