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JDSound(中編) 世界一小さな「GODJ」、日本一支援を得た「GODJ Plus」

苦労を重ね、ついに日の目を浴びたGODJはプロのアーティストにも認められるところとなり、デジタルオーディオ製品の開発元として高い信頼を得たJDSound。自社製品第2弾として次に取り掛かったのが、宮崎社長自身がユーザーとしてGODJに求める、あるものを加えた後継機「GODJ Plus」だった。その思いはDJとは縁の薄い一般の音楽好きからも共感を得て、クラウドファンディングで資金調達に乗り出すと、当時の日本最高記録を打ち立てる偉業を達成する。

世界一小さな「GODJ」、日本一支援を得た「GODJ Plus」

—初めてハードウエアを作るに当たって、どうやってノウハウを積んでいったんですか。

宮崎 実績のある企業にウェブサイトから直接連絡を取ってみたり、みやぎ工業会でどこの会社がどんなことをやっているか調べて当たったりもしましたね。一般的なプロダクトとはちょっと違う、DJに特化した製品なので、ベスタクス(2014年まで存在した日本の音楽機材メーカー)の方にもスピーカーや構造のアドバイスを頂くなど、プロの方のご意見をふんだんに取り入れました。「このノブの浮きは0.7ミリが一番いい」とか、われわれの全く知らない業界暗黙のルールがあるんですよね。

—ハードウエアに比べるとプログラムは専門ですしスムーズだったと思いますが、それでもDJ製品ということで苦労はありましたか。

宮崎 DJについてのノウハウがなかったので勉強しましたよね。まずはDJの機能一覧みたいなものを作って。

—スクラッチとか…?

宮崎 スクラッチってみんな最初に思い浮かぶんですけど、実はそんなに重要じゃないんです。僕らもフェーダーやピッチベンドというのがエフェクトの一つだと思っていたほど無知で、それがトラックの同期を合わせるものだというのを知ったのはずいぶん後からですし、そういうことを一つ一つ、実際にDJをやられている人にも教わって知識を深めていきました。

DJ機器の開発者や本職のDJに学んで知識を深め、製品に反映していった。写真はGODJ Plus

—そうした苦労の末、発売にこぎ着けたGODJですが、広く認知されるようになったのはアーティストによる発信が大きかったと思います。どういった経緯だったんでしょう。

宮崎 友達の友達が、という感じでアーティストさんにつながることができたんですが、特に大きかったのはジー・アイ・ピー(仙台市青葉区に本社を置くプロモーター)の佐藤寿彦社長が私の高校の先輩に当たり、知り合う機会があって非常に応援していただけたことです。仙台にアーティストが来るたびGODJを紹介してくださって、サザンオールスターズや嵐の松本潤さん、槇原敬之さん、SEKAI NO OWARIのDJ LOVEさん、TRFのDJ KOOさん、YO-KINGさんなど、そうそうたる方々にお渡しいただいて、そういった方々が広めてくれました。

—実際にアーティストさんが使っているというのは、品質について何よりの証明になりますね。

宮崎 実はもう一つ段階があって、当時まだ知名度のなかったわれわれがアーティストさんの信用を得るきっかけになったのは、ギターのエフェクターを作ったことでした。「FREE THE TONE」というエフェクターのトップブランドのメーカーからお声掛けいただいて、製造に携わらせていただいたんです。これが国内外のアーティストさんへの採用事例が非常に多く、L’Arc-en-CielのKenさん、LUNA SEA、B’zの松本孝弘さん、TUBEの春畑道哉さん、くるり、国外ではスマッシング・パンプキンズなど、名だたるアーティストがこぞって使ってくださった。そのおかげで、佐藤社長がGODJを紹介するにしても、単に自分の後輩が作っているからという話ではなく、FREE THE TONEのエフェクターを作った会社が手掛けているということで信用を得られたんです。

アーティストの信頼を担保することにつながったFREE THE TONEのエフェクター

GODJがプロにも認められるようになった後、より一般のユーザーに向けた「GODJ Plus」を開発されますが、もともと構想があったんですか。

宮崎 それが、なかったんです。GODJがもうちょっと一般に広まるのかなと思っていたんですが、周りにいる一般の人に聞くとちょっと使いづらいとか、それほど使用シーンが多くないとかいう意見が多かった。私自身もそうで、DJをしない人にとってはいらないのかなという気持ちはありました。じゃあ何が足りないか、どうなれば私が普段使いするかと考えたときに、やっぱりスピーカーが欲しいよねと。

居間で聴いて自分の部屋で聴いて食卓で聴いて、家の中だけでなくアウトドア、キャンプ、ビーチに持っていくこともできる。そんな新しい音楽の楽しみ方をつくろうと思い、「21世紀の高機能ラジカセ」を掲げました。もちろんDJとしての機能はGODJでプロの方々にお墨付きを頂きましたので申し分ありません。

いま気軽に音楽が聴ける機材ってないんですよね。昔はみんな自分の部屋にラジカセやコンポがありましたが、結婚して子どもができて、そういうスペースがなくて諦めている人、自分のホームオーディオを持てないというお父さんが多いのではないかと思っていました。クラウドファンディングに挑戦したときも、無意識のうちにそういう人に訴え掛けるような文章になっていたんでしょうね。ふたを開けてみたら30〜40代の男性が支援者の9割を占め、狙い通りの人たちにお届けできたなと思っています。

宮崎社長自身がGODJに足りないと感じたスピーカーを加えてGODJ Plusが生まれた

—そのクラウドファンディングでは、サイバーエージェントの「Makuake(マクアケ)」で日本最高記録を打ち立てました。始めたきっかけは何だったのでしょうか。

宮崎 新しい製品を1000台2000台という単位で作るにはイニシャルコストが数千万円単位でかかります。その初期費用をわれわれのようなベンチャーが用意するに当たって、クラウドファンディングを活用することは以前から考えていました。GODJを4年間売ってきた実績がありますし、われわれの製品のクオリティーを分かってくださる人たちが応援してくれるのではないかという自信もありました。

もう一つはメード・イン・ジャパンのオーディオ製品というのがなくなっているので、そこを打ち出すことで日本の皆さんに共感していただけるのではないかということ。しかも被災地である石巻のヤグチ電子工業さんに製造をお願いできることになり、プロジェクトとしての絵が完成しました。

座組みもすごかったですね。電通さん、KADOKAWAさん、サイバーエージェントさんが協力してくださって、それで失敗するはずがないだろう、というのはいまだから思えるんですが、そのときはこれでうまくいかなかったら商売の才能はないだろうから、別なことをやらなきゃ駄目だろうなと思っていました。

そんな不安を吹き飛ばすように序盤で一気に2,000万円集まり、その後は少し停滞したのですが、DJ LOVEさんやFPMの田中知之さん、tofubeatsさんやDJやついいちろうさんなど、GODJを使ってくださっている方々に広めていただいたこともあって、最終的には5,300万円という当時の日本最高記録を塗り替えることができました。単に記録を達成しただけではなく、きちんと製品化できたというのがもっと大きなことで、評価された部分だと思います。

Makuakeで当時クラウドファンディングの日本最高記録となる5,300万円を調達し話題となった

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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株式会社JDSound

2012年に設立された宮城県仙台市に本社を置くベンチャー企業。半導体設計とデジタルオーディオの分野で15年以上の経験を持ち、遊戯機やカラオケ機器といった業務用製品からギターエフェクタやハイレゾプレイヤーなどのコンシューマー向け製品まで幅広い実績がある。企業理念は「人生の宝物になる製品を作る」。メード・イン・ジャパンの高品質オーディオ製品を全世界に発信している。

Web:http://www.jdsound.co.jp/

ポータブルスピーカー「OVO」:https://greenfunding.jp/lab/projects/2095

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