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クリエイターインタビュー|桃生 和成さん(後編)

宮城・福島・岩手で大学時代までを過ごし、現在は仙台で「一般社団法人 Granny Rideto 」の代表として、施設の運営や企画などに携わられている桃生和成(ものう かずしげ)さん。現在の仕事に至るまでの過程や、「仙台・東北でしかできないことをつくり出したい」という、熱い思いを伺いました。

 

―仕事の面白みはどんな所に感じますか。

あまり前例のない仕事が多いので、正しいやり方とか妥当な進め方みたいなことが分からないんですけど、その難しさが逆に面白さだなと感じます。人口減少などによって、大企業や行政さえも存続が危うい中、予測できない未来を自分で切り拓いていく面白さというか。前例が無い中でも、経験や知識、ネットワークの中から、人や場所などいろいろなものを組み合わせて、うまく合致させる能力がついてきて、それもまた楽しいです。

―桃生さんのネットワークはどうやってつくられているのですか。

公私関係無く、いろいろなところでつながったりつなげたりする癖がついてしまっているんです(笑)。例えば、趣味でフットサルをやっているのですが、毎年、自主企画で「文化系フットサルフェスティバル」というのを開催しているんです。チームを「映像」、「美術」、「文学」、「デザイン」という感じに分けて試合をして、その後は飲み会みたいな。そこで新しいつながりができて、「今度何か一緒にやりましょう」みたいな話があったりします。そうやってネットワークをつくって、仕事の依頼が来た時は「これはあの人とできるかな」とか、「全然違う分野で組み合わせてみたら面白いかな」とか、そういうことを模索しながらディレクションしています。

―桃生さんはディレクターのポジションになるんですね。

私自身は飽きっぽいので、一つのことを極めようとする能力が低いと思います(笑)。なので、自分ができないことはネットワーク内にいる何百人の中からやってもらうということが多くなりますね。自分はキャスティングだけして「あとはお願いします」っていう(笑)。そのストックをどんどんためるために、どこに行くにも、その場所やそこにいる人を見て能力を知って、つながりをつくるのが癖になっています。

―やってもらうとは言っても、「あとはお願いします」ができる能力が必要だと思うのですが。

一つは変なプライドを捨てることです。人間って、自分の能力を過信する時があると思うんですね。だから最初から最後まで自分でやっちゃってキャパシティを越えちゃったり、任せ方が中途半端になったりする。私は常に、周りにもっとできる人がいるっていう感覚なので、信頼して任せるし、実際、お任せした方がいい結果が出ます。

あとは、盛り上げるんです(笑)。「お願いされたからやる」だとだめなので、自発的になってもらうために「これいいですね!」って言って、盛り上げてやる気になってもらいつつ、「あ、でもここだけちょっとこうした方がいいんじゃないですか」って、さりげなく自分の意見を反映させる。そういうのは能力のうちかもしれないですね。

―仙台で働く理由を教えてください。

生まれてから東北を離れたことがないので、このまま東北に骨を埋めようという気持ちがあります。生まれた土地っていうのは大きいですよね。あとは、震災があったので、他の町ではできないことができるんじゃないかなっていう気がしていて。そういう点で、仙台を含め宮城・東北で働くことに意義があると感じています。

―仙台でしかできないことってどんなことでしょう。

それが難しくて、まだできていないんですけど。常に考えているのは、無いものをどうつくっていくか。東京にも海外にもできない、仙台や宮城だからできるものって何かなという可能性を常に考えながら仕事をしています。フットサルのイベントもそういう意識があって企画しているんです。東京だとデザイナーだけでたくさんの人がいて、また現代アートだけでもたくさんの人がいて、それぞれ役割が分かれているけど、仙台はその垣根を軽く越えられるくらいの数だと思うんです。だから、あえて異なる分野同士が緩やかにつながることで、仙台ならではの新しいことができるんじゃないかと思って、その機会を生むためにあの場を企画しました。

―無いものをつくるということが仕事へのモチベーションになっているんですね。

そうですね。文化とまで言うと大げさですけど、何かをつくり出したいっていう気持ちが大きいです。それはモノじゃなくてもよくて、仕組みやコトでもいいんです。今までに無い、「これってありなの?!」みたいなものを増やしていきたいですね。

―仙台にあったらいいなと思う場所はありますか。

仙台の国分町に寄席ができたことは、とても素晴らしい取り組みだなと思いました。そこも、新しい「仙台ならでは」をつくっていく場所になるんじゃないかと楽しみです。自分でも、今は模索中ですが、いつかそういう場所をつくっていきたいです。

―「場」は何かをつくり出す上で大事な要素になるのですね。

そうですね。ただ難しさもあって、その場所がかえって閉じたコミュニティをつくってしまう可能性もあるんです。特定の人だけの場所になってしまうと、強いつながりはできますが、新しいことには発展しづらくなってしまう。とは言え、どうしても偏りは出てしまうので、意識する必要があって。私自身も物事に対して食わず嫌いをしないようにしたり、自分のことを自己批判的に見るように意識しています。

―「物事に対して食わず嫌いをしない」とは、具体的にはどのようなことですか。

アイドルのライブに行ったり、お笑いを観に行ったり、人がたくさん集まることに触れるようにしています。人が集まっている場所ってすごくエネルギーがあるし新しい文化が生まれるような気がするので、人気とか流行りに対しては意識してアンテナを張っています。

私の周りには流行りや大衆娯楽に興味が無いっていう人が多い印象です。私もどちらかというとそうなんですが、何かをつくるときに、圧倒的にエネルギーがある世界を切り離して考えるのは、内輪受けのものになる原因になってしまいます。

―行政にやってほしいことは何かありますか。

最近は行政主動でプロジェクトが起きて、ある程度予算がつくのでそこに企業や市民がついて行くということが多いイメージがあるんですが、そういうことより、行政には民間主動で自由な挑戦ができる環境整備に力を入れてほしいなと思っています。もちろん行政主動の中で生まれたものもあるのですが、どうしても予算が途切れるとともに動きも終息してしまったり、プロジェクトの効果が冷静に評価されないまま同じような事業がまた始まったりすることがあるように思います。だから行政には、民間のエネルギーを後押しする立場でいてほしい。民間側がもっと動きやすくなる制度をつくったり、規制を緩和したり。その方が、新しいものが生まれやすい気がするんです。制度や規則には、いろいろなハードルがあると思うので、実際にやるのはなかなか難しいかもしれませんが。

―最後に、クリエイティブ分野で働きたい人へ伝えたいことを教えてください。

自分にも言い聞かせていることですが、もし目の前にやりたいことがあるなら、恐れずにチャレンジしてほしいですね。

私のところにもよく相談が寄せられます。そこで決まってお話しするのは、「やるかやらないか」っていうこと。ほとんどの相談は、やりたいことは決まっているけど足踏みしていて、だれかに背中を押してもらいたいだけなんですよね。迷っている理由も、親に心配かけるとか、お金のことが不安とか、時間がないとか。そういうのは全部理由をつけているだけだと思うんです。リスクを低くする方法はいろいろあります。だから、やろうと思ったら、明日からでも名刺をつくって、「これやってます!まだ仕事になっていませんが!」って、その肩書を背負って動き出してほしいと思います。

取材日:平成30年1月23日
聞き手:SC3事務局(仙台市産業振興課)、岡沼 美樹恵
構成:岡沼 美樹恵

 

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桃生 和成

1982年仙台市生まれ、いわき市育ち。宮城大学大学院事業構想学科空間デザイン領域博士前期課程修了。大学時代、地域通貨とごみ拾い活動を組み合わせた「シネマ・ストリート・プロジェクト」に参加し、市民活動に出会う。2008年、NPO法人せんだい・みやぎNPOセンター入職。多賀城市市民活動サポートセンター長を務めたのち、2016年退職。利府町まち・ひと・しごと創造ステーションtsumikiディレクター(2016年~)、シェア型複合施設THE6ディレクター(2016年~)、東北文化学園大学非常勤講師(2018年~)。

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