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クリエイターインタビュー前編|野原 巳香(ライター・編集者)

人の想いを未来へ繋ぐ。そのお手伝いができたら幸せ。

ライター・編集者として、仙台を拠点に活動する野原巳香さん。大学時代からアルバイトでこの仕事を始め、職歴はおよそ20年にも及ぶ。「文章を書くだけでなく、人々の思いを残すことが大切」。書き手、聞き手のプロフェッショナルである彼女の、仕事に対する思いと情熱を伺った。

 

―この仕事を始めたきっかけを教えてください。

大学の同級生のお父さんが東京で出版社・編集プロダクションを営んでいて、そこでアルバイトをしないかと誘われたのがきっかけです。約2年間、学校に通いながら経験を積んで、大学卒業と同時に仙台へUターンして地元の出版社に就職。その後、2005年に独立し、現在はフリーランスとして働いています。ライター、編集者歴はトータルで20年になります。

―元々ライター業を志望していたのですか?

大学に入るまでは、英語を生かした仕事に就きたいと思っていました。たとえば、翻訳の仕事だったり、学校の先生だったり。きちんと英語を勉強して、そうした仕事に就こうかなと最初は考えていたんです。でも、ライターや編集者としてアルバイトを経験したことで、「ものづくりが楽しい!」と感じるようになって。この職業を続けたいという思いから、出版社への就職を決めました。

―「ものづくりの楽しさ」とは具体的にどういった部分でしょうか?

頭の中のイメージがどんどん形になっていくことですね。一般的にライター・編集者の仕事は、カメラマンやデザイナーなど他のクリエイターの方々とチームになって制作にあたることが多いと思います。それぞれの専門技術やセンスを結集させて、より良いものを作り上げていく。その作業がとても楽しいですし、成果物として想像以上のものができあがったときの達成感、ワクワク感は今でもあります。

―ちなみに当時はどのようなものを手掛けていたのですか?

大学時代は、児童書や雑誌、書籍など、幅広く制作していました。その頃から、原稿を書くことだけでなく、レイアウトを組んだり、企画段階から参加させてもらったり、さまざまな仕事をさせてもらいました。卒業後は仙台の出版社に3年勤め、地域情報誌の編集や取材・原稿作成、新規媒体の立ち上げなどにも携わらせていただきました。そうした経験は、独立した今でもだいぶ生きていますね。

―ライターという職業において、一番のやりがいはどこですか?

多種多様な分野の方々から興味深いお話を伺えるだけでなく、お仕事の現場を拝見できることも多いです。まるで「大人の社会科見学」を長年続けているような面白さが、この仕事にはあります。しかも取材させていただくのは、その道で秀でていたり、活躍されていたりする方がほとんど。その方が人生を懸けてきたこと、情熱を傾けてきたことについてお話を伺うことになるわけです。そう考えると、私もその方の思いを代筆するような気持ちで、真摯に向き合いたいと思います。相手の気持ちに寄り添い、その人物の魅力がより伝わるような原稿を書こうと常に心掛けています。

―そうなると、相手とのコミュニケーションがとても重要ですね。

たとえばインタビューの場合、多くのケースが初対面です。初めて会った人に、自分の人生を語らなきゃいけないって、よくよく考えればハードルが高いですよね。そこで「この人になら話してもいいな」と思っていただけるライターでありたいですし、そのためには私自身もスキルや人間性を養っていかなければならないと感じています。また、取材に伺う前はできるだけ予習をして、その分野についてある程度の知識を備えるようにしています。そうしなければ、相手から深い話を引き出すことはできないので。

―これまでで特に印象に残っているお仕事などはありますか?

岩手県一関市にある「世嬉の一酒造」のお仕事です。一関には昔から伝わる餅食文化があり、それを紹介し、伝承するために、コンセプトブックの制作から、お土産向けの餅商品の開発、100周年記念誌の制作、これらの企画立案、編集、ディレクションなどに携わらせていただきました。そこで感じたのは、一つの文化や伝統を、文字にして後世に残すことの重要性。記念誌では、先代のご夫婦の記憶や言葉を物語仕立てにして残そうと、ヒアリングから原稿作成までを担当したのですが、伺う話のすべてが波乱万丈でドラマチック。もし取材しなければ、これほどの壮大な物語や偉業がご夫婦の心の中だけに留まっていたのかもしれない。そう思うと、とても胸が熱くなりましたし、文字にして後世に残すことがいかに大切かを改めて思い知りました。

「世嬉の一酒造」における制作物の数々。写真下の青色、赤色の2冊が100周年記念誌で、先代のご夫婦の想いや同社の歴史が物語仕立てで綴られている。

―書く、伝えるだけでなく、「思いを残す」こともライターの仕事ですね。

そうですね。一般的にライターは文章を書く仕事だと思われていますが、「いかにして話を聞き出すか」といった部分も大きな役割で、そこが伴ってなかったら決して良い原稿はできあがりません。私も書き手としての技能を磨くだけでなく、聞き手としても人としても信用していただけるように、成長を重ねていきたいです。

取材日:令和元年10月17日
撮影協力:book cafe 火星の庭
取材・構成:郷内 和軌
撮影:はま田 あつ美

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野原巳香

仙台市出身。宮城県第二女子高等学校(現・宮城県仙台二華高等学校)を卒業後、早稲田大学第二文学部に進学。大学在学時に出版社・編集プロダクションでアルバイトを始め、卒業後、仙台市の出版社に就職。地域情報誌の制作などに携わり、2005年に独立。現在は食や文化・芸術、教育分野などを中心に、幅広いジャンルの執筆・編集を担当している。

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