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クリエイターインタビュー後編|小田島 万里(カメラマン・写真家)

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鏡花水月のごとく写し出される「ありのままの自分」と出会う

写真家 小田島さんの作品には、被写体がその人自身にしか見せない「真面目さと素の表情」が写し出されているかのよう。それは、小田島さんが被写体へ抱く憧れと思いやりの “反鏡”なのかもしれません。

ー 榴岡公園のワンちゃん可愛かったですね。皆さんこの公園でのお散歩がきっかけでお友達になられたそうですよ。

そうなんですね。私は昔からワンちゃんにすごく好かれます。公園でも写真を撮らせていただき、その中でワンちゃんのお洋服を手作りされている方もいらっしゃいましたね。その方のお帽子も素敵で「そちらも手作りですか?」と聞いたら「これは買いました」と…(笑)。飼い主さんのワンちゃん愛に触れることができました。

ー 自然にコミュニケーションが取れるのは、さすがですね!

でも以前の私は根暗で引っ込み思案で、取り柄がないと思って生きてきたんです。写真を通して変われました。

写真を撮っているとみんな良くしてくれるんです。お金をいただいて写真を撮るって「商売」じゃないですか。それにも関わらず撮影後にもとても親しくしてくださったり、何かにつけてお手紙やお菓子くれたり…。厚意を持って接してくれたりするので、そうしたあったかい交流が生まれて支えられていますね。性格もすごく改善されました。

写真を撮る仕事は、お客さんと会話のキャッチボールができないと駄目なんですよ。人の話をよく聞いたり、話題に事欠かないように意識したりする中で、自然と変わっていきましたね。

ー 引っ込み思案だったなんて、想像がつきません!

写真を撮る前の私を知っている人からは「人が変わったようだ」とよく言われます(笑)。

ー 写真家・小田島さんの作品は、被写体となるモデルさんがその人自身にしか見せない「真面目さや素の表情」を引き出していると思うんです。写真を通して小田島さん自身が己と対峙したからこそ、滲み出る魅力なのでしょうね。

ありがとうございます。嬉しいです。デッサンモデルを経験したことは、少なからず現在の作風に影響しているところはあると思います。それと私の作品には、恋愛対象や魅力を感じるという点で異性の身体を写すものが多いです。

異性と対峙して撮影するのって普通の視点では「危うい感覚」がありますよね。私は「被写体の“素”を少しでも引き出せたら」と手段の一つとして、服を脱いでもらい撮影させていただくことが多いです。「ありのままの格好良さ」を写せたらいいなと思っています。

仕事の撮影となると基本的には撮影するものが決まっており、クライアントの意に沿って写真を撮ることが前提ですが、作品は自由なんですよね。なので、人為的にならないようにすることと人に喜んでもらえることをとても大事にしています。

個展「Dreams」作品(2019年) ©️小田島 万里

ー 2019年には個展もされていますね。

仙台にあるギャラリー「チフリグリ」で開かせていただきました。日頃からお世話になっている方々へ、感謝の気持ちを込めました。私だけが満足すればいいなら撮って保管するだけでいいけれど、皆さんに敬意を表するには時間もお金もかけて、しっかりとしたギャラリーで展示をすることが礼儀だと思っています。

ギャラリーの方々もいつも良くしてくださるので、ここで開催できたことも嬉しかったです。

モノクロの写真は私自身で現像からプリントまで行なっており、個展の作品も私が手焼きしたものです。

家族写真 フィルム撮影 ©️小田島 万里

ー 各時代につくられたカメラを使うことで、時代の矛盾感みたいなものが表現されて面白いですね。

そうかもしれないですね。銀塩写真は色の階調がとても美しいです。もちろんデジタルカメラの利便性も素晴らしく、日頃から併用していますが「あえてアナログな手法で、手間隙かけて1枚の写真が出来上がる過程がとてもいいな」と、1枚の写真の重みが変わるような感覚が好きです。

ー 個展作品のモデルさんはプロの方を起用されたんですか?

モデルとなってくれた皆さんは一般の男性です。もともと親しかった方やこの機会にお声がけした方もいて、10人の方にお願いしました。

開催中に見にきてくれたときに、自分たちの身体を目の前にして「凄い人になったみたい」とか「ギャラリーという特別な場に写真が飾られてるっていうことがすごく嬉しい」と言ってくれたので、私も「展示した甲斐があったな」と安堵しました。

家族写真 フィルム撮影 ©️小田島 万里

ー モデルの皆さんの反応を生で覗いてみたかったです。

面白かったですよ(笑)。皆さんは私と繋がっているけど、モデルの方々はほぼ初対面同士だったのでオープニングパーティーをしたときは「どうもー。あなたはあれですか!」と、写真と合わせて自己紹介になって…。

それをきっかけに、皆さんがSNSで繋がって交流していたりするので「素敵。素晴らしいことだな」としみじみ感じました。作品を公の場で発表することで、そうした人と人との繋がりを生むことができるなら、すごく価値のあることだと思います。展示する機会は今後も設けていきたいです。

ー いまは新しいテーマで撮影されたりしていますか?

一つやろうと思っていることがあります。今回は一人の男性に特化した作品にしようかと思案しているところです。できればまた個展という形でやりたいのですが、コロナの状況などを鑑みつつ、新しいことに挑戦したいという気持ちもあります。何か違う媒体になるかもしれないなと考えています。

一昨年から昨年にかけては独立したばかりなうえに、コロナの影響があったりなかったりで、とにかく慌ただしかったんです。なので「これが撮りたい」と思える、心の余裕があまりありませんでした。

ー 小田島さんを「撮りたい!」と掻き立てたものは、なんだったのでしょう?

被写体の方が持っている魅力だと思います。被写体として考えている方とは、会えば挨拶はするし連絡先も知っているけど友人とも違う感じの関係でした。

でも昨年あたりから、どうしてもその方の顔が浮かんで「この人を撮りたい」と悩んでいました。ただ、その方の人柄もよく分からなし、急に声をかけて嫌われたり突飛なお願いになるのも嫌だし…(笑)。今度会ったら勇気を出して声をかけようと思っていたら、ある日その方から別件で連絡があり「ぜひ被写体になってほしい」とお願いをしたら、快諾してくださいました。とても嬉しかったですね。

ー どんな作品になるのか、とても気になります!

「こういう絵を撮りたい」という一枚は、しっかりと決まっているんです。今はよく「マイノリティー」という言葉が取りざたされていますが、たまたま私は男性が好きで男性に対しての魅力や憧れを感じます。だから「男性を撮りたいな」という気持ちがあるんだと思ます。とても魅力的な被写体の方の胸を借りて、自分なりの想いや世界観を表現していきたいです。

フィルム撮影 ©️小田島 万里

― これからどんなことに挑戦してみたいですか?

動画にはトライしたいです。今は専門でされている方もいるし、カメラマンをやりながら動画もできるという方もいますよね。私もずっと気になってはいたけれど、手を出せなかったジャンルです。

私は不器用で、仕事の合間に新しいことに挑戦するということができませんでした。写真は撮影したあとに編集があったりするので、そのあとは休息時間にしたり読書をする方向に気持ちが動いていたんです。もっと器用だったら、動画も早い段階で取り組めていたとも思いますが、ありがたいことに写真の仕事が途絶えることがなかったため、それ以外のことをする余裕がありませんでした。これから意識して新しいことを勉強する時間をつくっていきたいと考えています。

ー では最後にクリエイターを目指す人たちにアドバイスをお願いいたします。

相手のことを一番に思いやる。これに尽きると思います。

技術は学べば必ず身につくものなので、人に対して誠実であることが大切だと思います。相手のことを思えば、周りへの振る舞い方も自然と変わってくるものです。私も「きちんと挨拶ができるか。名前を名乗れるか。お客さんに対してちゃんと目を見て話せるか」と常に心がけています。あと言葉遣いも大切ですね。

そしてこれはカメラマンとしてになってしまいますが、現場仕事は場数を踏むことでしか上達の道はないと思います。いろんな現場があるんですけど、クライアントが仕切るときはそれに対して順応であることや逆にこちらが先陣をきって仕切ることもあります。

また個人のお客様であれば、その場の雰囲気を盛り上げるような話題を考えて楽しい会話をしながら、良い写真をきちんと撮ること。そうした「いい現場づくり」が必要になってきます。

私も35歳を過ぎてから独立しました。「なんでも若いうちにやらなきゃ」と焦ることは全くないと思います。まずはしっかりと地に足をつけて、目の前の仕事を誠実にこなしていくこと。そして地道に努力していれば、必ず自分のやりたいことを自分の理想の形で実現できるので仕事に慣れてきたら、できることを増やしていけるといいかもしれません。

取材日:令和3年2月18日

取材・構成:太田和美
撮影:小泉俊幸
取材協力:榴岡公園 ワン友の皆さん

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小田島 万里(おだじま・まり)

本名・小島美樹。1984年生まれ。カメラマン。宮城県栗原市出身。宮城県宮城野高校美術科卒。ブライダルフォトグラファーを経てフォトスタジオにて勤務の後、独立。

舞台・スクール・婚礼・記念写真・プロフィールや宣材・取材撮影など仙台を主軸に写真撮影業・講師業を生業としながら写真家としても活動中。

https://www.instagram.com/mari_odajima/

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