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デザイナーのための知財10問10答|第6回 商標登録ができない名称やロゴの提案に意味はあるのか

第6回 商標登録ができない名称やロゴの提案に意味はあるのか

企業のサービス、商品の名称やロゴをデザインする場合、デザイナーはそのロゴのデザインだけを考えればよいでしょうか。私はそれだけでは足りないと思います。なぜなら、いかによいネーミングやロゴを提案できたとしても、それが既存の登録商標とバッティングすれば、クライアントはそのネーミングやロゴを使用できず、クライアントにとって無価値のものを提案することになるおそれがあるからです。また、既存の登録商標が存在していない場合であっても、広く社会に普及させたい商品やサービスについては、他の商品・サービスとの差異化を図るために、商標登録が必須になってきます。

このような観点から、私はデザイナーに対して、「ロゴ、ドメイン、商標権」をセットで提案できるようにするべき、と伝えています。これらは企業のサービスや商品のマーケティングやブランディングにとって三位一体の関係にあるからです。

 

ロゴデザインと商標権の関係について例をみてみましょう。デザイナー北川一成さん率いるGRAPHがロゴを手がけたファッションブランド「kolor」の事例です。

「kolor」の商標公報(商標登録第4825700号)。代理人の欄には「グラフ株式会社」と記載されている。

当初ブランド側はブランド名として「色」を意味する「color」を考えていたようですが、洋服やファッションが属する分野において「color」はありふれた普通名称なので、そのままだと商標登録が難しいということになりました。そこで、GRAPHが提案したのが頭文字の「c」を「k」に変更した「kolor」という名称とロゴでした。これだと商標登録の可能性が出てきますし、造語として他のブランドとの差異を含めた識別性も際立ちます。GRAPHというと、保有する印刷工場の高い技術に裏付けられた「プリンティング×デザイン」で有名ですが、「商標権×デザイン」という観点からも特筆すべき「デザイン」を提供してきたことがわかります(このあたりの話は、こちらの雑誌 こちらの本 も詳しいので、興味を持たれた方はぜひご覧ください)。

 

ブランディングにとって、シンプルで力強いネーミングとロゴは欠かせないですが、普通名称やありふれた氏名・名称、そして極めて簡単で、かつ、ありふれた要素からなる文字や図形は商標登録できません(商標法31項各号。出願しても登録にならない商標については特許庁のこちら をご参照ください)。したがって、商標的視点をもったネーミングやロゴデザインの世界では、常にシンプルで力強いネーミング・ロゴという要請と商標登録を可能とするネーミング・ロゴという要請の衝突が起きることになり、各社各様の努力が見られるところです。法的な視点がデザインに影響を与える、おもしろい領域です。なお、私が最近「おっ」と思った商標登録例は次の「Y-3」のものです(なぜそのように思ったのか、についてはちょっと考えてみてください)。アディダスは、いわゆる「スリーストライプ」が有名ですが、その「スリーストライプ」でも世界中で様々な登録や訴訟を起こしています(興味がある方は中川隆太郎弁護士がまとめている、こちらの記事 をご覧ください)。

「Y-3」の商標公報(登録番号第5343686号)

さて、ではデザイナーはどのように商標を調査すればよいのでしょうか。先行商標の調査は特許庁が提供しているデータベース「J-PlatPat」を使えばある程度のことはわかります。特許庁は「初めてだったらここを読む 〜商標出願のいろは〜」というサイトを公開しています。

https://www.jpo.go.jp/seido/shohyo/hajimete/index.html

特許庁「初めてだったらここを読む 〜商標出願のいろは〜」

軽く「あたり」をつけるくらいであれば素人の方でも簡単に使えますので、ぜひトライしてみてください。もちろん、使いこなすには専門的な知識が必要ですので、デザイナーに求められるのはあくまで「あたり」をつける程度で足りると思います。詳細については、弁理士や弁護士などの外部の専門家に頼ることをおすすめします。実際に、私もデザイナーから依頼を受けて、商標の調査をして名称やロゴの修正を提案することがあります。また、クライアント側に知財部などの知財に詳しい方がいらっしゃるのであれば、クライアントと協働して名称やロゴを制作していくのもありでしょう。いずれにしても、ネーミングやロゴの提案は商標権とは無関係でいられない、むしろセットで考えられるべき、と認識しておいて間違いはないでしょう。

水野 祐 (みずの たすく)

弁護士(シティライツ法律事務所)。Arts and Law理事。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。グッドデザイン賞審査員。IT、クリエイティブ、まちづくり等の先端・戦略法務に従事しつつ、行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート)、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン、共同翻訳・執筆)など。

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