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クリエイターインタビュー|大網 拓真さん(後編)

3Dプリンタやレーザーカッタなどのデジタル工作機械を備える開放型の市民工房「FabLab sendai - FLAT」。エンジニアとして利用者のアイデアを形にするサポートをし、ラボを切り盛りする大網拓真(おおあみ たくま)さんに、現在の仕事に就くまでの経緯、ものづくりやデジタル工作への想いを伺いました。

 

—仙台には、いつ頃来られたんですか?

 2014年の8月ですね。その時点では、まだ修士課程に籍があって、働きながら修論書きました。

—来られてすぐに、FLATで働き始めたんですか?

 そうですね、仕事ありきで仙台に来た感じだったので。大学の同じ学科の先輩がFLAT立ち上げメンバーの1人で、紹介してもらって参画したんです。

大型機器だけでなく、工具類や書籍も充実しているFLAT。

—東京で働きたいとかなかったんですか?

 いや、むしろ働きたくないと思っていました。当時から、東京よりも他のまちの方がおもしろいことができると思っていたので。
 オランダって、僕が暮らしていたアムステルダムが首都ではあるんですけど、ユトレヒトとかハーグとかまちごとに特徴があって、みんな自分のまちにプライド持ってるんですよ。「東京とその他」みたいになっていないところがすごくおもしろいなと思ったし、仙台に可能性を感じたのもその経験があったからでしょうね。

—FLATの運営が仕事のベースだと思いますが、他にはどんな仕事をされているんでしょう。

 デジタル工作機械やそれを扱うためのソフトウェアの出張レクチャー、というのがひとつありますね。大学の非常勤講師として講義したり、いろんなファブラボでインストラクターやったり。あとは、クライアントワークの製作ですね。

—漆とか和紙とか、手しごと系のものづくりもされてますよね?

 はい、そっちは代表の小野寺の専門分野です。彼女が手しごと系の「やわらかい技術」やグラフィック、全体のマネジメントを担当していて、僕が工作機械など「かたい技術」を担当しているという感じです。ただ、「やわらかい技術」と「かたい技術」どちらかになってしまうと僕らでなくてもできるので、うまく両方を組み合わせてやるように意識しています。

マシンのメンテナンスに余念がない大網さん。

—アムステルダムやアイスランドのラボと比べて、ラボでの働き方は変わりましたか?

 変わりましたね。というのも、アムステルダムとアイスランドのラボは公的なお金が運営費として入っていたので、社会的意義さえ果たしていれば収益を上げなくてもよかったんです。ビジネスとしてファブラボを運営していくのは、僕にとって仙台が初なんですよね。

—そうなんですね。ビジネスとして運営していくこと特有の出来事とかあります?

 これがビジネス特有の出来事かどうかはわかりませんが、ラボの営業日に来てくれた人が、ラボの休業日に別の製作の仕事の相談に来てくれたりということが結構ありますね。

—いろんなチャネルを持っておくと、仕事にも幅が出てくるでしょうね。

 そうですね。いくつかの軸がうまくつながってきていることは感じます。

—今後、チャレンジしていきたい仕事はありますか?

 自分たち発信の製作にもっと力を入れていきたいと思っています。ラボの運営とかクライアントワークに比べると、現状あまりできていないので。
 東京の「TechShop Tokyo」で講師をやったときに、空き缶を使って自作したシンセサイザーを持っていったらユーザーの人がすごく興味を持ってくれて。その場でつくり方まで教えたんですが、「キット化した方がいい。絶対売れるから」と結構強い調子で言われたことがありました。僕は「設計図渡してつくり方教えれば、つくりたい人は勝手につくる」というスタンスなんですが、キットになっていればハードルが下がってもっといろんな人に興味を持ってもらえるかもな、というのは確かにあって。シンセサイザーに限らず、キットをつくってみたいなということは思っています。

空き缶でつくったシンセサイザー。

—いろんな人にラボに来てもらうきっかけになりそうですね。

 そうですね。誰でも気軽に立ち寄れる「まちの図工室」みたいな場所になる、というのがFLATが目指していることなので。

—いいですね。そういうことも、結構出てきていますか?

 少しずつではありますが、出てきています。常連の学生さんが、近くで展示やってるときに作品の補修のために接着剤とかはんだごて借りにきたりとか。
 ちょっと前になりますが、ラボ閉めようと思っていたら女子高生が駆け込んできたことがあって。「頼れるの、ここしかなくて」みたいな感じで。話聞いてみたら、次の日から文化祭なんだけど先生分のTシャツがないって言うんですよ。一肌脱がない訳にいかないじゃないですか?

—ですね。

 で、1時間くらいかけて表面は刺繍、背面はプリントでつくってあげたら、もうボロボロに泣いて喜んでくれて。この仕事やっててよかったなって心底思いましたね。

—それは嬉しいですよね。いろんな人に来てもらう工夫として、他に取り組んでいることはありますか?

 中高生とか、ラボの利用料を稼ぐのが難しい若い世代向けに「チリツモ」というお手伝いポイント制度を設けています。掃除とか簡単な作業をするとポイントがもらえて、そのポイントでラボの機器が使えるという仕組みです。

—それ、いいですね。中高生の寄り道スポットになったりして。

 あるかもです。そうやっていろんな人が出入りして、「お金」と「機器の利用」だけじゃなく「お手伝い」や「アイデア」や「技術」も交換し合うことで、快適でおもしろいラボへと進化していく動きになるといいなと思っています。

—最後に、仕事を通じて伝えていきたいこと、実現したいことを教えてください。

 ものづくりのおもしろさを伝える、ということはあるんですが、みんながみんな自力でつくれるようになる必要はないと思っていて。でも、ものがどうやってつくられているかはできるだけ多くの人に知ってもらいたいんですよね。
 最近、値段だけで買うものを選ぶ人が増えているように感じるんですが、いい材料を使っていたりとか、製造工程に手間がかかっていたりとか、高いものには高いなりの理由があるわけで。ものづくりの過程を知ってもらうことが、大量生産品について考えたり、「高いから買わない」の1歩先に進むきっかけになればいいなと思いますね。

取材日:平成28年11月21日
聞き手:工藤 拓也、SC3事務局(仙台市産業振興課)
構成:工藤 拓也

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大網 拓真

FabLab SENDAI – FLAT エンジニア / 一般社団法人FLAT
2014年、九州大学大学院芸術工学部デザインストラテジー専攻修了。1年半、オランダとアイスランドにて3Dプリンタやレーザーカッタなどのデジタル工作機械を備え、一般に開放された市民工房FabLabにてインターンシップを経験する。
帰国後は、仙台市内のFabLabであるFabLabSENDAI – FLATにて技術的なサポートや工房の運営を行いつつも、同工房を拠点として企業の試作品開発、大学と連携しての技術開発など設計から製作までを行えるエンジニアとして活動している。

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