クリエイターインタビュー後編|鈴木 杏(装飾デザイナー)
もっと良質な布に触れる機会を提供したい。仙台のマルシェに装飾のアクセントを付け加え、何気ないイベントから記憶に残るイベントへと生まれ変わらせるのが私の務め。
幼い頃からモノ作りが好きで思い立ったらやってみるという行動の速さを持ちあわせた鈴木さん。専門学校の卒業制作では現在の屋号にもなっている「tyag tyag(チャグチャグ)」というブランドを立ち上げます。
―チャグチャグはどういうブランドコンセプトでしたか。
私が好きな布を張り合わせて、動物をモチーフにしたぬいぐるみを作りたいと思ったのが最初です。
ぬいぐるみと言っても子供向けの可愛いものではなく、その子供の成長に合わせて傍に置いておけるような、シックで味のあるもの、部屋のインテリアにもなりえるものがいいと考えました。初めての子でもあるリョーマを作った時は、鮮明にイメージが出来たことを覚えています。
自分の子供が生まれた時、隣にはリョーマが寄り添って一緒に寝ている。子供の成長に合わせて、3歳になっても4歳になっても手をつないで一緒に歩けるぐらいの手の長さ。何歳になっても子供っぽくないビジュアル。年数がたてばたつほど、味が出る素材を使うことで、いろんなライフスタイルにも一緒にいられるよう考えました。大人になっても隣に置いておける子を作りたかった。子供が成長するタイミングで、いろんな過ごし方をしてもらえる子を作りたいなと思っています。
―今までにぬいぐるみを作ったことはありましたか。
ぬいぐるみに関しては全くの素人でした。まず胴体を作って、手足をつけて、顔をつけて、目をつけてと、ブロックのようにつけ足しながら形成していきました。その作り方が原因かは分かりませんが、作品を買ってくれた先生と後日会う機会があって言われたことがあります。
「おしりの部分に穴が開いちゃって、アップリケをつけたわよ」
壊れてしまったものはもちろん補修をさせてもらいますが、一緒に過ごす人がライフスタイルに合わせてぬいぐるみを変化させていくことはぬいぐるみ達の理想の形でもあります。アップリケをおしりにつけた我が子も可愛かったです。
―卒業制作の反応はいかがでしたか。
今でも覚えている先生からの言葉があります。
「杏はイラストレーターで、画材が絵具ではなく布なだけだ。自分の思うように展開していけ」
この言葉の後押しもあり、私が最高と思うことを形にしようと決意し、中間プレゼンでの提案を変更し、最終的には最優秀賞をいただくことができました。また嬉しいことに、実際に作った作品たちはリョーマを残し、先生方を始めいろんな人に買っていただきました。
将来的には作った作品たちのもとへ、リョーマを連れて会いに行きたいですね。
―これからの展望はございますか。
イベントなどで装飾を手掛けるサービスをしたいと思っています。私はもともと布が好きでインテリア業界へ進みました。専門学校を卒業後に就職をした布のファブリックメーカーでは、デザイン性の高い商品から高単価の商品まで、いろんな布地を手に取って感じることができました。1年ほどではありましたが、そこで培った経験や感性は今でも生かされています。
市販で売られている装飾品と呼ばれるものは、すぐシワになるようなペラペラとした素材を使用したものが多いと感じます。もっと素敵な布もあるよっていうことを知って欲しい。そしてせっかく素敵な布があるのに、捨てられてしまうのを少しでも防げればという思いもあります。
祖父の時代にあったような良質な布を、今の時代にも引き継いでいきたいと思っています。その為にもビンテージの布や紐、ステッチを集め、それらを使って装飾を施したり、貸し出したりするサービスを始めたいと思っています。イベント装飾を始め、結婚式やバースディフォトなど、企業から個人の方まで幅広く利用していただけたら嬉しいです。
また不定期ではありますが、リョーマのような子をこれからも作りたいと思っています。一つ一つ手作りなので時間がかかってしまいますが、まずはいろんな種類・形の子達を作って、個展を開きたいです。ぜひ遊びにいらしてくださいね。
取材日:令和2年1月27日
取材・構成:木戸 靖貴
撮影:はま田 あつ美
前編 > 後編
鈴木 杏
1993年岩手県釜石市生まれ。盛岡市育ち。ファブリックメーカー、キャンドルショップ、専門学校非常勤講師などを経験し、シェア型複合施設THE6のスタッフとして運営に携わる。
小さい子のお絵かきのように「正解」のないモノづくりの楽しさを教えるワークショップやカリキュラムを企画。仙台のマルシェをtyag tyagの装飾でいっぱいにすることが目標です。
instagram : https://instagram.com/tyag_tyag/