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岩沼精工(中編) 柔軟な発想力と高い技術で「作る」から「創る」へ

金属精密部品メーカーとして実直にものづくりを続ける一方で、これまでに培った技術や知識を生かした新たなものづくりにも挑戦する岩沼精工。中小企業の製造業が集うイベントにも本気で挑み、発想力と技術力で参加企業の度肝を抜く機構のコマを披露してみせた。地域に根差した企業として、岩沼の松林にかつて自生していたアミタケをかたどった商品を開発し、震災で失われた風景の再生にも寄与。「作る」から「創る」へ、進化を遂げようとしている。

柔軟な発想力と高い技術で「作る」から「創る」へ

−ここからは最近の取り組みについてお聞きしていきたいと思います。まずプレス加工で新たな機構の開発に成功されたそうですが。

千葉 プレス加工機は文字通り金型をセットして上から「押す」機械です。金型には上型と下型がありまして、下型は固定で、上型はプレス機に設置されています。その間に帯状の材料を入れてスタートボタンを押すと、プレス機が上下運動して1回打って、1ピッチが20ミリなら20ミリ分材料を送ってまた1回打つ、ということの繰り返しです。

何も成形されていない、フープ状(帯状)につながって巻かれている材料を外部の送り装置でプレス機に通して、金型の形状に抜いたり、曲げたり、切ったりといういくつかの工程を重ねて、一つの部品の形状を完成させます。お客さんからはその部品の2次元の図面をもらって、それを作るための金型を設計者が設計するんですね。

従来、上から下へという1方向だけの力しか加えられないのですが、その上下運動の中に横の切り加工、削る動きを入れたのがわれわれの新しいやり方です。金型の中で刃物が横に動く仕組みを作り、それによって部品に切り込み、溝を付けることができます。

プレス機の中で切り込みを入れる機構の開発に成功した

溝を付けること自体は「セレーション」という技法で昔からあるんですけども、それはプレス機の外でやっていたんです。そうすると送り装置とプレス機のほかにもう一つ機械が必要になって、設備費がかさみますし、そのスペースが必要になる。スペースに制限がある中で、プレス機の中でできるというのが新しいところで、いま特許を取っているところです。

−「コマ大戦」というユニークな大会にも参加されていますが、こちらは。

千葉 企業がそれぞれ作ったコマを持ち寄って戦う大会です。中小の製造業を元気にしようと、関東の企業さんが集まって仲間内でやっていたのが始まりで、全国のものづくり企業に展開していったものです。宮城県の工業会から、岩沼精工さんもやってみないかと声を掛けてもらいました。

−どのようなルールなんですか。

千葉 ケミカルウッドという合板の上に樹脂製のシールを張った土俵が用意されていて、その上でコマを回して戦います。勝負の決め方は単純で、行事の「はっけよい、残った」の掛け声でお互いにコマを回して、土俵の中で長く回り続けた方が勝ち。回転が先に止まったり、土俵の外から出たりしたら負けです。

使うコマのルールは静止状態で直径20ミリ以下、高さが60ミリ以下。この「静止状態」というところがポイントなんですけど、材質や形、重さは問いません。うちが作ったのは規定サイズ目いっぱいの20ミリ×60ミリのものですが…回してみますね。

制限いっぱいの寸法のコマが、回転した瞬間、パカッと開く!

−わっ!ずるい(笑) ルール的にはOKなんですね。

千葉 回転している間はどうなっていてもよくて、回転が終わって静止状態のときに、さっきの範囲内にないと負けになります。ですので、回転が止まったら最初の状態に戻るような仕組みになっています。

−これ…無敵じゃないですか。

千葉 これを出すと基本ブーイングが起きますね(笑) たまに失投して負けると大歓声が上がるんです。でも弱点もあるんですよ。例えば…(以下、もちろん割愛)。

−大会はどのように開催されているんですか。

千葉 全国各地で年に何度か大会が開かれ、総獲得ポイントによって年度単位でランキングが決まります。そのほかに2年に1回の周期で全国大会と世界大会があって、2016年度は全国大会で準優勝し、2017年度はランキングで1位になって世界大会では3位でした。2018年度が現在ランキング2位で、3月の最終戦で優勝すればランキング1位になって2019年度の世界大会に出られることになっています。(筆者注:惜しくも最終戦の結果は3位で、2018年度のランキングは2位でした)

大会で優勝すると、その大会に参加した全てのコマを総取りできます。うちが優勝した大会では、一度に三十数個のコマを持って帰ってきました。

過去のコマ大戦で優勝し総取りした参加全チームのコマ

−コマを総取りしたからといって、そこまで真剣にほかのコマを研究するわけでもないんですかね。

千葉 いえいえ、だいぶ研究しています。コマの作りもですが、苦手なコマがあるので、その対策を練ることもします。何しろこれ(回転すると開くコマ)を作るのって、ものすごく大変なんですよ。時間もお金もかけて作っているので、負けられません。回す方も大変なプレッシャーがかかりますよね。会社の看板を背負っているだけでなく、負けたら取られてしまうんですから。

−こういう取り組みに対する評判は。

千葉 もちろん社内はみんな知っています。外から見たら、そんなことやって何になるのと思う人がいるかもしれないけど、われわれくらいの規模の会社って、作った製品がこうやって日の当たるところに出ることはないんですよね。ものづくりしている人たちは、入社した頃は自分が作ったものを見て「ああ、できた」とすごく感動するんですけど、時間がたつにつれてそれが当たり前になって、ものづくりの楽しさみたいなことを忘れてしまうときがあるんです。

だけど、こういうものを作って大会に出るとみんなに評価してもらえる。それこそ優勝したらもう、みんなこぞって「ちょっと見せて」と言って集まってくる。そうやって評価してもらうということが、ものづくりの楽しさの一つなんですよね。

−確かに電機機器をバラして、この部品よくできているな、と思うことはほとんどの人はないかもしれません。

千葉 そう。だから、従業員のモチベーションを高めるための一つとしてやっているんです。

−コマといえば、キノコの形をした「きのこま」はどういった経緯で誕生したんでしょう。

かわいらしいキノコの形をしたコマ「きのこま」

千葉 岩沼市の方から沿岸部復興プロジェクト「千年希望の丘」とのコラボ商品で何かできませんかという相談をもらって、その頃コマ大戦にも参加していたので、コマで何かできるかなと考えたのがきっかけです。単純にコマを作ったって面白くないのでどうしようかと考えているときに、子どもの頃、父親に連れられて松林にアミタケ採りによく行っていたことを思い出しました。それで、キノコの形をしたコマを作ったらいいんじゃないかなって。

昔みたいに松林がすっかり再生することは難しいかもしれませんが、海岸線を取り戻すという思いも込めて提案したところ、「ぜひお願いします」と言ってもらって作りました。木の中から生えてくるアミタケをイメージし、コマには網模様が施されています。部屋に飾ってもらってもいいし、もちろん普通にコマとして回すこともできます。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:庄子 隆

 

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株式会社岩沼精工

989-2421 宮城県岩沼市下野郷字大松原305-3
TEL:0223-29-2121 FAX0223-29-2122

プレス加工(量産、試作、金型製作)、精密機械加工(量産、治工具、各パーツ部品)、板金加工(精密板金、架台、溶接)、省力化機械(設計、製作、据付)など幅広く対応しております。創業以来、これらの技術ノウハウをお客さまと共につくり上げてきました。今後もより良い「ものづくり」を共に目指してまいります。

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