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クリエイターインタビュー後編|貝沼泉実(建築家)

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日常の価値観を少し変える、そんなデザインをしていきたいです

青木淳建築計画事務所(現AS)で7年間働き、2020年、宮城で建築デザイン事務所を設立した貝沼泉実さん。新たなチャレンジを始めた彼女に、これからの抱負や、地元に対する思い、そして若手クリエイターに対するメッセージをお聞きしました。

― 建築の仕事は手掛ける規模が大きい分、大変なことも多くありませんか?

好きなことをやっているので、辛いとは思いませんが、たしかに大変なことは多い気がします。とても大きな額のお金が動く仕事ですし、人の手で作るものなので、責任も大きいです。でも、大変だからこそ楽しいというのもありますね。

― これまで思い出に残っている仕事などはありますか?

「ルイ・ヴィトン メゾン大阪御堂筋」の設計の仕事ですね。5年くらいかけて担当した案件ですが、海外のクライアントを相手にしたり、海外で製作を行う仕事でした。パリから電話が掛かってくるので内容を聞き落とさないように気を使ったり、資料やメールは基本的に英語なので必死でしたね(笑)。本当に貴重な経験をさせていただいたので、とてもありがたかったです。

貝沼さんが設計を手掛けた「ルイ・ヴィトン メゾン大阪御堂筋」の外観(『新建築』2021年4月号より)

― その後、2020年に独立され、仙台に戻ってきました。

青木淳建築計画事務所は本来4年間で卒業となるのですが、自分は手掛けていたプロジェクトの関係で7年間在籍しました。毎日が成長の日々で、設計やデザインなど、自分が好きなことばかりを1日中考えていられたので、本当に幸せな時間を過ごしました。そして2020年に独立したのですが、よりいろいろな人と絡み、面白いプロジェクトを実現していけるような場所を考えたときに、仙台で始めてみることにしました。どのようなプロジェクトであっても規模を問わずアイディアを生み出していきたいと思っていますが、仙台は、都市でもあり地方でもあります。二面性を持ち、狭間にあるからこその特性に着目したいです。たとえば、コロナを含めた歴史的なパンデミックは、都市の成長や高密化と共に繰り返し起こってきました。現在は都市の構造や住まい方が変わる転換点でもあるかと思いますが、そのような点で見ても、仙台は面白い位置にある街ではないでしょうか。また、近い距離に都市と自然があるからこそ、近隣の街で資源を補完し合う「広域連携・広域調整」のような視点で見ても、仙台という街ならではの仕組みを生み出せるポテンシャルがありますね。

― 仙台に戻ってきて、改めて感じたことはありますか?

仙台を離れていた7年間で、仙台駅周辺は新しくなって、地下鉄も東西線ができましたし、物理的にだいぶ変わりました。また、元々仙台の立地自体が、東京には新幹線で1時間半ほどあれば行けますし、同じ東北内でも結節点にあたるような便利な場所であると感じます。それに、先ほども述べたとおり、自然が近くにあるので、オンとオフを作りやすく、息抜きがしやすいところもこの街の良さの一つですね。私は車の運転が好きなので、思い立ったらよく温泉に行っていますし、最近はよく釣りをするので、海のほうに足を運ぶことも多いです(笑)。

― 仕事目線で、東京と仙台を比べたときの違いや、「ここを変えていければ」という思いはありますか?

どちらにも良さがあり、比較するのが難しいのですが、仙台でも美術館や展覧会に行く楽しみがより増えるとうれしいかなと思います。たとえば「せんだいメディアテーク」は、2001年の開館後、さまざまな使われ方がされてきたと思いますが、このような文化の発信拠点が規模を問わずもっと増えると楽しいですね。また、市外に目を向けると、石巻では「Reborn-Art Festival」が開催されていたり、若手の方々が自主的にギャラリーを開いています。面白い取り組みをされている方が東北・県内にはまだまだたくさんいらっしゃるので、そういうものもチェックしていきたいなと思っています。

― 地元の若者たちの動きには、刺激を受けるのではないでしょうか?

もちろんです。仙台や東北にも、第一線で活躍されていたり、面白いことをされている若い方がたくさんいます。チャレンジするのに場所はあまり関係ないと思っています。

― 貝沼さん自身、今後こんなチャレンジをしてみたいといった抱負はありますか?

仙台や東北という立地の魅力を引き出すような建築物を作ってみたいですし、夢はたくさんありますね。また、「日常のものの見方が少し変わるような新しさを目指したい」という思いもあります。デザインを考えるうえで、ピカピカ、キラキラしたような目新しいものを作るのもいいのですが、目の前にある日常の価値観をちょっと変えるようなものを作ることも、同じく価値があることだと思います。そんなデザインができるように、取り組んでいきたいですね。

― 最後にクリエイターを目指す若者たちへのメッセージをお願いします。

デザインに年齢はあまり関係ないと思っています。一緒に面白いことをやっていきたいですね。また、学生時代の時間は人生の中でも唯一無二の自由な時間だと思うので、自分がやりたいことに時間を注いでほしいです。たとえば、旅に出るのでもいいですし、本を読むのもいいと思います。そうして吸収したことが将来の自分自身にきっと生きてくるはずです。

取材日:令和3年11月5日

取材・構成:郷内 和軌
撮影:はま田 あつ美
取材協力:東北大学青葉山キャンパス

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貝沼泉実(かいぬま・いずみ)

名取市出身。宮城大学事業構想学群デザイン情報学科、東北大学大学院工学研究科を経て、2013年に青木淳建築計画事務所へ入社。7年間勤めた後、2020年に独立。現在は仙台市内で建築デザインの事務所を主宰する。

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