デザイナーのための知財10問10答|第9回 フリー素材集のフリー素材は本当に自由に使えるか
第9回 フリー素材集のフリー素材は本当に自由に使えるか
古くは本やCD等の形で購入する素材集、最近ではインターネット上の素材集サイト。いわゆる「フリー素材」も、ライセンスとして購入するものも、様々な種類の素材がデザイナーのデザイン実務を支えています。では、フリー素材は何に使ってもよいのか。インターネットに様々な素材があふれる時代は便利ではありますが、意外と利用に制約があるので注意が必要です。そもそもフリー素材の「フリー」には様々な意味があります。無料という意味の場合も、何の制限もなく自由に利用できるという意味の場合もある。また、フリー素材を謳いながら、利用条件には教育目的の利用のみ自由とか、非営利目的の利用のみ自由などといった制限がついていることも。例えば、「かわいいフリー素材集 いらすとや 」は、「フリー素材」を謳いながら、1)素材を21点以上使った商用デザイン、2)素材の高解像度データの作成は、自由に利用できず、有償で対応するという条件になっています。
「かわいいフリー素材集 いらすとや」(https://www.irasutoya.com/)
「フリー素材だと書いてあった」「フリー素材だと勘違いした」という言い訳はできません。法律事務所のウェブサイトの制作において、フリー素材サイトから入手した6枚の写真が実はストックフォトサービスから無断で転載されたものだったという事案において、裁判所は、その写真の識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは、著作権等を侵害する可能性がある以上当然である、として、著作権侵害の成立を認め、19万4000円の損害賠償の支払いを命じました(判決文はこちら )。訴えられた被告は、無断使用してしまった写真には、原告の著作物であることを示す識別情報がなく、原告の著作物である認識がなかったので過失なし、と反論しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。つまり、写真に著作権者の明示がなくても、利用する側はその写真がちゃんと権利者のものか、きちんとライセンス契約等の権利処理がなされているかを確認する義務がある、ということです。この裁判例はフリー素材集に関する事件でしたが、この判決の考え方は、原則としてフリー素材だけでなく、ライセンス素材においても妥当するでしょう。
フリー素材にしても、ライセンス素材にしても、やはり利用規約や利用条件をしっかり確認することが必要になります。その際、利用規約が後で変更されることもありますので、利用した際にどのサイトのどの画像を利用したのか、その時点での利用規約がどうなっていたのか、ということをログ化しておき、クライアントから突っ込まれた時に提示できるようにしておくことが望ましいといえるでしょう。また、デザイナー側の都合ではなく、予算や納期などクライアント側の都合で、どうしてもフリー素材やライセンス素材を使わざるを得ないような場合には、早めにクライアント側にその旨を伝えておくことも後のトラブル防止につながります。素材が無料で利用できることは便利である反面、その利用には責任も伴うことをデザイナー・クライアント双方がしっかり認識しておく必要があるでしょう。
水野 祐 (みずの たすく)
弁護士(シティライツ法律事務所)。Arts and Law理事。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。グッドデザイン賞審査員。IT、クリエイティブ、まちづくり等の先端・戦略法務に従事しつつ、行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート)、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン、共同翻訳・執筆)など。
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