ライターバトン -5- 「魔法の言葉は「仕事と称して」」
仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。
魔法の言葉は「仕事と称して」
話を聞きに、あちこちへ
浮き草稼業とはよく言ったもので、日々駄文を書き連ねては無理くり生活の糧へ変換している私ですが、これだからライター業はやめられないという点を挙げるとすると「仕事と称していろんな人の話を聞けること」ではないでしょうか。
ある日は予約の取れないレストランのスターシェフ、またある日は縁結びのパワースポットとして名高い神社の宮司さん、その次の日は念願のオーダーメイド一戸建てに引っ越した4世帯大家族、また別の日は南三陸の海に雄々しく網を投げかける漁師たち…など、バラエティに富んだ方々とお会いしてはお話を伺う毎日。ロングインタビューともなれば話の内容も一気に濃く深くなり、それらを文字に起こして彼らになりかわりながら次々原稿をまとめていると、まるで自分が軽い多重人格者になってしまったかのような気分に陥ります。特に深夜は(笑)。
“書く”よりも“聞く”がすき
正直、原稿を書く作業よりも誰かにインタビューしている時間の方が好きな私です。どちらかというと人見知りでさほどオープンな人間ではないのですが、「これは仕事だから! 先方だって質問されに来ているわけだから!」という免罪符を盾にズケズケと相手の懐に飛び込めてしまう、ある意味自由で役得な時間だと思うのです。
企画によっては座談会など大人数が集まる場でコメントを取ることもあります。まんべんなく全員から言葉を拾うため、そんな時の私はさながら中居くん気取りでその場を(かき)回すMC。引っ込み思案で寡黙そうな人にはあらかじめ「一番最後にお聞きしますので、ゆっくり考えておいてくださいね~」と心の準備をさせてから、「それではお待たせしましたー!いざ!」と突然ハードルを上げて他メンバーの笑いを誘ったりもします。場が和んでナイスなコメントが引き出せたかなーと思えたら、心の中で静かにガッツポーズ。
こんな性格じゃないよね私…と我に返ることもありますが、笑いがこぼれる中でポッと発せられた言葉の内側にこそ、潜んだ本音の妙や垣間見えるその人らしさがあるような気がしませんか?
こんな世界が私の隣にあったなんて
ごくたまに、出演映画のPRに訪れた俳優さんや女優さんのインタビューといったご褒美案件に遭遇することも。でも私が好奇心をそそられるのは、“普通に生活している一般の人の仕事の話”です。
「私の仕事なんてごくごく普通ですよ…」と遠慮がちにおっしゃる人ほど、ご自身の特異性に気付かないまま興味深い生業に従事されているもの。どのお仕事現場も十人十色、新鮮でとても面白い! たとえば子供の頃から数えきれないほど折ってきたプッチンプリンの“プチッ”という爪。あの絶妙な強度を開発した企業の研究室でそのノウハウを受け継ぎながら新たな食品加工容器をつくり続ける人がいれば、業務用ドライアイスのスペシャリストとして様々なスーパーのニーズに合ったドライアイスを卸していく人がいる。あらためて世の中というのは、いろんな種類の仕事に携わる人々で成り立っているんだなぁと実感しますよね。
そんな風な生き方もあるんだ。
こんな世界が私の生活の隣に存在していたなんて…。
今日もまた、仕事と称していろんな人の話を聞きながら、心ひそかにそんなロマンを感じている私なのでした。
次回
続いてバトンを渡すのは、球場の応援席でビール片手にお会いしてばかりいる先輩ライターの臼井知子さん。かっちりした教育系の取材がお得意な反面、その魅力は天衣無縫な素顔にありというザ・ギャップ萌えなお方!
-4-「師匠は髪様」> -5-「魔法の言葉は「仕事と称して」」> -6-「手前味噌、バンザイ!」
鈴木 紘子
大学進学のため関東へ。卒業後は都内の編集プロダクション、出版社勤務を経て、生まれ故郷である仙台へUターン。今年はじめて個人の年代記を手がけました。