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クリエイターインタビュー前編|TAROUT(キャラクターアーティスト)

仙台に移住してから「ありがとう」が溢れています

タロアウト(TAROUT)さんは『Dior』や『Paul Smith』などの仕事を手掛け、国内外で活躍するキャラクターアーティストです。近年では、しいたけ占いのキャラクターデザインや環境省のアンバサダーに就任するなど、幅広い活動を行っています。そんなタロアウトさんは2021年に仙台へ移住され、地方都市ライフを満喫していらっしゃるとのこと。移住したきっかけやキャラクターアーティストになった経緯についてお話を伺いました。

― 移住先を仙台に決めたのは、何かきっかけがあったのですか?

いずれは自然が豊かなところで暮らしたいとずっと思っていて、仙台に決める前は東京の郊外や隣県の千葉なども候補にあげていました。物件を探していくうちに「関東に限らず、東京から遠くてもいいかも」と、仙台も視野に入れるようになりました。

ちょうどコロナ禍のタイミングも重なり「今かな」と思っていた矢先に、東京の友人がお子さんを仙台の小学校に通わせることになり移住したんです。それで友人のところへ遊びに来たのがちょうど1年前で、初めての仙台でした。ついでに紹介されていた物件の下見をしたのが、現在のアトリエ兼自宅です。その時は即決でした。

― 即決ですか!

遠いと思っていた仙台が、意外にも東京の郊外に暮らす感覚に近かったんです。新幹線と電車で90分。現在の物件は目の前に川と大きな公園があって、もう本当に毎日最高ですね。いつも「ありがとう」って言っています。(笑)

― 公園と川を見渡せるバルコニーもあるんですね。仙台市民から見ても、素敵な物件で羨ましいです。仙台での暮らしは、東京と比べていかがですか?

仕事環境は、東京にいた時とそんなに相違はありません。むしろネットワークのスピードが仙台の方が早いくらいです。東京にいた時は原宿の古いマンションにアトリエと自宅を構えていたせいか、速度が1Mbps以下だったので快適になりました。オンライン会議をしていても「映像がクリアに見える」とか言われるほど。
本当に仕事しやすい環境で、公園と川があるからすぐ息抜きもできますし、何より窓からの景色が美しい。ここは仙台の中心街から離れていることもあって、自然が豊かで田んぼもあって最高です。

コロナ禍に引越しして来たこともあり、普段の生活ではなかなか顔見知りができずにいます誰かと集まって食事をする機会がなく、みんなマスク姿なので顔が分からないんですよね。(笑)コロナでなければ顔見知りになれている人でも、まだ顔を合わせられていない感覚が不思議で慣れません。でも本当に仙台は過ごしやすいし、東京に仕事がある人でも生活圏になり得ます。東京で尻込みしている人がいるとしたら「そこまで遠くないよ。怖がらないで来ちゃいなよ!」と背中を押してあげたいです。

― 実際、2拠点生活されている方も増えましたしね。

そうですね。気に入ったら住んでみる感覚で、私はいいんじゃないかなと思います。私も永住するのかはまだわかりませんし、他の地方都市にも行っていろいろ挑戦してみたいこともあります。「移住=骨を埋める」みたいに思わずに、とりあえず1年住んでみようくらいでお試し移住してみるのはお勧めです。移住先で仕事を見つけるのは大変な作業かもしれませんが、そこも上手く東京での仕事とグラデーションをつけられる部分でもあると思います。

兎にも角にも、仙台は遠出せずに近場で四季を感じられて最高です。空は高いし、空気が澄んでいて美味しい。新幹線を降りた瞬間から空気が違います。

― 空の高さと澄んだ空気…、仙台にいると忘れがちになってしまいます。恵まれた環境にいることを感謝しないといけませんね。 では、お仕事の内容も伺えたらと思います。タロアウトさんはいつ頃からキャラクターを描かれているんですか?

学生時代からイラストやキャラクターを趣味で描いていました。当時はホームページを自作するのが流行っていて私も立ち上げることにしたのですが、この時につけた名前が現在も使用している「TAROUT」なんです。大学では経済学を学んでいて、卒業後はサラリーマンとデザイン事務所で働いて、その後に独立して、その際に屋号も「TAROUT」にしました。

― 経済学部だったんですか?意外です。

そうなんですよ。新卒でサラリーマンになって、スーツと伊達眼鏡でモチベーションを上げてみたものの「駄目だ、コスプレ感が抜けない。仕事を楽しめていない」と思い、入社した年の12月には辞めてしまいました。その1ヶ月後、未経験でしたがグラフィックデザインの事務所で見習いとして採用され、3年間働きました。でも当時は、デザインの作品や知識がない状態だったので「絵が上手だから採用してくれたのかな」と思っていたのですが、違いました。

後々、社長に採用の理由を聞くと「面接時に持ってきた作品集で、文字とイラストのバランスを見て決めたんだよ。それがデザインなんだ」と仰ったんです。小恥ずかしさがありましたね。その時に私がやりたかった仕事はデザインじゃなく、イラストを書くことだと気がついて、結局独立に至った次第です。

― 大学卒業から独立まで4年ですか。思い切りましたね。

「知らぬが仏」。(笑)いろいろ知識があると、尻込みしてしまうことってあるじゃないですか。それに勉強とかもそうなのですが、必要に応じて情報をインプットしています。

― 私もそのタイプです。(笑)独立当初は、どんなお仕事をされていたんですか?

個人向けの仕事ではなく独立当初から、クライアント案件をいただけていました。事務所で知り合った方々やホームページを見て依頼をくださる企業様が多かったです。
独立して初めての仕事は、ベネッセホールディングスさんでした。ちょうど事務所を辞めるタイミングでお声がけいただいて、辞めた3日後にはプレゼンテーションをする私の姿がありました。驚きましたが独立直後からお仕事に恵まれるなんて、本当にありがたいことですよね。
その仕事は、初めてのことばかりでした。進研ゼミでお馴染みの「赤ペン」で修正依頼をいただいたり、FAXの導入を勧められるなど、とても印象に残っています。

― なんとも羨ましい限りです!子ども向けの作品ということで、苦労した点はありましたか?

私が作るキャラクターはデフォルメして描くことが多いので、そうした箇所に「赤ペン」が入りました。例えば「手を描く時は、五本指でないといけません」などの文言の表現にも独自の決まりがありました。20代の私は、そうしたところに気が回らないというよりも気付けなかったんですよね。赤ペン先生に沢山教わることができて、本当にいい経験でした。
赤ペン先生、ありがとうございました!感謝しかないです。(笑)

― お気に入りのイラストに修正依頼があるとき、反発心など生まれませんか?

作家性はそれぞれにあると思いますが、私は「誰も傷つけない」というのをコンセプトにしているので、その中で最大限の表現をしたいです。だから反発心はあまりなく、いつも勉強させていただいています。
その一方で、絵的な特徴へのこだわりを持っていらっしゃる作家さんを羨ましく思うこともありますし、若い頃は「私も負のパワーで作品を生み出さなきゃ」と思い込んでいたことも。
でも、ある雑誌の編集長さんとその話をして言われたんです。「作家性には、負のパワーから作り出す人と平穏じゃないと作れないという2パターンが存在するんだよ」と。その時、私の中のコンプレックスがひとつ外れた感覚がしました。

― 作家性を作るも壊すも、己を知らないとできないものなんですね。タロアウトさんのイラストは描きはじめた当時と比べて、特徴など変化したものはありますか?

大きくは変わってないのですが、若い頃のものを見ると「若いな」と感じます。当時はとにかく「モテたい」とか「ウケたい」とか、サブカルっぽくしたい欲求が作品に表れていました。そういう、俗っぽい要素は徐々に抜けてきたかなと思います。

― それに気づいたのには、何かきっかけがあったんですか?

私はクリエイティブディレクターの八谷和彦さんが大好きで、その方が審査員を務めるキャラクターコンテストに応募したことがあるんです。最終選考で落ちてしまったのですが、後日八谷さんからメールが届いて「実は違う部門の審査員長だったので、最終に選べなかったのだけど、あなたの作品はよかったですよ」と言われてとても嬉しかったのを覚えています。
その後もメールのやり取りをさせていただいて、ある音楽チャンネルのコンテストに作品を出したとき「TAROUTさんはそこじゃないと思う。もっと「カワイイ」が求められているところで勝負した方がいいと思いますよ」と言われたんです。でもそのとき初めて、大好きだった八谷さんに反骨心が芽生えてしまって。(笑)今となっては、納得ですけど。
ただ、根底としてある「誰も傷つけない」とか「ハッピーにしたい」というコンセプトは変わらず、大切にしていきたいと思っています。

取材日:令和4年1月19日

取材・構成:太田 和美
撮影:シマワキ ユウ

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タロアウト(TAROUT)

キャラクターアーティスト

静岡県出身。2021年7月、仙台へ移住。大学進学を機に東京へ上京し、サラリーマンとデザイン会社勤務を経て、独立。2016年に環境省アンバサダーを就任し、2017年には藤田承紀さん(菜園料理家)とのフード&デザインユニット「ラニーズベジー」を結成。「未来の笑顔をシェアする」をコンセプトに、美味しく楽しい活動を開始。ストーリーテラーな世界観は、日本のみならず海外でも絶大な人気を誇る。

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