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デザインココ(前編) 造形はあいまいな表現を数値化する仕事

例えばあの人気作品「ONE PIECE」など、誰もが知る漫画・アニメやゲームのキャラクターフィギュアを仙台の企業が製作していることをご存じだろうか。もともとデザインや広告、内装工事などを手掛けていたデザインココが、特に大型立像製作において国内で唯一無二の存在になるまでの足跡について、千賀淳哉社長にお話を伺った。原作者や権利元をもうならせる立体造形を可能とする独自の発想、理論、具体的な手法が惜しみなく語られる。

造形はあいまいな表現を数値化する仕事

—御社は実にさまざまな業務を行っていますが、これまでの経緯を教えてください。

千賀淳哉社長(以下、千賀) 最初は個人事業でデザインや広告の仕事を行っていました。ちょうどMacが出始めてDTPが始まったあたりで、独学でデザインを組んで、取材執筆もすれば撮影もして、営業活動を含め一通り自分でやっていましたね。

そうしているうちに屋外広告の依頼があって、当時看板にもデジタルの波が来ていて、デジタルとアナログが融合するようなところに自分が生きる場所があるなと思うようになりました。アナログにデジタルを取り入れて、どうすればより早く、お客さんに喜ばれ、かつ利益も出るようにできるかと、その辺のことをずっと考えてきたように思います。

徐々に規模が大きくなってきて、2000年に法人化しました。今では建設業の免許も持っていて、店舗や公共施設などの内装工事も手掛けています。10年ほど前にフィギュア製作も始め、現在は大きく分けるとデザイン部門、広告代理部門、内装工事部門、そして造形部門があります。

個人事業から現在の規模まで会社を育て上げた千賀淳哉社長

—特に造形部門の印象が強いです。

千賀 実際は今でもデザイン、広告代理業務が大きいんですけれども、おっしゃる通り、造形の部分でブランドを作ろうと思って頑張っています。

僕らが造形を始めた10年ぐらい前、いわゆる大きな人形というのはそこまで精巧なものはなく、もうちょっと何かできるのではないかと思っていました。フィギュアという言い方にも実は抵抗があって、うちが作っているのはスタチューやスカルプチャーという「像」。そういう立像製作でポジションを築きたいと考えて、中でも奥行きがない2次元のものを立像化することに特化するようになりました。

例えば「ONE PIECE」のキャラクターを造形した時、作者の尾田栄一郎さんから話をお聞きしたんですが、作家さんは奥行きを考えていないことも多いようなんです。だから正面の顔と横の顔が一致しないことがある。アニメ会社が映像にする時も、やっぱり正面と横が一致していない場合があるので、ゆっくり振り向くような場面は少なくて、パン、パン、とカットが切れる。平面の絵を立体として成り立たせる上で実は不合理があるんですが、そこには作品の世界観があるので、見る側が脳で補正しているわけです。

そうしたあいまいな部分を補完して形にするのがわれわれの仕事。言い換えれば、「かわいい」とか「強い」とか「悲しい」とか「美しい」、そういうあいまいな形容詞を物理的に数値化する仕事だといえます。「かわいい」というのはどういうものかを物理的な数値として、XYZの点データとして正しいかを突き詰めていく。そこに自分たちの芸術性や創作性を込めています。

—従来のフィギュア製作とは異なる考え方ですね。

千賀 それで言うともう一つ、従来型の手造形にこだわる必要はまったくないと考えています。これはデジタルが発達したことも重要なんですが、「手じゃないと魂が入らない」なんてことはなく、やはりあいまいなものをきちんと物理的に数値化するというのが一番大事なところ。そういう意味では、「手」で作るのではなく「目」で作ると言ってもいい。「このラインが正しいんだ」ということが判断できれば、その時点でその人はもうモデラーです。

同社エンジニアリングディレクターの伊藤さん。造形の美しいラインを見極める

例えば漫画のキャラクターを造形することになったとき、6面図がもらえることはほとんどありません。建築物の場合は、正面図、左右の側面図、背面図、平面図、底面図の6面、矩計図(かなばかりず)なども入れると7つも8つも図面が用意されます。だけどわれわれの仕事ではそういうものは一切なくて、漫画雑誌のコピーだけという場合がほとんど。その中で奥行きを作って、読者が納得する世界観を出さなきゃいけないんです。いまはSNSが発達しているので、悪ければめちゃめちゃたたかれますし(笑)、もちろん作家さんや出版社、アニメーション制作会社の監修も通さなければいけません。

—具体的にはどう形にしていくんでしょうか。

千賀 漫画のコピーを基に実際のサイズで作ろうという時に、キャラクターの頭もボディーも、寸法に合わせて絵を立体的に拡大すればいいかというと、それではまったく違ったものになってしまいます。ですので私たちはまず、3DCGの裸のモデルで人間の骨格として違和感のないものを作って、それに洋服を着せていきます。

ところが、3DCG上ではイメージ通りに仕上がっているのに、立体にしてみると違和感を感じるということがたびたびあります。なぜならモニターで見る3DCGというのはしょせん擬似的な3次元。実物のフィギュアを見て、例えば髪を0.5ミリだけずらすと影が変わってぐっとそのキャラクターのイメージに近づくことがある。だから最後は人の目、人の手なんです。

3Dデータを基に立体化するだけでなく、最後は人の手による創作性が重要となる

世の中ではデジタル造形が流行していますが、デジタル造形は完璧ではなく、しょせん人の手、アナログ造形の手助けにしかならないんです。デジタルだから、アナログだから、良い悪いという話ではなくて、最終的には人の手を加えるのが「創作性」の部分。このラインが美しいということを見つけられることが創作性で、デジタルというのはそれを手助けするツールでしかないんです。

—なるほど。モデリング通り形にすればいいというものではないんですね。

千賀 そうです。プレイステーションVRのゲームソフト「サマーレッスン」の宮本ひかり(登場キャラクターの一人)の等身大フィギュアもうちで作りましたが、これはもっと大変でした。

「フィギュアーツ ZEROサマーレッスン:宮本ひかり」(バンダイ)パンフレットより。左が資料の絵、右が実際のフィギュア

—漫画と違って3Dにモデリングされているのに、逆に大変なんですか?

千賀 プレーヤーは右目と左目の異なる映像を脳で合成して見ているわけですが、それに対して資料で頂く絵はモニターのキャプチャーを切り取った絵なので、顔が違う。それでどうしたかというと、私がバンダイナムコさんの開発の部屋に行って、実際にVRを体験して理解したものを、うちのモデラーに伝えて作りました。設定資料に合わせるのではなく、VRでプレーした方々に「これが宮本ひかりだ」と思っていただけるものを作らないといけないので、非常に難しかったですね。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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デザインココ

2000年9月設立。デザイン、3Dプリンター設計・製作、産業用メカ設計・製作、造形物・模型製作、映像・音声制作を手掛ける。六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリー「尾田栄一郎監修 ONE PIECE展」造型メカ製作、仙台・神戸・福岡の「アンパンマンこどもミュージアム」企画・施工・管理、東京タワー内「ワンピースミュージアム」造型製作など展示設計の実績多数。「聖闘士星矢」「ゴジラ」「エヴェンゲリオン」「進撃の巨人」「初音ミク」などのヒューマンサイズフィギュアを手掛ける。3Dプリンター中型機「L-DEVO」シリーズ、大型機「COCO MIYAGI 76」を開発・販売。

 

千賀淳哉

デザインココ代表取締役社長・統括ディレクター。南三陸志津川町出身。2016年からみやぎデジタルエンジニアリングセンター「FDM用途開発研究会」座長を務める。

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