vl.mod.live

2019.03.28

vl.mod.live

写真

 本作品の試みは楽器の響きをアップデートすることである。これまでの電子音楽で培われてきた電子音響と、ヴァイオリンの響きを融合させ、新たな音響を奏でる。ヴァイオリンには振動スピーカーが取り付けられており、無人の演奏が聞こえてくる。会場に設置されたスピーカーからは音が鳴らない。予め録音されたヴァイオリンの音を振動スピーカーを介して鳴らすことにより、その楽器固有の音響へと変化する。そしてそのサンプリングは音響処理で加工され、楽器からは鳴らないはずの電子音響が聞こえてくる。
 「ヴァイオリンの音」とは何だろう。この装置を使って出てきた音はヴァイオリンの音と言えるのだろうか。従来の奏法では弦を弓で擦る、指で弾く等が発音のトリガーとなり、胴部が共鳴することで特有の音色を奏でた。特殊奏法においても爪で胴部を叩く、弦を弓竿で叩く、ギター・ピックで弾く等の例があるが、それらもまた胴部が共鳴することによりヴァイオリンの音と変化する。このことから発音の要因となるものがいかなるものであっても、ヴァイオリンの胴部が共鳴することで、その音が形づくられると言えるだろう。振動スピーカーを用いたすべての発音もまた、ヴァイオリンの胴体を共鳴させることにより、ヴァイオリンの音として包括される。ヴァイオリンが誕生してから400年以上の歴史を経て、現代の音響技術と結びついたこの作品は、電子音楽を新しい領域へと押し広げるものとなるだろう。