私と「恋」
春が来たとはよく言ったもので、普遍的な日常がぱぁっと明るく色を持ち始めた。
私の恋心は、それまでの日常から彩度を奪い、着彩し直してくる。
好んで着ていた服ではデートに行けないと頭を抱え、スキンケアとメイクにも力が入る。仕方なしに付き合っていた交友関係は知らぬ間に精査されていく。
簡単なまとめ髪、走れるパンプス、ストレッチの効くスラックス。同期先輩後輩に適度に貸しをつくり、お局とうまくやる。デート当日に定時で帰るための中長期タスクだ。加えて、ランチ後のお手洗いでメイク直しをしながらホウレンソウを行えば協力してもらえる確率がグンと上がる。面倒な社会の人間関係すらも、恋は楽しくしてくれる。
新しい価値観や思い出に浮かれて、たまに自分を見失う。
世界を己の手で狭めていると湯船の中で気がつくと、次の恋をしたくなる。
結婚はまだかとうるさい世間体に唾を吐き捨て、日々の彩りを忘れぬよう自戒を込めて。
Writer = 鈴木杏
装飾デザイナー・ライター
岩手県釜石市生まれ、盛岡育ち。ファブリックメーカー、キャンドルショップ、専門学校非常勤などを経験し、シェア型複合施設THE6のスタッフとして運営に携わる。2020年よりフリーランスとして活動を開始し、仙台と盛岡の二拠点生活を練習中。
Instagram:https://www.instagram.com/an56mochi_/
Painting = 天色ほとり
1998年生まれ、石巻市在住。
アクリル絵の具やボールペンを用いた抽象画を制作しています。
日々の中で気持ちが動いた瞬間を色、形、流れなどを用いて可視化しています。
実在のモデル、楽曲からの制作、立体物への着彩やライブペイントのご依頼もお待ちしております。
Instagram:https://www.instagram.com/amairohotori/