クリエイターインタビュー後編|小松大知(プロダクトデザイナー)
僕は、いろんなデザイナーがいていいと思うんです。魚市場で働いていた人が、デザイナーになったっていいと思うし。
大学卒業後は東北以外のエリアでプロダクトデザインの現場を経験し、自分が本当にやっていきたいものづくりのありかたに向き合ってきたプロダクトデザイナーの小松大知さん。後編では仙台へUターンしてからの活動や現在取り組んでいるプロジェクトのこと、そしてデザインの道を志す若手へのメッセージをお聞きしました。
― 2021年6月に独立のため仙台市内へUターンされていますが、きっかけや想いなどを詳しく教えてください。
東日本大震災を経験し、将来は東北でデザインをやっていきたいという気持ちがもともとあったのと、東北にはプロダクトデザイナーが少ないので、担いたいという気持ちで。
― プロダクトデザイナーの総数が少ないから、東北へ。
たとえば宮城県内では良質な木材が産出・加工されていますし、雄勝石や秋保石、伊達冠石といった石材も豊富です。産地の近くに暮らしながら、デザイン協力できるのはいいなと感じているんです。特別、素材自体への垣根は感じてはいないので、どんな素材でも関わってみたいとは思っています。
デザインを取り巻く状況で言えば、グラフィックデザインに関しては全国各地に地域に根ざしたデザイナーがいて、素敵なデザインが数多く生まれているけど、プロダクトデザイナーはそもそも総数が多くないので、そうは言い切れないのが現状です。デザインに関わる人同士が同じ県や同じエリアで近くにいながら取り組んだ方が互いに相談しやすいということもあり、やはり仙台に帰ってやっていきたいと思ったんです。
経済的な側面でいうと、「何か東北でつくろう」としたときに同じ東北や地域のなかでお金が循環する流れがあったらいいなという思いもありました。
― Uターン後の取り組みでは、今年度の「仙台市クリエイティブプロジェクト助成事業*」では「見る工芸から使う工芸へ / 工芸指導所のデザインを暮らしに再現する」(https://sendai-c3.jp/sc3_2021/projects/kougei-shido-sho/)で採択され、プロジェクトを進められていますね。もともと、どのようなビジョンを持ってプロジェクトを始めようと考えられたのですか。
工芸指導所は1928年に工芸の近代化・産業化の推進やデザイン指導・輸出振興のため仙台市内に設立された日本初の国立デザイン研究機関です。ドイツ出身の建築家であるブルーノ・タウトらを招聘し、近代的なデザインの技術や考え方を学んで、応用していました。基本的なデザインの手法やプロセス(リサーチ→プロトタイプ作成→課題を改善して修正案を作成→検証)もここで教えられたようです。デザインの産業化の他にも功績としてわかりやすいのは、今でも名が残る工業デザイナーの剣持勇さんや豊口克平さんなどを輩出していることですね。
工業デザインの原点となる研究機関が仙台市に生まれ、たくさんの功績を残していたのは大変素晴らしいことなのに、仙台出身の僕でさえそのことを少し前まで知りませんでした。この歴史や当時のデザインの素晴らしさを多くの方に知ってもらいたいと思い、始まったプロジェクトです。
工芸指導所の作品は普段は東北歴史博物館に収蔵されていて、企画展の際にガラス越しにしか見ることができないというのが現状です。実際に手にとってそのデザインを感じたり、指導所の存在や取り組みに思いを馳せたりして欲しいという思いで、当時の技術やデザインを再現したプロダクトを作って伝えていきたいと考えています。
* 仙台市クリエイティブプロジェクト助成
…仙台市でのクリエイティブ産業の振興・活性化を目的に、クリエイティブ産業と他分野との連携により商品・サービスの高付加価値化を目指す取り組みや、デザインやクリエイターの創造性を活用して地域の課題解決・人材育成等に取り組む企画に対して助成するもの。
― 素晴らしい歴史があるのに、認知度が低いのはもったいないですよね。現在、このプロジェクトはどのフェーズにありますか?
事例研究やデザインの権利関係確認などリサーチがひと段落し、東北地域の職人や企業に試作品の製作を依頼しているところです。復刻させたいものはだいたい決まっているのですが、どのプロダクトを復刻させるかは秘密です。最終報告会をお楽しみに(笑)。
復刻の基準として、「当時の技術や素材を伝えられる要素を持っているもの」「現代の生活でも使用用途やシーンが想定できるもの」「現代の技術で再現できるもの」というあたりがポイントになってきます。あとは僕自身も欲しいと思えるかです(笑)。たとえ素晴らしい技術や素材でも「わらじを楽に履くための道具」なんかだと、現代の生活では使用シーンが想像できないですからね。
― たしかに「使ってもらう」が目的ですから、「歴史的な技法を使っていてかっこいい」だけではダメですものね。最終報告会が楽しみです!最後に、新社会人の方やデザインの道を志す方へメッセージをお願いします。
まず、世の中は予測できないことの方が多いですよね。計算したりいくら準備していても予測できないこと、予期せぬタイミングなんかもあって。自分もそれを受け入れながらキャリアを形成してきました。だから「予期せぬことも起こるよなぁ」ということを頭の片隅に入れて進路を選んだり、アクションしたりする方がいいと思います。
日本にいるプロダクトデザイナーの7〜8割以上はメーカー勤務のインハウスデザイナーで、それはプロダクトデザイナー的には王道の選択肢です。そうなった背景には製品開発を企業内で完結する文化があったり、開発力のある企業が多いというのもあるのだと思いますが、一方で僕はいろんなデザイナーがいていいと思うんです。魚市場で働いていた人が、デザイナーになったっていいと思うし。デザイナーをしていたけれど、あるとき出家して仏門に入って、またデザイナーに戻ってくる人がいていいし。「デザイナーとはこうである」というのではなく、「こんなデザイナーがいてもいいんじゃない?」と考えてもらっていいんじゃないかと思います。
自分もデザイナーとして新しいデザインを生み出すと同時に、国内外を問わず古い時代のものを集めて新たな価値を発見して伝えることもやっていきたいと思っています。コロナ禍というのもあって、なかなか思うように進んではいませんが、来年中には「用無用」という名前の古物店を事務所と併設して始める予定です。
業界を跨ぎながら、いろんな視点を持ってからプロダクトデザインに携わる人がいてもいいよね、と思うんです。一つの道を極めるのも素晴らしいことですが、ものづくりにおいてもっと多様な関わり方があったらいいなと思っています。
小松大知(こまつ・だいち)
1991年 宮城県仙台市生まれ。東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科を卒業後、オフィス機器メーカー(横浜)、デザイン事務所(東京・横浜)を経た後、長野県の上松技術専門校にて木工や家具制作の技術を学ぶ。古材ベンチャー企業にてオーダー家具や什器のデザイン・制作を行い2021年に「TORCH」 として仙台市にて独立。また、プロダクトデザインの歴史やルーツを学ぶ中で、世界各地の民藝や骨董・古道具などにも興味が及び、デザイン事務所の傍にて古物を扱う「用無用」を営む(2022年開始予定)。古い時代のもの達に学び、世代を超えて愛されるものづくりを目指している。