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クリエイターインタビュー|水越 卓也さん(前編)

仙台市青葉区宮町に工房を構え、家具のデザイン制作や店舗等の内装設計・施工を手掛ける「dessert」の水越卓也(みずこし たくや)さん。 設計事務所、内装会社勤務時代の経験や、独立時の苦労、そしてdessertが目指す家具づくりについてお話を伺いました。

 

─家具職人さんって、使う素材や加工方法などにそれぞれこだわりを持たれているイメージがあるのですが、自分がつくる家具で一貫性があるとすればどういうところですか。

目に見えて分かりやすいものではないですが、社名の「dessert」の由来“食後のデザート”のように、その家具が使う人にとって少しだけ特別なものになれるようにと思ってつくっています。「メインでお腹いっぱいだけど、デザートは食べれちゃう」みたいな。ワンポイントと言ったら軽くなっちゃうんですけど、家に置いていても、ふと目にしては「何かいいな」と感じてもらえるものになれたらと。そういう点で、“見たことがあるようでない家具”ということは少し意識しています。

─「何かいい」家具なんですね。

そうですね、何か分からないけどいいみたいなのが好きですね。なので、家具を主役にしたいわけではないんです。主役は家具を使ってくれる人たちなので、その人たちに使われる姿が家具の完成形だと思っています。例えば本棚も、実際に本を入れた時の姿もイメージしながらカタチにしています。

壁面いっぱいの本棚

─では、現在に至るまでをお聞きしていきたいのですが、まず家具などインテリアについては学校で勉強されたのですか。

東北工科情報専門学校(現在の東北文化学園専門学校)のインテリア科に行っていました。

もともとは高校卒業後に就職するつもりで、会社の内定も決まっていたんです。でも、面接もせずに書類選考だけで決まったので、これでいいのかなと不安になって断っちゃったんです。ただ、他にやりたいことがあったわけでもなく、何がしたいのか自分でも分からなかったので、なんとなく興味があった分野に進学しようと思って受けたのがこの学校でした。

―学び始めたら、それがやりたいことになっていったということでしょうか。

それも、そうでもないんです(笑)。就職先も流れで決まったようなところがあって。

―そうなんですか。

就職活動中に、設計事務所さんで職業体験をさせてもらった際、なぜだか気に入ってもらえて、そこに入れることになったんです。就職難の時期だったので、これで就職先が決まるなんてうれしいと思って、就職を決めました。

―では、設計事務所で何か転機が? どんな仕事をされていたのでしょうか。

主に病院や学校などの施設設計をしていました。携わった期間が一番長かったのは、せんだいメディアテークの設計ですね。設計と言っても、建物の細かい部分の図面を書いたりする仕事でした。

実際に建設が始まると、現場の状況に合わせて図面を修正する必要が出てくるので、職人さんとやり取りしながらその場で図面を書くのですが、そこで考えが食い違うことが多かったんです。元の図面に対して、つくり手側から「これじゃできない」と言われると、自分はつくる方をよく知らないので反論できず、腑に落ちないまま図面を直さなきゃいけない。いつもモヤモヤしていました。

─設計側と施工側でそんなに意見の差があるんですか。

つくり手側からすると、「図面では簡単に書けても、実際につくるのは簡単じゃない」みたいなところはありますね。仕事の規模が大きいほど、そういう温度差も大きい感じがしました。私自身まだ駆け出しの頃だったので、意見が違うことや、分からないまま進んでいく事がすごく不安でした。

それで、設計の仕事は3年ぐらい続けていたのですが、つくり手も経験して細かいところまで理解したいという思いがあったので、設計事務所を辞めて、内装会社に入りました。

―つくり手になってみて、どうでしたか。

設計をしていた頃に職人さんが言っていたことの意味が、すごくリアルに分かるようになりました。それに、もともと何かをつくったりいじったりするのが好きなタイプだったので、こっちの方が自分にはしっくりきた感じがします。今ではどちらの経験も生かして仕事ができているので、やってきたことは無駄じゃないなと思います。

―家具づくりはその会社で経験されたのですか。

はい。メインは店舗の内装をしている会社なんですけど、その内装に使う家具も自分たちでつくるというスタイルで。それがすごく楽しくて、はまりました。独立した今も、家具を主体にしつつ、内装の設計や施工もやっています。

─家具づくりの技術は、そこで一から勉強したのですか。

そうですね。少なからず建築に携わっていたので、多少は分かるつもりでいたんですけど、やっぱり家具づくりには家具づくりの専門用語があって、最初は何のことを言っているのか分からなかったですね。技術も、教わるというよりは見て覚えろという感じだったので、そういう部分では苦労しました。悔しい思いもいっぱいしましたし。

─悔しい思いというのは?

内装や家具づくりを通して常に発展していく姿勢の会社だったので、最初は自分の技術力も含め、いろいろな面で力不足を感じることが多かったです。

もちろん基本の形はあるんですけれど、当たり前のようにそれだけつくればいいということではないんですね。こうしたらどうか、ああしたらどうかとつくりながら考えて、形にしていくという仕事が多かったです。でも、大変な分楽しかったです。まずはやってみて考えるとか、考えながらつくるということを学ばせてもらって、自分がやりたいことはこういうことだと思いました。

─独立されたのはいつ頃ですか。

27歳の頃です。設計の経験とつくり手の経験、両方を生かせる形でやれたらと思って独立しました。

20代でよく決断されましたね。生活の心配はなかったですか。

今思うと、自分でも何でしたんだろうと思います(笑)。仕事の当てなんてなかったですからね。かといって、その時は他の選択肢は考えられなかったんです。既に結婚もしていたんですけど、奥さんの後押しもあって、もうやらない理由がないなと。

独立してすぐは、とにかく何でもしました。住宅の軒下にもぐって、シロアリ駆除をやったりもしましたね。分からないことは人に聞いたり、助けてもらいながら、とりあえず話が来たものは断らないようにしていました。

─そういった積み重ねは大事ですよね。

そうですね。そうやって、気が付いたら13年間続けてこられているので、本当にありがたいことだと思います。続けてこれたことで、そこでまたいろいろなことを学びました。

当時は工具や機械を調達する資金もなかったので、木工所をやっている方の作業場を間借りしていたんですが、そのおかげでベテランの職人さんから昔ながらの技術を教わることもできて。その経験は、今の家具づくりにとても生かされています。

─現在は家具を中心に内装なども手掛けられていますが、仕事はどのようにして声がかかるのですか。

直接お話を頂くこともありますし、これまでいろいろ経験してきた中のつながりで仕事を頂くこともあります。つながっている人から紹介を頂いて、そこで知り合いになって、またつながって、という感じです。私達がつくったものや場所で人と人がつながって、そのつながりから声がかかることが一番うれしいことだと思います。

取材日:平成30718
聞き手:仙台市地域産業支援課、菊地 正宏

 

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水越 卓也

仙台を拠点に家具・建具のデザイン制作。店舗・住宅マンションの内装設計施工を行っております。

設計事務所にて大型商業施設、病院ほか住宅などの設計業に従事した後、もっと身近にものづくりを感じたいと思い創ること造ることを原点から学び2006年に独立。

同年に空間・家具デザイン、制作を主とするdessert(デザート)を設立。

デザインから施工、取付までトータルで行っているのでお客様の反応が身近で感じられる。そんな環境で日々ものづくりに勤しんでおります。 デザートのように、デザートのような満足感を感じていただけるように心掛けております。

instagram. https://www.instagram.com/likedessert/

Web. http://dessert-furniture.com/

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