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クリエイターインタビュー後編|太田 健裕(建築設計)

仙台を一つの拠点に、活動の幅を広げていきたい。

長年勤めた東京の建築事務所をこの春退社し、仙台での独立を決意した太田健裕さん。新たなコミュニティーの形成、そして被災地復興の次の課題。ツールが発達した今だからこそ、地方から全国に発信できることがある。大きな可能性を秘めたこの街から、新たな人生の一歩を踏み出していく。

 

―この春、8年間勤めていた会社を退社し、独立されました。

この仕事を始めたときから、いつかは独立したいという気持ちはありました。自分が次のステップに進みたいと考えたタイミングと、子どもが就学するタイミングがうまく重なったので、決断しました。そこで拠点をどこにしようかと考えたときに、仙台はとても良い場所だなと。自分の両親が石巻に住んでいるので、子育てにおいて助けてもらいやすくなりますし、今も仕事で東京に行く機会があるのですが、新幹線で1時間半あれば行けてしまうので、とても便利です。交通の便が良いという点は、仙台という街のポテンシャルだと思いますね。

―拠点を移して数カ月が経ちましたが、仙台という街についてはどのようなイメージをお持ちですか?

元々、宮城で育った人間なので、戻ってきたという感覚のほうが強いですね。前の職場にいたときも、延べ5~6年間は宮城に通っていましたので、拠点を仙台に移すことについては、意外とすんなり行きました。まだこちらに来てちょっとしか経っていませんが、過ごしやすく感じています。それに、時間の流れが東京より少しだけ落ち着いていて、自分にとってはちょうど良くて心地良いです。創作活動をするうえで、そうした空気間はとても重要。とても住みやすい街だなと思っています。

―働くうえでの仙台の魅力とはどこでしょうか?

仙台は全国のあらゆる都市の中でも、起業をしたり、事業を始めたりするには、とても恵まれている場所だと思うんですよ。行政もとても協力的で、交通の便も良い。TRUNKのような施設があって、他の業種の人たちとも交流できる。それに今は、仙台にいるからといって、仕事の範囲が宮城だけ、東北だけに限られることはありません。もちろん会ってお話することも大切なので、利便性の良い交通機関を活用することはありますが、さまざまなコミュニケーションツールが便利になっていて、遠方にいる仕事のパートナーとはいつでも会議が行えます。地方で何かを始めやすい状況になってきていると思いますね。

―今後は宮城でどのような仕事に携わっていきたいですか?

メインは仙台を拠点としながらも、どこの場所でも活動ができるように進めていきたいと考えています。ただ、県内の案件を経験する過程で、とても素敵な職人の方々と出会うことができました。同時に、震災からある程度の時間が経ち、「量から質」という価値観が増えているという実感があるので、出会えた職人の方々とまた仕事をご一緒して、質の高いものを作っていけたらいいなと思います。

―被災地も様変わりしているということですね。

私が実際に経験した範囲内の話になりますが、直面する課題は、年々変わっていると感じます。前職で担当したあさひ幼稚園も、最初は「子どもの行き場所を早く作りたい」といった声が、今度は「そこで暮らす人たちを増やしたい」という声に変り、周りの宅地開発が進められました。建物を使う人にとっては、竣工したときがスタート。使い始めてから、いろいろな意見が出てくるわけですし、それが建物の内部だけではなく、周りの環境に影響されることも多くあります。見つめ直さなければならないターンはやってくるので、その中で現状をいかにアップデートしていくか、それをサポートするのも私たちのできることだと思います。

―今後、太田さんのようにUIJターンをする人が増えるといいですね。

私は前職のときから、宮城の人とのつながりがありましたので、そこはとても大きかったです。全くコミュニティーがない場所に1人で飛び込む前に、関係を作れていたほうがいろいろと心強いと思います。特に私のように、建築設計の仕事に関わる人であれば、なおさら職人とのつながりなどは大事だと考えています。あとは、他の業界でもそうですが、仕事の拠点を複数持つといった選択肢も選びやすくなりました。私もこの仙台を拠点としながら、活動の幅を広げていきたいですね。

取材日:令和元年7月17日
取材・構成:郷内 和軌
撮影:小泉 俊幸

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太田健裕

1986年生まれ、石巻市出身。宮城県石巻高等学校を卒業後、武蔵工業大学(現・東京都市大学)建築学科に進み、建築設計を学ぶ。その後、修士課程を経て、2011年4月に手塚建築研究所に入社。設計監理業務を担当し、南三陸町の「あさひ幼稚園」、山元町の「ふじ幼稚園」の園舎再建のほか、医療施設、個人住宅などの実務にあたる。今年3月に手塚建築研究所を退社。6月より新たに立ち上げた「太田設計舎」の主宰を務める。

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