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クリエイターインタビュー|水越 卓也さん(後編)

仙台市青葉区宮町に工房を構え、家具のデザイン制作や店舗等の内装設計・施工を手掛ける「dessert」の水越卓也(みずこし たくや)さん。 設計事務所、内装会社勤務時代の経験や、独立時の苦労、そしてdessertが目指す家具づくりについてお話を伺いました。

 

─独立されてから、家具の注文が増えてきたという実感はありますか。

そうですね。オーダーメイドとなると店舗の方が内装と絡めて注文を頂く割合が多かったですが、住宅にもそういった要素を取り入れる方が多くなってきて、だんだんと家具の注文が増えてようやく家具屋っぽくなってきたかなという実感はあります。

─これまで手掛けた仕事で、印象に残っているものはありますか。

今年、住宅のリフォームに合わせていくつかの家具をまとめてオーダーいただいた仕事があったのですが、その中で食器棚をつくる過程がとても心に残っています。

家具をつくる際には、サイズ感だったり収納のタイプだったりを伺いながら形を設計するのですが、その時は、すごく細かい部分までオーダーがあったんです。引き出しの位置や深さ、中でも、棚板の数が思いの外多くて。棚一段あたり器一つ分くらいの高さにしかならないので、「棚板多すぎないかな」と思っていたんですけど、それは、あえて食器を重ねずに収納するための形だったんです。

通常は、食器を重ねて収納することが多いと思うのですが、そうすると下の器が取り出しにくくなって、出番が少なくなってしまうんですよね。注文された方はそれが嫌で、どの器もまんべんなく使いやすいようにしたいと、その形を希望されたんです。それはまさに毎日その家具を使う方ならでは視点で、私にはない考えでした。まだまだ学ぶことはたくさんあるなと思いましたね。

そういう点で、人とやりとりする過程は楽しいですね。その家具ごとに、それを使う人と一緒につくっているという感じがとてもおもしろいです。同時に、人と関わりながら仕事をするのは大変なこともありますが、大変なことは乗り越えると経験値になる。向き合って乗り越えれば、また一つ提案の選択肢も増えるのかなって思っています。

─オーダー家具の他にdessertオリジナルのものもつくられているのですか。

そんなに多くはないですが、3年くらい前からオリジナルも少しずつつくっています。盛岡で開催されている「entwine」という合同展示会への出展がきっかけでした。それまではほとんどオーダーでつくっていたのですが、自分たちから発信するものもつくっていこうということでオリジナルの商品をつくり始めました。

─どういったものがありますか。

今年手掛けている新作でスツールがあります。はじめはオーダーで、勉強スペースで4人姉弟が使う椅子をつくってほしいとお話を頂いたんです。カウンターテーブルの勉強スペースをつくったものの、お子さんたちがなかなか寄り付かないので、“自分用の椅子”があればどうかと。それなら、うちのオリジナルとして形にしてみたいものがあると提案をさせてもらって、その椅子がちょうど完成したところなんです。

完成したばかりのdessertオリジナルスツール

―オリジナルの家具をつくるときはどんなことに気を使いますか。

一番は、長く使ってもらえるものをつくりたいということですかね。今は安価で手頃なものも沢山あります。価格が安いから、買い換えもしやすい。その便利さもあるんですけど、自分の手で物をつくっていると、やっぱりすぐになくなってしまうのは寂しいんですよね。なので、愛着をもってもらえるようにとか、子ども用であれば大きくなっても違う使い方ができるようにとか、そういうことを考えてつくっています。

─この椅子も、その考えのもとにつくられているんですね。

そうなんです。例えば、キッチンに置いて台にしたり、玄関に置いて靴を履くときの腰かけにしたり。大人になっても使える形を考えました。実は図工室の椅子をヒントにしているんです。図工室の椅子って、作業台の用途もあるんですよね。それをdessertらしい形にデザインしたのがこの椅子です。ちなみに、愛着を持ってもらうという点で、4人姉弟用につくった椅子の色は一人ひとりに選んでもらう提案をしました。

この椅子に限らず、素材も長持ちするものや経年変化を楽しめるものを選んでいます。耐久性だけでなく、直しながら使えるというところも考えてつくっています。

─家具の修理も受けられているんですよね。

はい。先日も、テーブルを預かってきたところです。年をとったのでもう少し低い椅子を購入して、テーブルをそれに合う高さにしたいと。一緒に、デザインも曲線的なものに変えたいという希望でした。そのテーブルは無垢材のものだったので、直せますよとお引き受けしました。そういった修理の仕事もすごく好きですね。

─長く使おうとしてくれている人がいるのは、うれしいことですね。

そうですね。なので、依頼にはできるだけ応えたいなと思っています。

そのお客様から「返事をくれたのはあなただけだった」と言われて、とても残念な気持ちになりました。せっかく長く使ってくれる人がいるのに、それを直す人が減っていってしまうのはとても惜しい。もちろん、短期間では直せないとか、希望通りにはできないということもあるとは思うんですが、まずは一度見て、話を聞いてみたいと思いますね。その姿勢はこれからも続けていきたい思っています。

─最後に、クリエイティブ分野で働きたい人や勉強中の方にメッセージをお願いします。

そうですね。僕が若かった頃と比べて、情報をたくさん得られる時代になっているじゃないですか。気になることがあればすぐに調べられるし、気になる人がいたら、SNSでつながれたり、会いに行けたりもする時代だと思うんです。なので、自分で考えて形にすることも大事ですけど、周りとたくさん関わって、教わるっていうことをどんどんやるのがいいんじゃないかなと思います。出会いの分だけ、経験した分だけ、その人自身の糧になり進むべきところの選択肢が増えるのではないかと思います。

取材日:平成30718
聞き手:仙台市地域産業支援課、菊地 正宏

 

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水越 卓也

仙台を拠点に家具・建具のデザイン制作。店舗・住宅マンションの内装設計施工を行っております。

設計事務所にて大型商業施設、病院ほか住宅などの設計業に従事した後、もっと身近にものづくりを感じたいと思い創ること造ることを原点から学び2006年に独立。

同年に空間・家具デザイン、制作を主とするdessert(デザート)を設立。

デザインから施工、取付までトータルで行っているのでお客様の反応が身近で感じられる。そんな環境で日々ものづくりに勤しんでおります。 デザートのように、デザートのような満足感を感じていただけるように心掛けております。

instagram. https://www.instagram.com/likedessert/

Web. http://dessert-furniture.com/

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