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クリエイターインタビュー後編|及川 恵子(ライター・編集者)

私にとって無駄なものは宝箱。もっと「無駄」を覗きたいです。

現在、フリーランスのライター・編集者として活躍する及川恵子さん。新幹線に乗っているとき、窓から住宅地を見ると「私はこの人たちと会うこともないのか」と落ち込むのだそう。そんな及川さんの見知らぬ人と出会いたいという欲求は一向に止むことがない。それほどまでに「人と話をしたい」と彼女を突き動かす原動力はなんなのか、お話を伺った。

 

-仕事をするうえで気をつけていることはありますか?

取材をする時はちゃんと会話をしたいと思っています。一問一答のほうが効率はいいと思うのですが、私は無駄だと思うことも全部聞きたい。「無駄」こそ、文章で相手の雰囲気を出す材料になるんです。以前、取材が楽しすぎて予定された取材時間が終わった後に、私だけ残って取材を続けたことがあります。今考えるとマズいことだし、取材先にも失礼なことだと思うんですけど、聞きたいことが溢れてきちゃったんです。相手の方も話してくれる方だったので、すごく感謝しています。取材対象の方ありきなんですけど、これで書けるという確信を持つまで帰りたくないです。自分勝手ですね(笑)。でも、別の仕事では、取材対象の方が「こんなに自分が喋るとは思わなかった」と言ってくれたことも。そういったときは、相手の言葉を引き出せたと実感できたので「よっしゃー!」と思いました。

-人とお話しするのが本当にお好きなんですね。

そうですね。みなさんそれぞれの人生を歩んでこられているので、自分とは全く違う考え方などを聞くのがとにかく楽しい。この仕事は好奇心がないとやっていけないと思います。

-好奇心の他に、及川さんにとって欠かせないものはありますか?

罫線がないタイプのノートとジェットストリームのボールペンは欠かせないです。見開きで使っているんですけど、右側に質問を書いて、左側に質問の答えや取材の様子を書く。このノートは見開きにした時にフラットになるし資料を入れたファイルと同じサイズになるので重宝しています。あとはボイスレコーダーも必須ですね。

-今までに仕事の難しさを感じた出来事はありますか?

私の書いた文章とクライアントが想定していた文章に食い違いがあった時に無断で文章を直されたことがあって、期待される文章を書くことの難しさを感じたことがありました。でも、私の仕事はクライアントのイメージ通りに持っていくことが前提なので、この件はクライアントのイメージに達することができなかった私の力不足でもあります。とはいえ、私は小説家ではないので、なるべくクライアントのイメージ通りの原稿を書きたいと思うのですが、自分の文章にプライドも持っているので、どこまで自分の文章を守ってクライアントに寄せていくのかというバランスは今でも葛藤することがあります。

-仕事以外の時間は何をしているときが好きですか?

本をよく読みます。おすすめは『笑いのカイブツ』と『邂逅の森』。『笑いのカイブツ』は深夜ラジオでは有名なハガキ職人が書いた本で、人生でこんなに一つのことに熱くなれたら大変だけど楽しそうだなと思います。『邂逅の森』はマタギの話なんですけど、土の匂いや山を踏む足の感覚までが伝わってくる圧倒的な描写に痺れます。これを読んだことで、マタギをもっと知りたくなって、仕事として取材に行かせていただいたこともあります。あと、エンタメやお笑いが大好きです。お笑い芸人のラジオをよく聴くのですが、知性のある反射や言葉のセンスに触れるだけでテンションが上がりますね。

左/『笑いのカイブツ』ツチヤタカユキ(文藝春秋, 2017) 右/『邂逅の森』熊谷達也(文藝春秋, 2006)

-仙台市の好きなところがあれば教えてください。

仙台はコンパクトに色々なことが楽しめるし、文化横丁みたいに個性がギュッと詰まった場所が大好きです。あと、仙台市経済局の「SC3 」や仙台市産業振興事業団が運営する「暮らす仙台」のような面白い見せ方にこだわったウェブサイトがあるのは見るだけでも楽しいし、面白いことをやっている人を探し出せる機会に繋がってくれたらいいと思います。

-今後の目標などはありますか?

小説やエッセイなど自分の作品を出したいです。私の色がある文章を書いていきたくて、ちゃんと自分のウェブサイトなどで残していけたらいいなと思っています。

-最後にライターや編集者を志す方へ向けてメッセージをお願いします。

人の意見に惑わされず、好奇心を忘れないでください。やりたいことは自分にしかわからないし、人が何を言おうと気にせず思うがままに突き進んでほしいです。

取材日:令和元年11月13日
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:はま田 あつ美

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及川恵子

1982年宮城県生まれ。大学で建築を学んだのち、2011年より建築家による復興支援団体「ArchiAid」にてプレスを担当。その際に書籍制作に関わったことで編集者の道へ進むことに。2013年より出版社「プレスアート」にてタウン情報誌「せんだいタウン情報S-style」などの編集制作に携わる。2017年よりフリーライターに。知ること、書くこと、そして人と出会うことが好き。旅、音楽、猫も好き。

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